太陽病篇には、いきなり少陽病・陽明病・少陰病などが出てきます。
条文の数が、太陽病に最も多いのはこのためです。
(テキストの目次を見てくださいね)
これは、太陽病位から一気に病位が落ちたり、病変が複数の経にまたがる合病や併病となることが多々あることを示しています。
傷寒の病は、変化が急でしかも多彩であるからですねぇ。
なかなかセオリー通りにいかないものですが、正証さえつかんでおけば、あとは変に対応することが出来ます。
六経病それぞれの綱領と病理(正証)を理解して、何度も再読・トレーニングしておくと変証に応じることが出来るようになります。
ですからもとより「傷寒論」は、一度読んで理解・応用できる書物ではないのですね。
初学の方はここのところをよく含んで頂いて、一度で理解することが出来なくても、その内に分かるようになってくる・・・といったスタンスを維持して頂けたらと思います。
ちなみに、表題にあります合病と併病について簡単に説明します。
合病と併病の共通点は、同時に二経以上が病んでいることですが、経過が異なります。
合病とは、いきなり同時に二経以上にわたって病邪が侵入した場合です。
併病とは、例えば太陽病が治り切らない内に、少陽病位や陽明病位に邪が進行し、やはり二経以上にわたって、病邪が侵入してしまった場合です。
前者は、せいーのー、ドンで一気に深く入られてしまった場合。
後者は、あれ?・・・おかしいなと思ってるうちにいつの間にか奥まで入られてしまったという感じです。
合病と併病、このことを踏まえて進んで参りましょう。
今回は、15条の解説のみです。
【一五条】
太陽病、下之後、其氣上衝者、可與桂枝湯、方用前法。若不上衝者、不得與之。四。
太陽病、之を下したる後、其の氣上衝する者は、桂枝湯を與(あた)うべし。方は前法を用う。若し上衝せざる者は、之を與(あた)うることを得ず。四。
治療の原則は、先表後裏です。
まず、外から侵入した外邪を駆逐してから、裏の問題を解決するのだという姿勢です。
外から賊が侵入したら、うちわもめはさておいて、外からやってきた賊を先に退治しよう、といった感じです。
うちわもめは、賊を退治した後で解決しようよ、って感じです。
そして<之を下したる後>の前に<反って>という表現がありませんので、太陽病位で原則は先表後裏であっても、元々優先すべき喫緊の「下すべき証」を兼ねていた合病であったことが分かります。
<反って>と記述されている場合は、原則を外した誤治を表現する場合に用いられます。
「下すべき証」とは、おそらく承気湯類を用いるべき陽明腑実証であったと想像できます。
承気湯類は、身体の気を下方向に導きますよね、「下す」のですから。
その後、気が上衝するのは下法(瀉法)によっても、正気にまだ余力があることを示しています。
さらにまだ肩背部に邪があるため、正気が邪気に対抗するため、上衝しているとも理解できます。
上昇ではなく、「上衝」ですからかなり激しい気の動きですね。
さて、このように一旦下して、気が激しく上に衝き上げてくるような病症には、桂枝湯を用いて解肌しなさいということですね。
そうすると、まだ頭項が強ばり痛んで、悪風もしくは悪寒があるはずですので、これを問診で確認して発汗の度合いを計れば良いということになります。
条文の続きに、<若し上衝せざる者は>とあるのは、これは正気が傷れて虚している可能性を示しています。
太陽病位の邪気が、内陷していることが十分に考えられるので、「証に随ってこれを治す」必要があります。
この「証に随ってこれを治す」は、原則中の原則です。
どこまでいっても、理で判断する姿勢です。
内陷した後のことに触れられていないのは、一言では現わせない多様性があるためと理解されます。
以上これら<桂枝上衝を主る>という考え方は、雑病にも十分応用が可能です。
筆者は経験上、現代医学では精神疾患に属する疾患によく使いました。
証が合えば、非常に速く驚くほど奏功します。
気の上衝に水邪などが絡んだ場合、奔豚(65条・P68)=茯苓桂枝甘草大棗湯証は、激しく精神が動揺してヒステリーを起こしやすい場合などに現れます。
苓桂朮甘湯(金匱要略・痰飲咳嗽病16条P311)も同じく、やはり水邪が上衝して現れるパニック障害や水が関係した仮性近視など、応用範囲の広い方剤です。
どちらの証も、水が絡んでいますよね。
そして両証ともに、桂枝が使われていることに注目です。
また両証の違いは、白朮の有無のみですね。
65条に至りましたら、また詳しく解説します。
非常に複雑に感じられるかもしれませんが、ひとつひとつ丁寧に踏まえて行くと見えて来ると思います。
お時間のある時に、再度丹念に読んでくださればと思います。
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