ブログ「鍼道 一の会」

86.太陽病(中)112条 桂枝去芍薬加蜀漆龍骨牡蛎救逆湯

【一一二条】

傷寒脉浮、醫以火迫劫之、亡陽、必驚狂、臥起不安者、桂枝去芍藥加蜀漆牡蠣龍骨救逆湯主之。方六十。

傷寒脉浮、醫、火を以て之を迫劫(はくごう)し、亡陽すれば、必ず驚狂し、臥起(がき)安らかざる者は、桂枝去芍藥加蜀漆牡蠣龍骨救逆湯(けいしきょしゃくやくかしょくしつぼれいりゅうこつきゅうぎゃくとう)之を主る。方六十。

  傷寒で脈浮であれば、麻黄湯・桂枝湯で発汗解肌すべきところ、激しく発汗させて亡陽にまで至った状態だと分かります。

 火を以て迫劫というのは、どのような方法なのか分かりませんが、迫るように劫(おびやか)す勢いのある発汗法なのでしょう。

 そしたら驚狂になってしまったのですから、ちょっとしたことに反応して狂ったかのような状態になるのですね。

 この場合の、亡陽の意味がよく分かりません。

 少なくとも、少陰病ではないことは、方剤内容をみれば明らかです。

 そして「臥起安からざる」のですから、寝ても起きても落ち着かない様子です。

 桂枝去芍薬とありますから、P48 21条に「脉促 胸満」とありますから、亡陽というより虚陽上浮といった感じに近いように思います。

 ですので竜骨・牡蛎が加えられているのでしょう。

 蜀漆に関しては、よくわかりません。

 中薬学では、気味苦辛寒 小毒 で、涌吐剤との評価がされています。

 この方剤、新古方薬嚢では、「大火傷をした後に微熱があり、胸苦しく落ち着かないものに用いて効あり」とあります。

 大塚敬節も同じく、灸、蒸し風呂、コタツ酔い、火傷・湯傷などに服用させると著効を得るとあります。

 また蜀漆を用いないでも効果を得ていると記していますので、蜀漆は必須でないのかもしれません。

 また荒木性次も、蜀漆は入手困難で、代用品として「こくさぎ」を用いるも、不可であるとしています。

 総じてみると、桂枝去芍薬湯証に、蜀漆よりむしろ竜骨・牡蛎の薬能に重きを置いて理解することで十分ではないかと思います。

 その竜骨・牡蛎の「動」に関して、<腹診考>から引用してこの稿を終えるとします。

「動は、診するにドッキドッキ、ボッサボッサとして、泉の湧き出る如く、掌中に応ずるなり、動と悸とは、大同小異なり。心を潜めて診せざれば弁じ難し。

 動は脉動に非ず、ただ気が動ずるなり。凡そ動あるものは、物音に驚きあるいは目瞑あるいは安眠なり難し。」

 113条から116条は、原文と読み下し文のみの掲載です。

 

〔桂枝去芍藥加蜀漆牡蠣龍骨救逆湯方〕

桂枝(三兩去皮) 甘草(二兩炙) 生薑(三兩切) 大棗(十二枚擘) 牡蠣(五兩熬) 蜀漆(三兩洗去腥) 龍骨(四兩)

右七味、以水一斗二升、先煮蜀漆、減二升。内諸藥、煮取三升、去滓、温服一升。本云桂枝湯、今去芍藥、加蜀漆牡蠣龍骨。

桂枝(三兩皮を去る) 甘草(二兩炙る) 生薑(三兩切る) 大棗(十二枚擘く) 牡蠣(五兩熬(い)る) 蜀漆(しょくしつ)(三兩洗いて腥(なまぐさ)を去る) 龍骨(四兩)

右七味、水一斗二升を以て、先ず蜀漆を煮て、二升を減ず。諸藥を内(い)れ、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服す。本云う桂枝湯、今芍藥を去り、蜀漆(しょくしつ)、牡蠣(ぼれい)、龍骨を加える。

【一一三条】

形作傷寒、其脉不弦緊而弱。弱者必、被火必語。弱者發熱、脉浮、解之當汗出愈。

形傷寒を作(な)すも、其の脉弦緊ならずして弱なり。弱の者は必ず渴す、火を被(こうむ)れば必ず讝語す。弱の者は發熱し、脉浮なり、之を解するに當に汗出でて愈(い)ゆべし。

 

【一一四条】

太陽病、以火熏之、不得汗、其人必躁。到經不解、必清血、名為火邪。

太陽病、火を以て之を熏(くん)じ、汗を得ず、其の人必ず躁す。經に到って解せず、必ず清血す、名を火邪と為(な)す。

 

【一一五条】

脉浮、熱甚、而反灸之、此為實。實以治、因火而動、必咽躁、吐血。

脉浮、熱甚し、而(しか)るに反って之に灸す、此れを實と為す。實に虛を以て治す、火に因りて動ずれば、必ず咽(のど)燥(かわ)き、吐血す。

 

【一一六条】

微數之脉、慎不可灸。因火為邪、則為煩逆。追逐實、血散脉中。火氣雖微、内攻有力、焦骨傷筋、血難復也。脉浮、宜以汗解、用火灸之、邪無從出、因火而盛、病從腰以下、必重而痺、名火逆也。欲自解者、必當先煩、煩乃有汗而解。何以知之。脉浮、故知汗出解。

微數(びさく)の之脉は、慎(つつし)んで灸すべからず。火に因(よ)りて邪を為(な)せば、則ち煩逆(はんぎゃく)を為す。虛を追い實を逐(お)い、血(けつ)、脉中に散ず。火氣微(び)なりと雖も、内に攻むること力有り、骨を焦がし筋を傷り、血復(ふく)し難きなり。

脉浮なるは、汗を以て解すが宜(よろ)しい、火を用いて之に灸すれば、邪從(よ)りて出ずること無し、火に因りて盛んなり、病腰從(よ)り以下、必ず重くして痺(ひ)す、火逆と名づく也。自ら解せんと欲する者は、必ず當に先に煩すべし、煩すれば乃(すなわ)ち汗有りて解す。

何を以てか之を知る。脉浮故に汗出でて解(げ)するを知る。

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