【三五一条】
手足厥寒、脉細欲絶者、當歸四逆湯主之。方三。
手足厥寒し、脉細にして絶せんと欲する者は、當歸四逆湯(とうきしぎゃくとう)之を主る。方三。
条文の冒頭に手足厥寒とあります。
これまで出て来た厥逆とか厥冷とは表現が異なっています。
また方剤名は当帰四逆湯ですから、四逆=手足が冷たいことを表現しているのですが、厥逆・厥冷と厥寒とはどう違うのかは、配剤を吟味すると見えてきます。
「脉細にして絶えんと欲す」は、317条 通脈四逆湯の「手足厥逆、脉微にして絶せんと欲す」に類似しています。
通脈四逆湯の配剤は、甘草2両 附子1枚 乾姜3両ですので、水が溢れて陽気存亡の危機にあることが分かります。
ところが当帰四逆湯を見ると、附子・乾姜・桂皮などが配されていませんので、陽気の存亡の危機とまでは言えません。
ですから当帰四逆湯は脉細にして絶えんと欲してはいても、他覚的にはそんなに手足の冷えが上がって来ることはないだろうと推測できます。
ですのでこの厥寒は、患者自身が自覚的に冷えを訴えても、術者が実際に触れるとそんなに冷えを感じないだろうとも考えられます。
臨床的にも、患者が強く冷えを訴えている割に、触れてみるとそんなに冷えを感じない場合が多々あります。
配剤をみてみましょう。
通草は、現代中薬学では、木通に相当します。
当帰 気味 甘辛苦 温
中薬学:補血調経 活血行気・止痛 潤腸通便 (血中の気薬)
新古方薬嚢:味甘温 中を緩め外の寒を退け気血の行りをよくすることを主る。故に手足を温め、腹痛を治し、内を調え血を和し胎を安んず、之れ当帰の好んで婦人血の道の諸病、諸の冷え込み等に用ひらるる所以なるべし。
木通 気味 苦寒
中薬学:降火利水、宣通血脈
新古方薬嚢:気味辛平気を通じ血を循らし、よく手足を煖む。故に当帰四逆湯に配伍せられ、手足の厥寒を治するに用ひらる。
ざっと当帰四逆湯の配剤をみると、桂枝湯に似ていませんでしょうか。
桂枝湯・・・・・桂枝、芍薬、炙甘草、大棗、生姜、ですね。
当帰四逆湯・・・桂枝、芍薬、炙甘草、大棗 ここまでは桂枝湯と同じです。
そして桂枝湯から生姜を外しています。
加えて、当帰、細辛、木通です。
桂枝湯の解説は、もうよろしいですよね。
細辛は、気味辛温、薬徴では「細辛主治、宿飲停水也」とあります。木通と一緒になって良く水を行らすのだと思います。
そして今ひとつはっきりとしない当帰ですが、中薬学では「血中の気薬」と称され、婦人の血の道の諸症に好んで用いられていることから、補血の作用と利気の両面があるように思えます。
このように考えますと、どちらかと言えば血虚傾向でしかも停水もあり、血に陽気を乗せて運ぶことが出来なくて脉細にして絶えんと欲し、手足厥寒する状態と理解することが出来るのではないでしょうか。
〔當歸四逆湯方〕
當歸(三兩) 桂枝(三兩去皮) 芍藥(三兩) 細辛(三兩) 甘草(二兩炙) 通草(二兩) 大棗(二十五枚擘一法十二枚)
右七味、以水八升、煮取三升、去滓、温服一升、日三服。
當歸(とうき)(三兩) 桂枝(三兩、皮を去る) 芍藥(三兩) 細辛(三兩) 甘草(二兩、炙る) 通草(二兩) 大棗(二十五枚、擘く、一法に十二枚とす)
右七味、水八升を以て、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服し、日に三服す。
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