ブログ「鍼道 一の会」

引きつけ直前・・・陽明病の常と変

色鮮やかな季節ですねぇ

 昨日は『一の会 基礎講座』の年度最終回でした。

 参加者の皆様、お疲れさまでした。

 次年度は、いよいよ臨床実技を豊富に盛り込んで参りますので、みんなで真剣に、かつワイワイやりましょう。

 ところで12日(土)にもうすぐ7歳になる娘が、いわゆる傷寒に罹患したと連絡があり、13日(日)の朝、39度代の高熱を発していると再度連絡がありました。

 治療経過を記しますので、ご参考にしてください。

 13日(土)朝、39度代の高熱にもかかわらず、機嫌がいいと様子を聞いたのですが、12時を過ぎたあたりから40度を超える発熱となり、なんか嫌な予感がしたので急遽講座を辞して帰途につきました。

 筆者は、金曜から帰宅していなかったので、妻の観察情報だけが頼りでした。

 病態変化としては、12日(土)朝に、悪寒らしきことを娘が訴えていたのでおかしいなと思っていたそうである。

 翌13日(日) 朝、悪熱して39度代の発熱。便は12日より不通。その他呼吸器症状は無かったので、風熱と判断して手の井穴を刺絡して銀翹散を服用させたとのこと。

 発熱が治まるかに思えたが、正午を過ぎたあたりから40度を超える発熱。

 便は相変わらず不通。食欲は有り、粥を食べたとのこと。その他、やたらとお茶を飲んでおり、12日(土)から、発汗らしきものは観察できていないとのこと。

 この辺りで、表裏の判断が難しいと感じた。表裏の判断が付かないということは、常と変、尋常でない状態であるということである。

 悪熱傾向でやたらお茶を飲みたがる、便不通、午後潮熱の情報では、陽明に伝入したと判断すべきだが、濈然とした発汗が見られない。

 合病、もしくは併病の可能性もあるが、食欲があるのでどうなのだろうといった疑問と、発汗が全く見られないことが嫌な予感の最大点であった。

 帰宅後、脉を診ると、脈 沈弦細数。腹診 中脘穴を中心にうっすらとした緊張。

 舌診所見 精彩を欠くやや紅に、一部がうっすらとした黄苔。

 この時点で、陽明腑実の変証との確信を得ています。

 ここで『傷寒論』をちょっと紐解いてみましょう。

 陽明病位(腑証)の正証(常)は、

 179条 <正陽陽明者,胃家実是也;少陽陽明者,発汗、利小便已,胃中燥、煩、実,大便
        難是也。>

 180条 < 陽明之為病,胃家実是也。>

 182条 <問曰:陽明病外証云何 答曰:身熱,汗自出,不悪寒,反悪熱也。>

 186条 <傷寒三日,陽明脈大。>

 188条 < 傷寒転繋陽明者,其人濈然微汗出也。>

 ざっとこんなところでしょうか。本当に有難い記載ですね。

 娘の経過は、ちょうど以下に相当するのではないかと思います。もっとも、太陽病位で、発汗はしておりませんが。

 185条 
 < 本太陽,初得病時,発其汗,汗先出不徹,因転属陽明也。傷寒発熱,無汗,嘔不能食,而反汗出濈濈然者,此転属陽明也。>

 条文の要点を拾い出してみると、中脘穴を中心とした強い緊張、連綿と続く発汗、口渴、便秘、小欲不振、脉洪大、悪熱といったところですね。

 この正証に対して、娘の脉は沈弦細数で、まるで少陽病を思わせるような脈状です。ところが少陽病の正証が全くない。

 あるのは、口渴かなと思わせる程度の飲水、便秘、悪熱です。 なのに脉が沈位。これは、完全に変証です。

 そこでこれは陽明腑実であるにもかかわらず、陽気が内攻しようとしている変証、陽結が極まろうとしている手前と判断。いわゆる、引きつけの直前であるということです。

 上巨虚穴に明らかな左右差が出ていたので、通腑法として、右合谷穴2番 右上巨虚穴3番 に瀉法を施す。

 直後に脉が浮いて洪大となり、熱は40度代から39度代にまで低下。

 間一髪、いいタイミングで帰宅できました。

 午後5時頃、煩が現れてきたので、清熱降気、開表を期待して百会穴3番瀉法を施す。

 その後排便と発汗を期待して、午後6時まで様子を見たが、脈は浮洪大であるにも関わらず、便通と発汗が見られないので調胃承気湯を服用させる。

 午後9時過ぎ、腹鳴とガスが出るようになるが、排便・発汗共に見られない。熱は一時の勢いは衰えたとはいえ、相変わらず39度代。

 よって、浣腸を行い、強制的に排便させると、直後に38度代にまで下がるが、相変わらず発汗が見られない。

 翌午前3時半、ようやく調胃承気湯が効果を現し排便。

 ここにきて、ようやく大量の発汗が見られ、同時に着替える。

 体温計は用いなかったが、明らかに解熱。

 今朝起床後、平熱に復し完治。

 病院では、インフルエンザAとの診断であったとのことですが、洋薬は一切用いず。

 今年は、インフルB、そしてAと、娘はインフルの当たり年であったが、2回とも1日で完治している。

 鍼を用いるにも、湯液の聖典『傷寒論』が無ければ、このように短期間で完治させるのはかなり難しい。

 さらに、通腑においては、鍼を用いてできないことは無いが、やはり直接陰に働きかける湯液が鍼よりも優っていると実感した。

 『一の会』では、何度も申し上げているように、どのような病であっても、先ず自分の生業としている医術で身近な身内を治し、家族や身内から絶対的な信頼を得ることが重要である。

 身近な者からの絶対的信頼は、自分の術の支えになり、自らのオーラの輝きにもつながる。

 身内に病が生じ、さっさと病院で手当てを受けるようでは、自ら医術を生業としておきながら、世間の人様に恥ずかしいと感じませんでしょうか。

 何があっても、まずは自分の手で対処する。

 諸氏、奮闘いたしましょう!

 

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