ブログ「鍼道 一の会」

鍼の番手選びの目安

講師

 鍼の治療効果に大きく影響する要因のひとつに、鍼の番手選びがあります。
 すでに臨床経験を積まれてきた先生方は、おそらく経験値から直感的に鍼の番手を選んでおられるのではないかと思います。
 そのような経験に裏付けられた番手選びについて、目安となる点や考え方を、私なりにまとめてみました。

 鍼の番手を選ぶ際には、人体の「気」というものを、できるだけリアルに理解しておく必要があります。

衛気について

 気は夜、体内、とりわけ丹田(下腹部)に集まります。
 朝になると次第に中焦・上焦へと昇り、それに伴って目が覚めます。
 さらに、肌表からは衛気として発せられ、昼間の活動に伴って外へ外へと張り出していきます。 そして夕方から夜にかけて、衛気は次第に体内へと入り始め、やがて丹田に納まることで意識が薄れ、眠りに至ります。
 これが、一連の大まかな気の流れです。

 この衛気の動きは、自然界の気の変化とも連動しています(天人合一)。

 このような衛気は、日中、外邪から身を守る「バリアー」としての側面だけでなく、感覚器としての性質も持っています。

 日頃、なんとなく人の視線を感じたり、特定の場所に立ち入ったときにゾクッとしたり、あるいは感染症の初期に悪寒を覚えたりした経験をお持ちの方も多いと思います。

 視線を感じるのは、相手から発せられた気を衛気が捉えたためであり、ゾクッとする感覚は、目には見えなくても衛気のバリアーに有害なものが触れたときの反応です。

 そして衛気は、体表だけでなく体内ともつながっています(気一元)。

 衛気・営気・肺気・心気・脾気・肝気・腎気などと呼び分けられているものは、元気が上焦・中焦・下焦のどこにあるかによって働きが異なるための名称にすぎず、本質的にはすべて「ひとつ」のものです。

 したがって、衛気が動けば、他の臓腑の気も同時に動きます。

衛気の性質を利用した鍼灸術

 鍼は、先端が鋭利で光を帯びています。
 身体はこれを「害する可能性のあるもの」として認識し、鍼を近づけるだけで、防衛のために衛気が集まってきます。
 すると、顔の気色、脈、腹、背など、全身に反応や変化が現れます。
 すべてはつながっているのですから、当然の反応といえます。

鍼の先端形状による違い

 この性質を応用したものが、翳鍼(えいしん)です。
 刺入せず、鍼を翳(かざ)すことによって補瀉を行います。

 鍉鍼も同様の原理によるものです。
 鍉鍼は先端が丸いため、気の動きは穏やかでゆっくりです。

 それに対して、毫鍼や古代鍼は先端が鋭利であるため、気の動きは速くなります。
 そのため、気の動きを感覚的に捉える繊細な感性が求められます。

 なお、銀鍼などで黒くくすんだ鍼を磨き、光沢を持たせると、気の動きが一層速くなることを、筆者は臨床で確認しています。

 衛気は感覚器として働く——その事実に、あらためて人体の繊細さと精密さを感じさせられます。

虚実と番手選択

 補瀉において鍼の番手を選ぶには、まず虚実の判定が不可欠です。
 そのためには、虚実の概念を明確にしておく必要があります。

虚証

 激しい運動のあと、疲労困憊しても、食事をとり十分に休息し、ぐっすり眠ることで翌日には回復する——そのような経験をお持ちの方も多いと思います。
 これは一時的な気血の虚であり、自力で回復可能な状態です。

 問題となるのは、食事が摂れない、あるいは摂っても回復しない場合です。
 このような場合、気血がどこかから漏れている、あるいは陰陽の幅が狭くなっている可能性が考えられます。

 虚証の治療では、漏れている部位に気血を集めて固摂力を高めること、あるいは原因となっている部位に気血を集めることで、陰陽の幅が自然に広がるよう図ります。


 番手は、虚の程度が大きいほど細いものを選びます。
 全体として気血が不足している状態で、太い鍼により一部に気血を集めすぎると、他の部位の不足を招き、陰陽の調和が崩れるためです。
 そのため、虚が強い場合は、細い鍼を用いて時間をかけ、継続的に治療していく必要があります。

実証

 実証では、正気そのものよりも「邪気の充実(邪実)」が問題となります。
 したがって、番手は比較的太いものを選びます。

 正気虚・邪気実という状態では、状況に応じて判断が必要ですが、瀉法が可能であれば、まず邪実を取り除くことを優先します。邪がなければ、気血は自然と回復して流れ始めると考えているからです。


 瀉すことによって正気が回復すれば問題ありませんが、回復が不十分な場合には補法を行います。筆者は、ギリギリのところまで瀉したのち(邪を刈り取った後)、補法を施す方法を多くとります。

 補瀉の先後は、正気と邪気の兼ね合いを見て判断することになります。

筆者の使用感

 筆者は、補瀉ともに対応可能と判断した場合、5番・8番の鍼を多用しています。

 これは鍼を刃物に例えると理解しやすいでしょう。
 果物ナイフを向けられた場合と、日本刀を突きつけられた場合とでは、受け手の気の動きは大きく異なります。

 番手の違いによる気の動きも、これと同様に捉えることができます。

 番手を選ぶ基準は明確にはできませんが、四診をしっかり行い、治療前後の変化をしっかりと捉え、経験値を積み上げることが、適切な鍼の番手選びにつながると考えています。

 画像は、30数年前、北辰会に在籍当時に柿田先生に作って頂いた古代鍼です。
 上が銀鍼、下が金鍼です。

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