【一三八条】
小結胸病、正在心下、按之則痛、脉浮滑者、小陷胸湯主之。方六。
小結胸の病は、正に心下に在り、之を按じれば則ち痛む、脉浮滑の者は、小陷胸湯之主る。方六。
短い条文中に、大陥胸湯との違いを端的に書き著わしていると思います。
心下を按ずると痛むが、按じないと痛まないのですね。大陥胸湯証は、衣服が触れても痛んでいました。
大陥胸湯証は、脉沈緊でしたので、病邪が厳しく正気を阻んでいたのに対して、小陥胸湯証は、脉浮滑ですので、病邪はそんなに厳しくないのですね。
下図は、腹証奇覧のものです。
図の解説には、「胸に毒有りて胸高く、時々胸痛し、或は心煩し、或は胸たとえんかたなく悪く、所謂心痛嘈雜などどいうもの。この証多し」とあります。
図では、心下よりもむしろ胸の邪に重きを置いた図のように思えます。
次に腹証奇覧翼の図を載せます。
こちらの図の方が、条文の記載とぴったりときそうです。
図の解説は、「心下より下脘の辺りまでの間、硬くはりて、これを按せば痛み甚だしく、身を動かせば腹にこたえて痛み、甚だしきものは肩背強ばる。熱、胸中に聚るゆえんなり」とあります。
方剤の中身を見てみます。
新しく登場したのは、栝楼実(仁)です。
栝楼仁(実) 気味 甘寒
中薬学:清熱化痰 消腫散結 潤腸通便
薬徴:胸痹を主治するなり。傍ら痰飲を治す。
新古方薬嚢:味緩和にして血熱を除き燥きを潤ほし、気を通ず故によく胸脇部の疼痛を去り気血の通行を滑らかにすることをなす。
気味辛温の半夏と栝楼仁で痰飲を解き、苦寒の黄連は、心中煩悸を主るので、胸間を清熱します。
おそらく痰飲は心下・胸膈で結び、鬱して胸間に熱が生じたのでしょう。
ですので、条文には書かれていませんが、胸中に心煩があり、しかも痰飲壅塞しているのでしょう。
腹証奇覧に嘈雜(そうざつ)とありましたが、兼証として存在していてもおかしくないと思います。
嘈雜とは、空腹なようで食べようとするとあまり食べることが出来ず、モヤモヤとした煩がし、少し食が納まるとしばらくの間落ち着くといった症状で、痰火、肝胃不和、胃熱、などで生じるとされています。
方剤の中身を見ますと、「心中煩悸を主る」黄連、「痰飲嘔吐を主冶」する半夏が配されていますので、なんとなく胸騒ぎがして落ち着かない、痰火の熱が厳しいと精神異常も現れるかもしれませんね
139条と140条は、後人の攙入と思われますので、原文と読み下し文のみの記載となります。
〔小陷胸湯方〕
黄連(一兩) 半夏(半升洗) 栝樓實(大者一枚)
右三味、以水六升、先煮栝樓、取三升、去滓。内諸藥、煮取二升、去滓、分温三服。
黄連(一兩) 半夏(半升洗う) 栝樓實(かろじつ)(大の者一枚)
右三味、水六升を以て、先ず栝樓(かろ)を煮て、三升を取り、滓を去り。諸藥を内れ、煮て二升を取り、滓を去り、分かち温め三服す。
一三九.太陽病、二三日、不能臥、但欲起、心下必結、脉微弱者、此本有寒分也。反下之、若利止、必作結胸。未止者、四日復下之、此作協熱利也。
太陽病、二、三日、臥(ふ)すこと能わず、但だ起きんと欲し、心下必ず結して、脉微弱の者は、此れ本(もと)寒分(かんぶん)有るなり。反って之を下し、若し利止めば、必ず結胸を作(な)す。未(いま)だ止まざる者は、四日にして復た之を下せば、此れ協熱利(きょうねつり)を作(な)すなり。
一四〇.太陽病、下之、其脉促(一作縱)、不結胸者、此為欲解也。脉浮者、必結胸。脉緊者、必咽痛。脉弦者、必兩脇拘急。脉細數者、頭痛未止。脉沈緊者、必欲嘔。脉沈滑者、協熱利。脉浮滑者、必下血。
太陽病、之を下し、其の脉促(そく)(一作縱)、結胸せざる者は、此れを解せんと欲すと為すなり。脉浮の者は、必ず結胸す。脉緊の者は、必ず咽痛す。脉弦の者は、必ず兩脇(りょうきょう)拘急す。脉細數の者は、頭痛未だ止まず。脉沈緊の者は、必ず嘔せんと欲す。脉沈滑の者は、協(きょう)熱利す。脉浮滑の者は、必ず下血す。
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