空を見上げると、その表情は一日として同じ日はありません。晴れていたかと思えば雲が広がり、雲の切れ間からふと光が差し込みます。風もまた、強く吹く日もあれば、凪いでいる日もあります。
東洋医学では、こうした自然の移り変わりと、人の心の動きは深く響き合っていると考えます。
私たちの心もまた、喜んだり、悲しんだり、怒ったり、楽しくなったり、時には重く沈んだり、ふっと軽くなったりと、絶えず変化しています。それは心が不安定だからではなく、生きている証として、ごく自然に起きていることなのです。

「いつも心穏やか」が健康なのではない
心の健康というと、「いつも機嫌よく」「常に前向きに」というイメージを持つ方も多いかもしれません。けれど東洋医学が大切にしているのは、少し違う視点です。
大切なのは、喜怒哀楽のさまざまな感情が、一つのところに留まらず、自然に巡っていくことです。
悲しみがあれば、いつかは和らいでいく。怒りがあれば、いつかは静まっていく。喜びもまた、そのままずっと続くのではなく、次の感情へと移り変わっていきます。
その「巡り」がスムーズであることこそ、健やかな心の姿だと考えられているのです。

感情が「滞ってしまう」とき
とはいえ、現代の暮らしの中では、この巡りが滞ってしまうことがよくあります。
忙しさに追われて自分の気持ちに向き合う時間がない。イライラしても、その場では飲み込んでしまう。悲しくても、涙を我慢してやり過ごしてしまう。
そうやって感情を押し込め続けていると、まるで風の止んだ空に同じ雲がずっと居座っているように、心の中に重さが溜まっていきます。胸のあたりがつかえるような感じ、ため息が増える、なんとなく身体が重だるい――そんな形で身体にも影響が出てくることがあります。
東洋医学では、感情は「気」の働きと深く結びついています。感情が長く滞ると、気の巡りも滞り、それが身体の不調として現れることがあると考えます。
心が滞れば身体にも表れ、心がのびやかに巡れば、身体もまた自然と整っていくのです。
感情を「消す」のではなく、「巡らせる」
ここで大切な視点があります。それは、「感情を消すこと」と「感情を巡らせること」はまったく別だということです。
心を整えようとするとき、私たちはつい「悲しまないようにしよう」「怒らないようにしよう」と、感情そのものを抑え込もうとしてしまいます。けれどそれは、空に浮かぶ雲を無理やり追い払おうとするようなものです。かえって流れを止めてしまいます。
必要なのは、雲がやがて風に流されていくように、感情もまた自然に通り過ぎていける道を、自分の中に用意してあげることです。
そのためには、頭で考えるのをいったん止め、その感情を否定せず、そのまま受け止めてあげること。そして、その感情をただ味わいきることが大切です。
感情の巡りを助ける方法は、決して難しいものではありません。
・深く、ゆっくりと呼吸をする
・身体を軽く動かす
・誰かに気持ちを話してみる
・我慢せず、泣きたいときは泣く
どれも特別なことではありません。けれど、こうした小さな行いが、滞った心にふたたび風を通し、巡りを取り戻す助けになります。
中でも呼吸は、いつでもどこでも、自分ひとりで始められる、いちばん身近な入り口です。
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風通しの良い心でいるために
空模様が変わり続けるように、私たちの心も変わり続けていいのです。同じように、体調にも良い日とそうでない日があって当然です。
大切なのは、無理をして天気をずっと晴れに固定しておくことではありません。曇る日も、雨の日もあっていい。ただ、その天気がいつまでも同じ場所に留まらず、風通しよく移り変わっていくことです。
東洋医学では、そのように心と身体がともに調和している状態を「心身一如」と考えます。
心にも、空と同じように風が通っている。
そんな毎日を大切にしていきたいものですね。
感情と身体のつながりについては、東洋医学ではさらに詳しく説明されています。ご興味のある方は、「感情と病気」の記事もご覧ください。





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