ブログ「鍼道 一の会」

11.太陽病(上)桂枝湯の方意

  方剤の中身を俯瞰しますと、甘味の剤が2味、辛味の剤が2味、酸味の剤が1味ですね。

 ここからは、筆者のイメージですので、みなさまどうぞご意見くださいね。

 酸味芍薬で気を中焦に集め(主に陰気)結びを解き、凝り固まって動かなくなった胃気を緩めます。

 甘味の2剤炙甘草・大棗で中焦の気を緩ませ、留まらせて熱を持たせます。

 辛味の生姜で熱と水を散じ、桂枝が熱と水を体表に持って行き発する。

 

 その上で桂枝湯を服用してしばらくしてから、熱く薄い粥をすするのでしたね。

 粥は粳米ですので、穀気を補って津液と共に正気を補います。

 総じて、正気を中焦に集め、その勢いで上に持って挙げて、体表から汗を発して寒邪を駆除する。

 どうでしょうねぇ、イメージつきますでしょうか。

 いわば、ペットボトルロケットのようなものです。

 

 桂枝湯にさらに芍薬3両を加えると、後に出てきます太陰病の桂枝加芍薬湯(279条・テキスト131ページ、以下P131)になります.

 

  さらに膠飴(麦芽由来のアメ)を加えるとさらに補剤として強力な太陰病の小建中湯(100条・P77)になります。

 吉益東洞は、この小建中湯を瀉法に働くように使っています。

 確か患者は、傾くような吐下をして完治してたと思います。

 みなさま、どういうことかを考えてみてください。

 『補瀉論』、一口では語れない奥深さがありますでしょう。

 

 ちなみに、最近疲れやすくって食欲もないし・・・などと言って、虚実をしっかり見極めることなく安易に補剤の代表・小建中湯を服用しようものなら、なが〜く不調が続きます。

 甘味の膠飴が配されているからです。

 もしくは、実をより実に持って行って、激しい瞑眩とともに自然瀉法となって邪が駆逐されて快調になるかもしれません。

 が、中途半端にやると悪化して苦しくなりますので、そこは術者の確たる診立てと信念が必要となってきますね。

 

 さて反対に、桂枝湯から芍薬を去りますと桂枝去芍薬湯(21条・P48)となり、気が胸に集まった胸満を肌表から発する方剤となります。

 病位が桂枝湯より、少し浅い場合です。

 

 ここで紹介した方剤は、それぞれ記載されてる条文に至ったところで、もう一度解説いたします。

 

 条文とテキストページを付記していますので、先読みしておいて下さればと思います。

 

 面白いのは、この芍薬の量いかんによって、対象となる病位が違ってきます。

 桂枝湯が体表に赴くのか、中焦に留まるのかですね。

 

 まとめますと、桂枝湯はある程度中焦を意識した発汗解表=瀉法の方剤と言えると思います。

 どうでしょう、わずか芍薬1味の加減によって、薬剤の赴くところが違ってくるのですね。

 鍼でしたら、先ず病態把握に非常に有意であること。

 そして空間的にどこに取穴するのかという選択の目付にもなります。

 この方意を理解して気の動きをとらえることが出来ると、鍼の治療にも応用ができることをご理解して頂ければと思います。

【一二条】

太陽中風、陽浮而陰弱、陽浮者、熱自發。陰弱者、汗自出。嗇嗇惡寒、淅淅惡風、翕翕發熱、鼻鳴乾嘔者、桂枝湯主之。方一。

太陽の中風、陽浮にして陰弱(いんじゃく)、陽浮なる者は、熱自ずと發す。陰弱なる者は、汗自ずと出ず。嗇嗇(しょくしょく)として惡寒し、淅淅(せきせき)として惡風し、翕翕(きゅうきゅう)として發熱し、鼻鳴(びめい)乾嘔(かんおう)する者は、桂枝湯之(これ)を主る。方一。

〔桂枝湯方〕

桂枝(三兩去皮)芍藥(三兩)甘草(二兩炙)生薑(三兩切)大棗(十二枚擘)

右五味、㕮咀三味、以水七升、微火煮取三升、去滓、適寒温、服一升。服已須臾、歠熱稀粥一升餘、以助藥力、温覆令一時許、遍身漐漐微似有汗者益佳。不可令如水流離、病必不除、若一服汗出病差、停後服、不必盡劑。若不汗、更服、依前法。

又不汗、後服小促其間、半日許令三服盡。若病重者、一日一夜服、周時觀之、服一劑盡、病證猶在者、更作服。若汗不出、乃服至二三劑。禁生冷、粘滑、肉麺、五辛、酒酪、臭惡等物。

 

桂枝(三兩、皮を去る)芍藥(三兩)甘草(二兩、炙(あぶる))生薑(しょうきょう)(三兩、切る)大棗(たいそう)(十二枚、擘(つんざ)く)

右の五味、三味を※1㕮咀(ふそ)し、水七升を以て、微火(びか)にて煮て三升を取り、滓(かす)を去り、寒温に適(かな)えて、一升を服す。服し已(おわ)り※2須臾(しゅゆ)にして、熱稀粥(ねっきかゆ)一升餘(あまり)を歠(すす)り、以て藥力を助け、※3温覆(おんぷく)すること※4一時許(ばか)りならしめ、遍身(へんしん)※5漐漐(ちゅうちゅう)として微(すこ)しく汗有るに似たる者は益々佳(よ)し。水の流離(りゅうり)するが如くならしむべからず。病必ず除かれず。若し一服し汗出で病差(い)ゆれば、後服(ごふく)を停め、必ずしも劑(ざい)を盡(つ)くさず。若し汗せざれば、更に服すること、前法(ぜんぽう)に依(よ)る。

又、汗せざれば、後服は小(すこ)しく其の間を促し、半日許(ばか)りにして三服を盡(つ)くさしむ。若し病重き者は、一日一夜服し、※6周時(しゅうじ)之を觀る、一劑を服し盡(つ)くし、病證猶(な)お在る者は、更に作りて服す。若し汗出でざれば、乃ち服すること二、三劑に至る。生冷(せいれい)、粘滑(ねんかつ)、肉麺(にくめん)、※7五辛(ごしん)、酒酪(しゅらく)、臭惡(しゅうあく)等の物を禁ず。

 ※ 

1.㕮咀(ふそ):きざむこと

2.須臾(しゅゆ):しばらくの間

3.温覆(おんぷく):衣服を着たり布団に包まるなど、温かくしていること

4.一時許(ばか):約2時間

5.漐漐(ちゅうちゅう):にじみでる様子

6.周時(しゅうじ):一昼夜

7.五辛(ごしん):ニンニク、ニラの類の類であろう

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