ブログ「鍼道 一の会」

性を養う(3)養形第三②

医心方

    養形第三も総論が終わると、各論に入ります。
 あらゆる所作における禁忌、慎むべき事項を説明してくれていますが、当然突然始めても、習慣化するのは難しいものもありますので、参考として徐々に行うのが一番良いでしょう。

 ここでは、汗、二便についての注意事項について細かく説明してくれています。

 この行動によってはこのような事になるという経験から、気がどのように動き、寒熱がどのように及んでいるのかを類推するのは東洋医学にはとても大切です。
 「汗が出れば急いで粉をつけろ。汗で湿った服を着たままにしていると瘡ができ、大小便が出にくくなる」
 汗が出る時は気も一緒に外へ出て行きます。その為、気の放出をできるだけ避けるように粉をつけていたのでしょう。

 寒湿の邪が表面に滞留していると、正気との闘争が長時間続き、瘡ができる事は想像に難くありませんが、それによって既に気化が表面で行われているために、二便まで出にくくなると言うところに注目したいですね。

 「気候が暑い中で外から帰ってきて、顔を冷たい水で洗ってはいけない。もし水で洗うと癲癇が起きたり、立ち上がるときに眩暈がする」
 これも暑邪、熱邪に対応していた身体が急激に寒湿の邪を受ける事で正気が急激に上がります。正気の上がりが少なければ眩暈となり、急激で大きければ癲癇となる。どちらも強さ、速さの違いだけで気の有様は同じです。
 「足に汗をかいたままで水に入ると骨が痛んで動かせなくなる。」
 足に寒湿の邪が多くある状態で水に入ると、長時間湿気の多いところに坐っていたのと同じ状態が急速に現れます。

 当然腎を傷る為に動かせなくなりますが、陽気の多い若年、中年層くらいまでは解りにくいかも知れません。若くても虚弱体質の人は、この辺りも注意が必要です。
 千金方には次のように書いている。
「疲労を少なくしようと思うなら、酷く疲れたり堪えられないことは無理にやってはいけない
 当たり前の事ですが、自分の身に当てはめると中々難しいことですね。

 仕事にやりがいを持っていれば、疲れを押して仕事をする事が偽達成感に繋がり、休むことに罪悪感を持ってしまいがちです。

 しっかり休むことで心身がリフレッシュでき、結果的には効率が上がる事は中々理解しにくいことですので。
「大汗をかいた直後に服を脱いではいけない。中風になりやすく、半身不随となる」
 これも上述した事と似ていますが、気をたくさん漏らした状態では、腠理が開いたままですので、その時に風寒の邪を受けやすい状態をつくると気が急激に上昇したり、上で詰まったりする事を書いています。
「汗をかいた状態で、床につま先立ちで立ったり、足を高いところへかけてはいけない。血痺が起き、両足が重くなったり腰が疼くようになる」
「毎年八月一日以後は弱火で足を温め、下半身を冷やさないようにすること。」

 [先生の意図は、常に気を下に置いて土に漏らさないようにすること]
「冬の日には、足を温めて脳を冷やし、春秋には脳も足も倶に冷やす。これは一般の人がやっている常道である。」
 「足を挙げて火に当たってはいけない」
「尿を我慢して出さずにいると、膝が冷えて麻痺する。大便を我慢して出さずにいると気痔となる」
「長い間坐っている場合は立って尿をし、長い間立っている場合は坐って尿をしなさい」
「空腹時には必ず坐って小便すること。満腹時であれば立って小便すること。この事に注意すると病気をせず、虚弱を治す」
「小便するとき、いきんではいけない。両足や膝を冷やす」
「大便をするときにもいきんではいけない。息を吐きながらしてはいけない。強くいきむと腰が痛くなり、目が見えにくくなる。よくこのことを心すること」
 二便は行為だけで気化をしていますので、そこに筋力を加えると気の消耗は激しくなっています。

 小さな事ですが少し心に置いておくと、ふとした時に小便であれば下焦の気が少なくなるために足膝が冷え、大便であれば上昇する気が少なくなって目が見えにくくなったり、腰が痛んだりします。

 人によって現れる症状は異なっても気の有様は同じように動いていますので、どれくらい摂生、養生できるかを詳細に記してくれています。ここまで考えていたことに感心するばかりです。
原文と書き下し文
 又云、大汗出、急傳粉。着汗湿衣、令人得創、大小便不利。
 又云う、大汗出づれば、急ぎ粉を傳けよ。汗に湿へる衣を着くるは、人をして創を得、大小便を不利ならしむ、と。
 養生志云、觕[角が上、牛が下]熱来勿以水臨面。若臨面不久成癇或起[玉篇間及小児癲病]即頭眩。
  養生志に云う、熱きに触れ来たりて水を以て面に臨むこと勿かれ、もし面に臨めば、久しからずして癇を成し、或いは起ちて即ち頭眩す。[玉篇問及び小児癲病]
 又云、足汗入水、令人作骨痺病、凶。
  又云う、足に汗し水に入らば、人をして骨痺の病作さしむ、凶なり。
 千金方云、人欲少労、但莫大疲及強所不能堪耳。
  千金方に云う、人労少なきを欲せば、ただ大いに疲れ及びて堪う能わざる所を強ふること莫きのみ。
 又云、凡大汗、勿即脱衣喜得偏風、半身不随。
 又云う、凡そ大いに汗して、即ち衣を脱すこと勿かれ。偏風を喜び得て、半身不随す。
 又云、人汗、勿跋床懸脚。久成血痺、両足重腰疼。
  又云う、人汗し、床に跋ち脚を懸くること勿かれ。久しくして血痺となり、両足重く腰疼く。
 又云、毎至八月一日以後、即微火暖足、勿下冷。
 又云う、毎に八月一日以後に至りては、即ち微火もて脚を温め、下をして冷やしむること勿かれ。[先生の意は常に気をして下にあらしめんとするなり。これを土に泄らさんとする勿かれ]
 又云、冬日温足凍脳、春秋脳足倶凍、此凡人常法。
 又云う、冬日には脚を温め脳を凍やし、春秋には脳足倶に凍やす。これ凡そ人の常法なり。
 又云、勿挙足向火。
 又云う、足を挙げ火に向かう勿かれ。
 又云、忍尿不便、膝冷成痺。出大便不出成氣痔。
  又云う、忍びて尿を便たざれば、膝冷えて痺れとなる。忍びて大便を出ださざれば、気痔となる。
 又云、久坐立尿、久立坐尿。
 又云う、久しく坐すれば立ちて尿をなし、久しく立てば座して尿をなす。
 又云、人飢須坐小便。若飽立小便。慎之無病除虚損。
 又云う、人飢えたるときは、須く座して小便すべし。もし飽くなれば立ち手小便すべし。これを慎めば無病にして虚損を除く。
 又云、小便勿怒令両足及膝冷。
 又云う、小便するに怒む勿かれ。両足及び膝を冷やしむ。
 又云、大便不用呼氣。乃強怒令人腰疼目渋。宜任之。
 又云う、大便するに呼気を用いざれ。乃ち強く怒きめば、人をして腰を疼かせ目を渋からしむ。宜しくこれを任すべし。

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