肺の臓は、植物の葉に象られています。
葉と言えば、風で揺らぎます。
風と言えば、肝の臓ですね。
風は、寒熱の気が交流する際に生じます。
まるで連想ゲームのようですが、このように気の動きを先ずはイメージできるようになることが肝要です。
また『気一元』的に観ると、肺気という独立した「気」というものは存在しません。
上焦に至った「気」が、場所によってその作用と働きが変化するので、肺気や衛気、心気とかに便宜上名称を変えるに過ぎません。
すべては、全体性の中でその流れを捉えることが、臨床的には必須の視線です。
(時空間的に捉える)
そして臓象学によって、気血の生理作用を理解し、具体的に人体に表現されてる微細な変化を捉えて鍼を施します。
微細な変化をとらえるには、四診理論と実技が必要となって参ります。
さあ、先ずは肺の臓象を読んで下さればと思います。
【概要】
肺は形声文字で、市(はい)は草木が伸びて茂り、揺れ動くことをいう。また市(いち)は、象形文字でもあり、人が多く集まる場所に、高く標識を立てた形に象る。
したがって肺は、人体中最も高位に位置し、その時々の状況に即応して常に変動している臓である。(葉が風に揺れているイメージ)
また気管・肺・鼻・皮毛などは外界と直接接しており、非常に陽気が強く防衛力もまた強いところである。
反面、風寒・風熱・風湿などの外邪は、位置的にまず肺がこれを受けることになる。
さらに肺は意識・無意識領域に渡る感覚器でもあり、内外環境の変化に応じて呼吸の深浅・遅速、腠理の開閉などを行い、全身の気機を肝の臓と協調して行う。
「肺者、蔵之蓋也」 <素問・病能論四六>
肺の臓の別名は「華蓋」と称され、華とは、菊のように中央がくぼんだ花のことである。肺の臓は、他臓を上から覆うようであり、下位の臓腑の変調は全て肺の臓に現れるので、「標本」の標となりやすい。
例えば脾に生じた津液や痰は、肺に昇って停留し、喘息などの肺の病症を生じることになる。このことから「肺は貯痰の器、脾は生痰の源」と称され、標本と病因病理が理解されよう。
また肺は、経絡流注的にも理解されるように、中焦の気を受けてその機能を全うし、呼気・宣散は肝疏泄、吸気・粛降は腎納気によって営まれる。
肺の気は、すべて中焦・下焦からこれを受けて機能し、下焦の気は上焦・中焦の気を受けて機能する。このように生命は天地六合※・陰陽が相交して営まれており、上・中・下焦は独立して別々に機能しているのではないことを十分理解しておく必要がある。
※六合:東西南北に上下を加えた空間
<主な生理機能>
宣発と粛降の舞台となる。
気を主る(天の気の取り入れ口。呼吸を通じて気機を調節する)
肺は水の上源・通調水道
百脈を朝じる
治節を主る
天の気の取り入れ口
【位置】
胸椎第三椎下の身柱穴に着いている。
【形状と臓象】
a. 左右四葉計八葉
葉に象られていることから、内外環境の変化を受け、敏速に機能することが連想される。また左右四枚均等であることから、肺は左右均等に宣発(宣散)※粛降を行い、肝胆が左右・上下・内外の気機を調節する。
※宣発(宣散):宣は広く行きわたらせ、発は外へ発散して布くことである。人の気配であるとか汗など、津液を適時散布する機能。(上へ、外への気の動き)
b. 「肺者、蔵之蓋也」
蓋(がい)とは文字通りフタである。岡本一抱(1655-1716)は、肺の臓を鍋の蓋に例えており、中焦から昇ってきた穀気が、蓋である肺葉で水滴となって粛降※し、一部は蓋の穴から出る湯気のように腠理から宣散され体外に排泄されると解説している。(図h-1)
※粛降:粛とはつつしむ、引き締める、静かの意で 降は降ろす。
宣発とは逆の気の動きであり、下降する腎の蔵精・納気作用、胃の和降作用、大腸の伝導作用などの働きと協調する。(下へ、内への気の動き)
c. 肺は水の上源・通調水道
下位から昇ってきた湿気は肺で津液となり、粛降して腎の臓にまで下降する。また肺から取り入れられる天空の気(空気)の強い推動作用で、全身の津液を通じさせる。何らかの原因で、肺の水道通調作用が失調すると、顔面・手指を中心とした上半身に浮腫が現れやすい。
d. 「それ肺の臓、橐籥(たくやく)の如し」<臓腑経絡詳解・岡本一抱>
橐籥とは、火力を強めるために風を送る道具のことで、いわゆる「鞴=ふいご」である。神気や手足を強く早く動かすには、血を気に変化させることが必要である。(気化作用)そのため肺は、ふいごのように深く早く呼吸し、推動作用の強い天空の気を全身に回らし、気化作用を促進する。(図h-2)
e. 「諸気膹鬱皆属肺」<素問・至真要大論七四>
肺は高位に位置しているため、下位に生じた諸々の気はすべて肺に昇り聚る。(肺は、百脉を朝す)(参考資料-三才と五臓配置図参照)
肺に至った諸々の気は、何らかの原因で呼吸が浅くなると、よく気滞(鬱)を生じる。呼吸運動は、意識・無意識の両域にまたがっていることから、自覚的なストレスは意識的に深呼吸をすることで解消することができる。しかし、無自覚なストレスでは長期間に渡って呼吸が浅くなり、推動作用の低下から気滞を生じ、病的状態に陥りやすくなる。
また呼吸運動は、肝疏泄、腎納気が主っているため、心身の状態をよく反映する。
f. 肺管九節
九は陽数の極みである。肺管九節としているのは、常に外気が出入りしているため、非常に陽気(衛気)が強く、しかも節であることから、熱によって弛まないことに象っている。従って咽喉から気管にかけては、内熱が盛んであれば炎症が起きやすく、邪熱が一気に肺から肺管に衝き上げてきた場合、肺気が臓と気管に充満して鬱し、呼吸困難を来しやすい。
- 八卦…兌・沢 乾・天
乾・天の象卦は止むことの無い健やかな作用・働きで、万物創造の大いなる根源であるから、天の気を取り入れる呼吸がイメージされる。天から見ると健やかな呼吸は、人の成長老死に深く関係することになる。
また兌・沢の象卦は少女が口を開いて喜ぶ様子で、肺の宣散・宣発作用がイメージされる。
また卦は二陽一陰で、下に旺盛な陽気が多いが一陰が三爻に位置するので、表面は常に潤っているが乾きやすい傾向を表している。肺は、外界と接するところは適度に潤すが、乾燥と熱に傷害されやすいことを示している。
h. 「肺は、相傅の官、治節出ず。」<素問・霊蘭秘典論>
相傅(そうふ)とは、君主に仕える宰相のこと。宰とは、古代においては、首長が包丁を用いて獲物を切り分け、大人・子供の身体の大きさや状に応じて公平に分け与える役目を意味する。
治節の節とは、すべての動きを規定することであり、全身の気機※を規律正しく治めることである。
総じて肺は、その時々の状況に応じて呼吸を調節し、タイトに、しかも今現在最も必要としているところに気血を巡らす働きをする。
※気機:昇降・出入・左右の気の動き
【五行属性】
1、五方・西、五季・秋 五能・収
肺は、五方・西、五季・秋であり、一日では夕暮れ時(15時から17時)に相当する。
いずれも、陽気が潜み、陰気が盛んになり始める時期である。人体においては、五能・収の作用で衛気が徐々に体内に潜むことで眠気が訪れ、あくびは大きく天の気を吸い込むことで、推動作用を高め、陽気を循らそうとする動作である。
また人体の陰陽消長は、左右差があることを示しており、<難経>腹診における、左・東・天枢穴=肝、右・西・天枢=肺に一定の根拠を与えるものである。
2、五竅・鼻 五液・涕
肺気は、中焦・下焦の気を受けてその生理機能を全うすることができる。涕(てい)※=鼻水は、中焦の穀気の一部であり適度であれば粘膜を潤すが、津液が過剰であれば中焦から上昇して鼻水としてあふれ出す。また外感病などにより、腠理が閉じたり冷えると、行き場を失った過剰な津液は肌表や鼻に聚る。
また鼻には足陽明を始め、手足の陽経が複雑に流注しているため、鼻の症状は、問診その他の所見を合算して、しっかり病因病理を捉える必要がある。また粘膜は肌肉に相当するので、中焦・肝胆・脾胃の状態が現れやすいことも承知しておくべきことである。
※。涕(てい)は、泣くこと、なみだの意であるが、肝に涙とあるので鼻水と解釈した。
3、五志・悲
悲は消の作用があるので、悲しんで落涙が適度であれば七情の鬱積を消し去ることができる。しかし過度となると気を散じて意気消沈し、鬱すると肺気を傷り、全身に影響することになる。
4.五味・辛
辛味は発散作用があり、五能・収とは、陰陽関係にある。辛味の発散作用は、麻黄・桂枝など、発汗解表薬として湯液処方に用いられている。
5、五労・久臥傷肺
肺は、天位に位置するため、立位であれば粛降が容易である。長時間の就寝は、津液が下行し難くなり、津液が上焦で鬱して肺気を破りやすい。腎不納気などの虚喘となれば、寝ていることが出来なくなり、座位での呼吸が楽なのはそのためである。
6、五主・皮毛 五神・魄気
皮毛は、直接外界と接するため、衛気の盛んなところである。皮毛は、脾の摂血(摂汗)と腎の固摂作用(陰気)と、肝の疏泄作用(陽気)との陰陽関係により、環境変化に対応して衛気の巡りを調節する。
皮毛は全身を包む袋であり、気が出入りする場でもある。さらに皮毛は、身体の形を維持するだけでなく感覚器でもある。この皮毛の感覚は五感(視・嗅・味・聴・触覚)との関係が深く、また個体感覚の基となり自我の形成との関係が深い。
そして皮毛は、外界の変化に即応して起毛し衛気の保持などの調節をする。
五神・魄気は、<霊枢・本神第八>「並精而出入者.謂之魄.」とあり、この場合の精とは物質的なことを指しており、肉体を基盤として生じたり消えたり(出入り)する五感のことである。
五感は、心に通じると意識的、魂に通じると無意識的となり、肉体は意識的・無意識的に外界の状態に反応しながら、正常な生理機能を営む。
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