ブログ「鍼道 一の会」

脾の臓象

  脾の臓は、後天の元気の源であるため非常に重要な臓であるが、卦を見ると坤地f:id:ichinokai-kanazawa:20200727070141j:plainである。

 このことから脾の臓に陽気は存在せず、常に心腎の陽気によって生理機能が営まれていると理解することが出来る。

 つまり、円滑な心腎(神志)相交によって受動的に生理機能が作用しているということである。

 このように文章化すると、あたかも脾気という独立した「気」が存在しているかのようであるが、分けて分けられないものを認識する際に、どうしても一旦は全体から切り離して論じざるを得ないのである。

 実際の臨床においては、脾気に問題が生じた場合、天地陰陽の相交の流れの中で問題の本質を捉える必要がある。

 いってみれば、心腎の相交状態の現れが、脾気だともいえるのである。

 口に何を入れるのかは人間の意志であっても、喉を通過した後は天地陰陽の神なる働きに任せるしかないからである。

 この神に下す鍼は、大自然の理に従う鍼であってこそ通ずるのである。

 

【概要】

 卑は会意文字で、小さな匙を手に持つ姿とされている。大きな匙を持つ姿は、卓で「すぐれる、たかい」であり、卑はそれに反して「いやしい、ひくい」の意味となる。

 中焦・脾胃は、自ら低くして飲食物の清濁が入り乱れる身体中央=中焦に位置し、他臓に穀気を分配している。また脾は肝と協調して清陽を昇らせ、胃は腎納気を後ろ盾とした和降作用により濁気は下降する。

 また脾は、天・人・地の中央であり、天気と地気が交流する場である。従って中焦の脾胃と肝胆は、上焦・下焦の気の交流の枢となる。(脾主昇、胃主降=昇清降濁)

 脾は胃と協調して飲食物から穀気を生成し、主に肺へ穀気の運化と津液運化が行われるので気血生化の源と称されている。

 

 「臓腑経絡詳解」<岡本一抱>では、脾胃を石臼にたとえ、下の石を胃とし上の石を脾として取っ手を手足としている。(脾主四肢)

 手足(取っ手)をしっかり運動させると、飲食物の消化を促すことになり、逆に手足が重だるいなどの症状は、脾胃の機能低下もしくは水湿が邪気となって脾気を阻んでいると考えることができる。(下図)

 

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 また岡本一抱の臓象図は、胃の上にあって揉む図となっている。

 反対に、石臼の穴に入れる穀物が多すぎたり、また水分や油分が多いと石臼は回りにくくなるので、手足が重く感じるようになると連想することが出来る。

       

【位置】 

 十一椎下 脊中穴に付着

  

【形状と臓象】

 

a, <刀鎌の如し>

 薄く平べったい形状であるが、この形状からは、脾の臓の機能をイメージすることは難しい。

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 上図・石臼のイラストのように、脾は四肢と関係が深く脾がしっかりと動くことで胃もまた正常に機能する。従って適度な運動は胃の受納・腐熟・和降作用を促進し、運動不足になると胃気の停滞を来して食欲が減退する。

 

 

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c. 坤・地 f:id:ichinokai-kanazawa:20200727070141j:plain

   象卦は順で万物を生み出す母なる大地である。天・乾の創造・造化に従って成長化育する。三爻の全てに陽が無いことから、脾が機能するためには、上焦・中焦の陽気に頼ることになる。

 

b, 「脾は燥を好み湿を悪(にく)む。胃は潤を喜び燥を悪む>

 脾の臓は陰気が多いので、過剰な水分は脾気を損ないやすく、梅雨などの外湿の影響を受けやすい。

 反対に胃は陽気が強いため、防衛力と異化作用にすぐれているため燥を嫌う。したがって、傷寒六経の陽明病では、潮熱、口渴、便秘(実秘)などの燥熱の状態が中心となる。

 

c、脾統血

「脾蔵営」<霊枢・本神八>とあり、営血を生成する外に、脈外に漏れ出さないように腎の固摂作用と共に統血・摂血する。

 

d、「諸濕腫滿.皆屬於脾.」<素問・至眞要大論篇 七十四>

 湿は天の六気中、寒と共に陰邪であり、湿症・水症が現れれば、外因・内因の如何を問わず、先ず脾の状態を伺うことを述べたものである。

 

【五行属性】

 

1. 五方・中央、五季・土用、五能・化

 脾は、五方では中央に位置し、後天の元気の中心となる。

 土用は、各季節の変わり目に相当するが、五行論的には、春夏と陽気が長じ、秋冬で陽気が衰えるその間の夏の土用(長夏)に配されている。

 一日では、13時から17時に相当する。

 また五能のうちの化とは、異なる性質に転化することを意味し、変とは動きのことである。脾は、飲食物を精気と糟粕に化し、精気は臓に、糟粕は腑に受け渡すことから、気血生化の源と称されており、時間軸においても陰陽が転化する枢に位置する。

 

2. 五竅・口 五液・涎

 口は、口腔全体を指し、口腔は内臓腑の延長であり、口内の味覚と機能は、脾の臓に直結している。

 涎とは、無意識に自然と湧き出てくる津液のことで、脾気の昇清作用によって生じる。脾気の昇清作用が失調すると、口乾と同時にめまいや口乾が生じやすいのはこのためである。

 

3. 五志・思慮

 思慮は結ぶ作用があるので、適度な思慮は冷静沈着な行動を促すが、過度になると気が結んで動けなくなる。気が結ぶと肝疏泄と拮抗して肝脾不和となって直接心神に累が及び、長期化すると心脾両虚へと移行する。

 

4. 五味・甘 五能・化

 脾は四方の中央であり、すべての飲食物には甘味が備わっている。適度な甘味は緩める作用があり、肌肉はそのため柔軟さを保つことができる。甘味が過度になると、脾気滞となり水湿の停滞を生じ、さらに内熱を生じて肌肉も緩んで動き難くなり、情志も鬱して伸びなくなる。

 また消化に際しては、五能・化して陰陽転化するには、動きを遅くする必要がある(腐熟作用)が、過度な甘みは停滞を助長するので痞えを来しやすくなる。甘味の緩める作用は、急迫する症状を緩め、また過度な緊張や寒邪による拘攣・拘急を緩める。甘草、大棗、黄耆、地黄などが補気補血薬として湯液処方に用いられているのは、そのためである。

 

5. 五労・久座傷脾

 座位は、立位と臥位の間であり、手足を動かすことなく久しく座すると、脾気滞を起こしやすい。脾は中焦に位置し、胃と協調して昇清降濁を行う必要があるため、運動することにより手=上焦、足=下焦に気が昇降させる必要がある。(脾は四肢を主る)

 適度に運動を行えば、脾気がのびやかとなり食が進むが、久座すると脾気が鬱し、食が進まないだけでなく水湿の邪を産生して脾気虚へと移行し、そこに心神の鬱滞が長期もしくは急迫すると、肝脾同病から心脾両虚に至る場合がある。

 

6. 五主・肌肉 五神・意智

 肌肉は、皮毛の下部であり汗の源である営血が豊富で、外界の衝撃が臓に及ばないための緩衝帯ともなるため、柔軟性に富んでいる。肌肉の肥痩は、脾気を反映しており、また皮毛にも反映される。

 肌肉に水湿が停滞すると浮腫みが現れ、熱が鬱積すると痒みを伴って皮毛を赤く隆起させ、掻爬して出血を見ると軽減する。湿と熱が結んで湿熱となって肌肉に停滞すると、掻爬によって体液が出ても、痒みは治まらず反って悪化するようになる。さらに熱痰となると、島のように部分的に赤く腫れるようになる。

 

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