三回目にしてやっと本題に入ってきました、医心方。
治病大体第一に入る前に、医心方全体の構成から。
巻一は治療に必要な事項に関して。
巻二は鍼灸に関して。
巻三から巻二十五までは疾病と治療に関して(他の事項も含まれますが大まかに書いてます)。
巻二十六は仙道、巻二十七は養生、巻二十八は房中術、巻二十九は中毒、巻三十は食養に関して記載されています。
技術については、巻一から。
一般の人にも知って貰いたい事柄に関しては巻三十から読むとその人に必要な事が順序立てて知る事が出来るようになっています。
見方を変えると、これは治療家が天人地の流れで読み通すことができるもので、構成に関しても丹波康頼は深慮を以て編纂されたあとが伺えます。
さて、治病大体第一についてですが、これも又幾つかの項目に分かれています。
①一番大切な心構え
②誤治について
③治病求本
④治療の種類と地域特性
⑤治療の要点 といった具合です。
まずは、①の心構えからですが、これは千金方から抜粋されています。
異病同治、同病異治という東洋医学独特の観念を技に体現する為には、脈診、兪穴、肌膚筋骨を詳細に区別する技術を積み重ねて、初めて人の心の一端を覗くことができる。
そのような事ができるのは、当に神授と言えるものであるが、これを目指すべきであること。
次に病を治そうとする人は、精神を安定させ、心を落ち着けて利己的な欲求を封印し、相手がどのような人であっても慈悲の心で当たらなければならないこと。
又往診の際には他の事柄に惑わされず、病を患っている人と気持ちを一つにすること。
そして、おしゃべり、嘲笑、だじゃれ、大騒ぎ、理屈を並べ立てる、他の人の批判、自分の名声自慢などをしないこと。
等が挙げられている。
そして、老子の言葉を引用し、以下のように述べている。
「人が陽徳を行えば、仲間が報いてくれる。人が陰徳を行えば、鬼神が報いてくれる。だから技
術をひけらかして金儲けをするべきでなく、死の際に自分の人生を誇り、幸せを感じるような者で
なければならない」
現代の状況に照らし合わせると、若干難しい部分もあるが、現在の医学書の冒頭にはこのように詳細に心構えを述べられているものは見受けられず、技術書が多いように思う。
そう考えると、一番初めに技術よりも大事であり、技術はもっていてもここに気づかない人が多く、ここに気づいた人だけが技術を単なる技術ではなく医術に昇華できるのである。
「医は仁術」という東洋医学の担い手の在り様を表現した言葉が、ここにしっかりと現れている。
東洋医学は、高度な技術を内包しながらも、これをいかんなく発揮するには、「医は仁術」という言葉と術者が一体となることこそが、この医学の神髄と確信する。
ことに古の智賢の深さに感謝したくなる。
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