日々のしおり

熱中症、「治った」あとが実は長い ― ある患者さんの回復記録から

季節と共に

この記事について

定期的に通院してくださってる患者さんご自身の記録を基に、解説いたしました。

 今年の夏は、例年にも増して暑さが厳しく感じられます。

 「熱中症になりかけた」「なんとなく体調がすっきりしない」という声を、診療の中でもよく耳にするようになりました。

 先日、ある患者さんが、ご自身の体調の変化をとても丁寧に記録して共有してくださいました。その記録が、熱中症からの回復期にどんなことが起こりやすいか、そしてどう過ごせばよいかを考えるうえで、多くの方の参考になると感じましたので開示いたします。

「なんとなくおかしい」から始まった

 その方の不調は、はっきりとした症状というより、「なんとなくおかしい」という感覚から始まりました。

– 夕方から強い眠気とあくびが続く
– 頭がボーっとして、意識がはっきりしない感じがある
– でも「疲れているだけだろう」と、そのまま仕事を続けてしまう

 熱中症というと、めまいや吐き気、けいれんといった急性期のわかりやすい症状をイメージしがちですが、実際にはこうした「気力が抜けたような眠気」がサインになっていることが少なくありません。
 この方の場合様々な状況から、気が不足している(虚証)のではなく、身体のどこかで気が詰まっている(実証)と判断いたしました。

 体温を測ると37.0℃。平熱よりわずかに高い程度でしたが、水分と経口補水液を摂り、首や脇の下、股関節といった太い血管が通る部分を冷やしてから休むという、基本に忠実な対応をされていました。

回復期に現れた「揺り戻し」

 翌日以降、体温は36.5〜37.0℃の間を行きつ戻りつしながら、次のような症状が入れ替わり立ち替わり現れました。

– 強い頭痛
– 首すじのピリピリとした痛みが、体のあちこちに移動する
– 下痢や軽い吐き気
– 日によって「スッキリ起きられる日」と「重だるく起きる日」がある

 一つひとつは軽い症状でも、こうした揺り戻しが数日続くのが、熱中症の回復期の特徴です。体はすでに「治ろう」として働いているのですが、その調整の過程そのものが、だるさや違和感として感じられるのです。

 印象的だったのは、ご本人が症状がはっきりと表れるときは「息苦しさを感じる」のでは?と指摘すると、記録を通して自分で気づかれました。これは、みぞおちで「気」「熱」「水」が渋滞を起こして詰まっている状態です。(実証)

一週間後、再び ― 「治った」の先にある落とし穴

 いったん落ち着いたかに見えたこの方でしたが、一週間ほど経った頃、また同じような不調に見舞われました。今度は出社した日に、頭がぼんやりする感じに加えて、手にしびれが出るほどの状態になり、ほとんど仕事にならず早退することになったそうです。

 少し養生してから、意識して汗をかくように体を動かしてみたところ、今度は思いがけない反応が現れました。

– 汗をかき始めると、胸のあたりに熱が上がってきて、詰まるように痛くなる
– その痛みが治まると、今度は肩甲骨から肩、耳のあたりにかけて痛みが移動する

 一度治ったつもりでも、暑さがぶり返せば同じような不調が繰り返される ― これは今年の夏に限らず、多くの方に起こりうることです。「もう大丈夫」と油断した頃に、また似たような症状が出てくるのは、決して珍しいことではありません。
 このような方の基礎には、大抵強いストレスによる気の鬱積があります。

東洋医学から見ると ― 「汗」と「気」のバランス、そして熱の「渋滞」

 東洋医学では、暑さによる不調を、単なる体温の問題としてではなく、「熱」と「水」、そして「気」の巡りの乱れとして捉えます。

 今年のように暑さが厳しい年は、

– 汗をかきすぎると、体力(気・水)を消耗してぐったりする(虚証)
– かといって、冷房で汗を全くかかないでいると、体の内側に熱がこもってしんどくなる(実証)

 という、非常に微妙なバランスの上に体調が成り立っています。「汗をかけばよい」「冷やせばよい」という単純な話ではなく、そのときの自分の状態を見ながら加減する必要があるのです。

 また、眠気や息苦しさについては、みぞおちのあたりが詰まって、気(エネルギー)がスムーズに上に巡っていかないために起こっている可能性があります。ため息が増えたり、なんとなく胸のあたりが詰まった感じがしたりするのも、同じサインであることが多いです。

 再発時に見られた手のしびれや、胸から肩・背中へと移動する痛みも、同じ流れの中で理解できます。
 体内にこもった熱が外へ抜けようとするとき、その通り道である体表や手足の末端で、熱がうまく流れきれずに「渋滞」を起こすことがあるのです。
 渋滞している場所によって、しびれとして感じられたり、痛みとして感じられたりします。痛みが胸から肩甲骨、耳の方へと移動していったのも、熱がその渋滞を少しずつ抜けていこうとする過程だったと考えられます。
 鍼灸治療では、みぞおちのうっ滞を取り去る刺絡という方法を取る場合が多いです。

回復期・再発時を過ごすためのヒント

 この記録から、暑い季節の体調管理のヒントとして、次のようなことが言えそうです。

1. **「疲れているだけ」と流さない**
 夕方以降の強い眠気やボーっとする感じは、熱がこもり始めているサインかもしれません。早めに休息と口渴が感じられたら水分補給を。

2. **尿の色を毎朝チェックする習慣を**
 記録の中でも、朝の尿の色が体調を判断する目安として繰り返し使われていました。色が濃い・少ないときは、水分と電解質が不足しているサインです。

3. **「治った」と思ってからの数日、そしてその後もしばらく丁寧に過ごす**
 熱が下がっても、体温や体調が数日にわたって揺れ動くのは自然な経過です。さらに、一度落ち着いた後も油断せず、暑さが続く間は同じような不調がぶり返しうることを心に留めておきましょう。

4. **汗をかくときは「入浴」で緩やかに**
 意識して汗をかこうとする際、外での運動などで急に汗をかくと、かえって抜けようとする熱が渋滞を起こし、胸の詰まりのような不調につながることがあります。湯船に少し長めに浸かるなど、緩やかに汗を促す方法のほうが体への負担が少ない場合があります。

5. **手足のしびれや、体表を移動する痛みは「熱が抜けようとしているサイン」と捉える**
 不快な症状ではありますが、こうした感覚は体が熱を外に逃がそうとしている過程で起こることがあります。ただし、症状が強い場合や長引く場合は、自己判断せず専門家に相談してください。

6. **自分の体の変化を観察し、記録してみる**
 「今日はスッキリ起きられたか」「息苦しさはあったか」「汗はどうだったか」。こうした小さな記録の積み重ねが、自分に合った過ごし方を見つける手がかりになります。
 ご自身の身体が現す小さなサインを記録しておくのは、自分自身への気づきのためにも大事なことです。

おわりに

 今年の暑さは、昨年に比べてさらに炎暑の度合いがきついです。

 私も例年、お昼休憩には淀川河川敷公園を軽くジョギングして発汗を促していました。この夏はウォーキングに切り替えましたが、それでもかなり汗をかきます。汗をかいた後、すっきりとするのが適度な発汗の目安です。

 暑さとの付き合い方に、絶対の正解はありません。今年のような厳しい暑気の中では、汗をかきすぎてもしんどく、かきすぎなくてもしんどい ― そんな繊細な調整が、誰の体にも求められています。一度回復しても、暑さが続く限り、同じような不調が形を変えて訪れることもあります。

 だからこそ、自分の体の小さな変化に耳を傾け、「今日はどうだったか」と振り返る習慣が、何よりの養生になるのだと思います。

過去ブログも、ぜひご参考になさってください。
東洋医学に学ぶ夏の養生法 ― 汗のかき方が秋の不調を左右する

金剛山 国見城址から見上げた空

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