ブログ「鍼道 一の会」

漢方による流行感染症の証治

症例

この記事について

 現在、社会問題となっている感染症治療を漢方をお勧めして、非常に短時間で治癒した症例です。
 患者様は、筆者をおもんばかって往診を固くご辞退されたので、電話を通じての遠隔治療となった症例です。

 一向に治まらない昨今の感染症状況の中、当院にお越しの方の中にもチラホラと陽性反応者の方がいらっしゃいます。

 むろん、発病に至った方もいらっしゃいます。

 今回は、諸般の事情により来院が叶わず、なんとか助けてほしいとご本人の妹様から連絡があり、電話対応で漢方薬を用いて、非常に短時間で治癒に至った例です。

経 緯

 火曜日から、悪寒、発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛などの症状が現れ、病院で陽性と判定され、鎮痛解熱剤のアセトアミノフェンを服用するも、悪寒以外の症状変化はないとのこと。

 とりわけ肩から腕の付け根が激しく痛み、関節痛も激しく、苦痛で睡眠も十分にとれないと、金曜のお昼ごろに連絡を受けました。

問 診

 初発の症状からは、表寒実証の麻黄湯証であったと推測されるも、アセトアミノフェンを服用して以後、悪寒が消失していることが腑に落ちず、太陽・少陽・陽明の三陽経のどの病位であるのかを特定するために時間をかけてお聞きしました。

 すると、アセトアミノフェン服用後、下痢症状が現れ、飲み物も少し冷たいものがおいしく感じられることを突き止め、太陽と陽明の合病(経過から見れば並病ですが)である、葛根湯証の自下利であると判断。

【第三二条】 太陽與陽明合病者、必自下利、葛根湯主之。

証 治

 汗法を用いて瀉す目論見を立てました。

 妹様に市販されている葛根湯を買い求めてお姉様に服用することをお勧めし、1回目を服用してもらい、以後、お姉さまと直接電話でのやりとりを開始。

【金曜当日、午後2時】

 1回目の服用後、間もなく関節痛が消失するも、他の症状に大きな変化はみられず。

【 金曜当日、午後4時】

 こちらから連絡を入れてお聞きすると、目論見である発汗がみられないので、さらにもう1剤を服用するように勧めました。

【 金曜当日、午後6時】

 再び連絡を取り、食後(正気が補われた後)に、わずかに発汗がみられ、頭痛・筋肉痛などの症状は消失するものの、まだ解熱には至らないとの事でした。

【 金曜当日、午後7時】

 相変わらず解熱に至らず、発汗不足と判断してさらに1剤を服用するようにお勧めしました。

 おそらく、夜間に大量の寝汗が出るであろうと予測されたので、夜間に発汗した場合を想定して、汗を拭きとるタオルと肌着等の着替えを枕元に置いておくようにお伝えしました。

【翌日土曜 午前8時】

 連絡を入れたところ、果たして夜間に大きく発汗が現れ、熱も下がったとのことで、今朝は気分も身体も久々にさっぱりとしましたと、明るい声で伝えてくださいました。

漢方の視点

 葛根湯は、いわゆる風邪薬として一般的に広く知られていますが、東洋医学では、いわゆる風邪薬というものは存在しません。

 存在するのは、同じ病原体に犯されても、それぞれの素体によって様々な病態が現れるので、それを『証概念』で捕捉して随証治療を行うための薬=気を動かす道具という事です。

 ○○に効くという一般的なお薬の概念とは、大きく異なります。

 例えば、頭痛に効くという漢方薬は、無いのです。

方 意 ー 鍼への応用

 葛根湯は、桂枝湯に葛根、麻黄を加えたものです。

 基本的には発汗剤=瀉法のお薬ですが、中医学的には補剤も配合されてます。

 人体を圧力容器=ペットボトルロケットと想定します。

 外からやってきた病邪をはねのけさせるのですから、ペットボトルの圧力を高めておいて(桂枝湯)、麻黄でそのキャップを外すようなイメージです。

 この場合のキャップは、肌表=汗腺という事になります。

 瀉法(麻黄)するために補法(桂枝湯)を行うと言った感じでしょうか。

 このようにイメージできると、では鍼ではどうするのかという事が観えてきますよね。

 鍼を用いるのであれば、直接身体に触れることが出来るのですから、その人に合うように、もっと細かく適切な配穴が可能です。

 ですから、たとえ鍼灸師であっても、傷寒論を理解しておけば、外感病で苦しむ患者さんのお役に立つことが出来るのですね。

 要は、鍼も漢方薬も共に『気を動かす道具』です。

 違いは、外から内に働きかけるか、内から外に働きかけるかの、アプローチの場所の違いだけですね。

服用の間隔について

 証治を開始したのは、金曜の午後2時からで、午後7時までの約5時間の間に3剤を服用してもらい、18時間後に緩解に至った症例です。

 薬の服用法としては、1日3回服用と記載されていますが、東洋医学的には最初に立てた治療者の目論見を達成すべく、患者さんと密に連絡を取り、病態に応じて服用の間隔を決定します。

 このあたりのことは、傷寒論中の桂枝湯方及び葛根湯方に記載されています。

 (最末尾に資料として掲載しています。)

最後に

 筆者は、当初より現在流行している感染症は、東洋医学的に十分対処できると認識しておりまして、この症例の外にも往診等で鍼を用いた治療で治癒に導いております。

 病院での治療が受けられず、ご自宅で苦しんでおられる方に非常に喜んで頂いてます。

 今回の患者様は、筆者への配慮から往診を固くご辞退されまして、漢方薬を用いての遠隔治療となった次第です。

 この症例をご覧くださった方に、ひとつだけお願いがあります。

 それは、現在流行している感染症に葛根湯が効く! と勘違いしないで頂きたいことです

 これは、腰痛に○○穴が効くという事と同じす。

 同じ病原菌に犯されても、その人の素体によって症状も「証」も異なってきます。

 そもそも、東洋医学では病原菌を認識する手段を持ち得ておりません。

 現代のように、病原菌の種類を特定して治癒に導くというよりも、どのように認識して治療すれば病原菌に犯された人体が回復するのかという、人体の正気(元気)の状態にこそ治療者のまなざしが注がれます。

 さらに言えば、病原菌は存在していても、感染はしていても発病しない身体作りに重点を置きます。

 季節に適った心身の在り様

 人との関係や物事に対して、思い煩うことなく心を安寧に保つ

 夜はぐっすりと寝て、朝は気持ちよく目覚める

 過不足なく、なんでもおいしいと感じられる食事と食卓

 毎日、気持ちのよい排泄がある

 東洋医学の養生の基本ですが、このように書いてる筆者も毎日となるとなかなか難しいものがあります。笑

 ですが、何か自分自身に異変が生じたときに、立ち戻る視点を持ち得ておけたらと考えております。

資 料

【桂枝湯方 抜粋・意訳】

 桂枝湯を服用しても発汗がみられない場合は、服用の間隔を促して、場合によっては半日で3服くらいさせなさい。

 病が重い場合は、夜間も服用させ、患者につきっきりになって病態を見守りなさい。

 それでも発汗がみられない場合は、発汗するまで更に煎じて2~3剤を服用させなさい。

 【葛根湯 方  抜粋・意訳】

 葛根湯1剤を作って、その内の1升を服用させ、衣服を着せるなどして少し発汗させなさい。

 あとは、桂枝湯の服用方法や禁忌に書いてある通りにしなさい。

 他の薬を服用する際にも、同じようにしなさい。

引用元 ブログ「鍼灸医学の懐」

辨太陽病脉證并治上 1-30条

【桂枝湯 方  抜粋】

又不汗、後服小促其間、半日許令三服盡。

若病重者、一日一夜服、周時觀之。

服一劑盡、病證猶在者、更作服。

若汗不出、乃服至二三劑。

辨太陽病脉證并治中(1) 31~80条

【葛根湯 方  抜粋・意訳】

温服一升、覆取微似汗。餘如桂枝法將息及禁忌、諸湯皆倣此。

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