【九一条】
傷寒、醫下之、續得下利清穀不止、身疼痛者、急當救裏。
後身疼痛、清便自調者、急當救表、救裏宜四逆湯、救表宜桂枝湯。四十五(前の第十二方を用う)。
傷寒、醫之を下し、續いて下利を得、清穀止まず、身(み)疼痛する者は、急いで當(まさ)に裏を救うべし。
後(のち)身疼痛し、清便自ら調う者は、急いで當に表を救うべし、裏を救うには四逆湯に宜しく、表を救うには桂枝湯に宜し。四十五(前に第十二方を用う)。
【九二条】
病發熱、頭痛、脉反沈、若不差、身體疼痛、當救其裏。
病(やまい)發熱、頭痛し、脉反って沈(ちん)、若し差えず、身體疼痛するは、當に其の裏を救うべし。
完穀下痢は、固摂作用が失調してどんどん陽気が漏れ出ている姿です。
そして身体の疼痛は、麻黄湯証で述べたように、肌表にまだ水邪が停滞していることに由来しています。
表証がまだ残っている可能性を物語っていると思われます。
方剤をみると、四逆湯は陽気を回復させる目的で、共に辛温の乾姜・生附子を用いています。
ところがです、下図の腹証奇覧を見てください。
完穀下痢が止まらないのにも関わらず、腹部が脹滿していませんでしょうか。
描かれている人物、何となくショッボーンとした印象ですね。
それはさて置き、薬徴で附子を見てみますと、「水を逐う」とあります。
さらに吉益東洞は、附子が腎の臓を暖めるという考えは誤りで、水を駆逐する働きがあるのみで、腎陽が回復するかどうかは人力の及ばないところであると述べています。
これはどういうことかと考えてみますと、腹中に停滞している水こそが陽気を阻み、陰陽が小さくなっているのだから、妨げとなっている水を除けば、陽気は自然と回復するという考えです。
ですから同じ辛温の乾姜もまた、薬徴では「結滞水毒を治す」とありますから、中焦・下焦の水を小便として去ることが分かります。
さて91条にありますように、四逆湯を与えて脈が浮いて来て、表証があれば今度は桂枝湯で汗を取りなさいと言っています。
先に述べました、「身疼痛」の症状によって、表証がまだ残っているからですね。
しかしです、中医でいう亡陽状態から表証に戻って、すぐに発汗させても大丈夫なのだろうかと思われませんでしょうか。
真寒仮熱とは、水が裏で結んで陽気を阻んでしまっている状態と考えれば、真寒仮熱よりむしろ真寒水仮熱、もしくは裏水仮熱と表現した方が実態に合うように思われますが、みなさまいかがでしょうか。
また甘草は「急迫を治す」ですから、止まらない完穀下痢を止め、四肢が冷え上がって陽気が衰退していく速度を緩める働きとして加えられているのではないかと考えることができます。
61条の乾姜附子湯に乾姜半両と炙甘草2両を加えたものが、四逆湯ですから、やはり緊急を要する証ではあるわけですね。
このような証には、鍼よりもむしろ灸が適していますよね。
臍に温灸を施し、気色と脈力が回復するように持って行けばいいと思います。
当然、小便利が得られるはずです。
92条~95条は、後人の覚書が紛れ込んだと思われますので、条文と読み下し文のみ記しておきます。
〔四逆湯方〕
甘草(二兩炙) 乾薑(一兩半) 附子(一枚生用去皮破八片)
右三味、以水三升、煮取一升二合、去滓、分温再服、強人可大附子一枚、乾薑三兩。
甘草(二兩炙る) 乾薑(一兩半) 附子(一枚、生を用い、皮を去り、八片を破る)
右三味、水三升を以って、煮て一升二合を取り、滓を去り、分かち温め再服す、強人は、大附子一枚、乾薑三兩とすべし。
【第九三条】
太陽病、先下而不愈、因復發汗。以此表裏倶虚、其人因致冒、冒家汗出自愈。所以然者、汗出表和故也。裏未和然後復下之。
太陽病、先ず下して愈えず、因(よ)りて復た發汗す。此れを以て表裏倶に虚し、其の人因りて冒(ぼう)を致す、冒家(ぼうか)は汗出ずれば自ら愈ゆ。
然(しか)る所以(ゆえん)の者は、汗出ずれば表和するが故なり。裏未だ和せざれば然る後に復た之を下す。
【第九四条】
太陽病未解、脉陰陽倶停(一作微)、必先振慄、汗出而解。但陽脉微者、先汗出而解。但陰脉微(一作尺脉實)者、下之而解。若欲下之、宜調胃承氣湯。四十六(用前第三十三方一云用大柴胡湯)。
太陽病未だ解(げ)せず、脉陰陽倶に停まるは(一作微)、必ず先ず振慄(しんりつ)し、汗出でて解す。但だ陽脉微の者は、先ず汗出でて解す。但だ陰脉微の(一作尺脉實)者は、之を下して解す。若し之を下さんと欲すれば、調胃承氣湯(ちょういじょうきとう)に宜し。四十六(前の第三十三方を用う、一に云う、大柴胡湯を用う)。
【第九五条】
太陽病、發熱、汗出者、此為榮弱衛強、故使汗出。欲救邪風者、宜桂枝湯。四十七(方用前法)。
太陽病、發熱し、汗出ずる者は、此れ榮弱衛強(えいじょくえきょう)と為す、故に汗を出さしむ。邪風(じゃふう)を救わんと欲する者は、桂枝湯に宜し。四十七(方は前法を用う)。
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