ブログ「鍼道 一の会」

肝の臓象ー結語

 中医学では、肝気鬱結という概念があるが、そもそも肝の臓は鬱するのが肝の仕事である。

 なぜならば、昇発するためには一旦溜める=鬱することが必要であるからである。

 天人相応的に考えると、腎陽によって蒸された気が立ち上るのはいわば自然なことで、発するためには鬱する必要があるのは当然の理である。

 肝の臓象は葉に象られているが、肺の臓も同様に葉に象られている。

 葉は、風によって揺れ動く。

 いわば、受動的な臓腑である。

 肝と肺の臓腑をイメージの中で実際に動かしてみると、真逆になることがわかる。

 つまり

 呼気時=肺葉閉(肺宣散)ー肝葉開(肝昇発)

 吸気時=肺葉開(肺欝)ー肝葉閉(肝鬱) となる。

 これらのことから、肝気鬱結とは、肝の臓ひとりの仕業ではなく、肺の臓との関係性の中で生じる現象であることが分かる。

 さらに、これらを統べているのは君主之官たる心の臓である。

 こころの平穏、やすらかな呼吸が、気の通暢に重要なことは、万人の経験するところだと思う。

 このように関係性を広げていけば、肝気鬱結というひとつの現象にも様々な原因があり、対処法もまた大衝穴や肝兪穴に鍼をすれば解決するといった、単純なことでは済まないことが理解されると思う。

 このことは、他臓についても同じことが言える。

 このように多岐にわたる複雑な関係性の中から、問題解決となる1点に焦点を合わせるには、まずは臓象学をイメージとして意識になじませて実際に動かし、人体内でうごめいてる気・血・水の異常を様々な認識手段を用いてとらえて一鍼を下すのが肝要となってくる。 

【概要】

 「干」は、象形文字で方形の盾であり、「ふせぐ」「おかす、みだす」の意味である。肝は将軍の官であり、防衛機能の中心的機能があり、その性質は剛猛である。

 衛気は気の防衛機能を指した用語であるが、衛気の防衛機能は、腎陽を元に、水穀の精微と脾腎の気によって生成され、肝の昇発作用によって肺に達し、肝の疏泄作用によって宣散され全うされる。

 また肝は肺と同様、葉に象られていることより、肝以下の臓腑の影響を受けて機能することが理解される。

 また臨床上よくみられる外感病に際しては、気滞表証を意識して弁証する必要がある。

 心神は表の意識、肝魂は裏の意識で、魄肺の呼吸機能は意識・無意識の両面性を持ち合わせており、肺は意識・無意識の枢であるとも考えられる。

   

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 肝者.罷極之本.魂之居也.<素問・六節蔵象論篇>

 罷とは、疲れてやる気がなくなることを意味し、罷極とは、疲れ切って弛緩した状態を指す。

 肝は、緊張と弛緩という陰陽転化の働きの根源であり、潜在意識・無意識である魂の居すところである。

【位置】

 九椎下 筋縮

 

【形状と臓象】

 臓象図では、肝葉は左三葉、右四葉として描かれており、左右が不均衡であるがゆえに、精汁を蔵した胆の腑が均衡を維持するうえで重要となるのである。

 また肝葉は肺葉に比べて肉厚であることから蔵血を連想することができ、さらに左が三葉であることから血虚は左に現れやすく、昇発の力も右に比べて劣ることが分かる。 これは、命門学説※と符合する。臨床においても、肝鬱気滞の初期の反応は、左不容~章門、左天枢に実の反応が現れやすく、絶対ではないが肝血虚は左肝兪、左太衝に虚の反応を生じやすい傾向にある。

 

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 一方、肺は、左右四枚均等であることから、肺は左右均等に宣散・粛降を行い、肝が左右・上下・内外の気機を調節し、胆が錘となって左右の不均衡の幅が一定限度を超えないように制御している。

 肺も肝もともに葉に象られており、ともにその時々の状況変化に応じて自在に機能することを象っている。

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※ <難経・三十六難>「腎両者、非皆腎也、其左為腎、右為命門」

 

a.  震・雷  f:id:ichinokai-kanazawa:20201110151703j:plain  巽・風 f:id:ichinokai-kanazawa:20201110151734j:plain

 震・雷の卦は、一陽が上から降りて来て雷、一陽が上に抜けようとする震とも解される。肝に象れば、昇発の気に合致する。

 また巽・風の卦は、上の二陽が一陰を運ぶ姿になり、肝が脾気の清陽の気を上焦に昇らせる象と解することも出来る。

 

【五行属性】

1.五方・東、五季・春 五能・生

 肝は五方・東、五季・春であり、一日では夜明けから日の出時の朝に相当する。いずれも陰気が退き、陽気が盛んになり始める時期である。人体においても、五能・生の作用で、衛気が上焦に上ることで朝の目覚めが訪れる。

 

2、五竅・目 五液・涙

 目は肝血を受けて視ることができる。肝の経絡は、頏顙(こうそう=口蓋垂)から目の裏に流注しており、手少陰流注もまた咽から目の裏に至って足厥陰と交会している。

 五労においては、「久しく見ると心を傷る」とされており、目は心肝が主に主っている。

 涙は、肝の主る津液であり、涙は目を潤す働きの他、目に熱を帯びた場合、冷却の働きがある。

 七情が高ぶると、肝の昇発作用により津液が持ち上げられ、心神が緩むことで涙があふれることとなる。

 

3、五志・怒

 怒りは、急激な昇発作用を引き起こすので、上逆症状を引き起こしやすい。昇発するためには、一旦気を溜め込むことが必要である。その際、期門穴で肺気によって気滞を生じさせる。この気滞の程度と邪気の種類によっては、重篤な疾患を引き起こす。

 

4.五味・酸 五能・生

 酸味は収斂作用があり、五能・生とは陰陽関係にある。酸味である芍薬などは、陰血を五臓六腑に収斂させる作用があるので、芍薬甘草湯など養血柔肝に用いられる。

 

5、五労・久歩傷肝

 腎気によって立位が可能になれば、肝が左右交互に気血を巡らすことで歩行が可能になる。その際、胆の腑がバランスを調整する。久しく歩けば肝血が障害され、過度になると腎精にまでその累が及ぶこととなる。

 

6、五主・筋 五神・魂

 筋とは、竹が腱、月は肉の形、力は力こぶの形を表す会意文字である。肉づきの肥痩は、脾の状態を現すが、その動きの機能面に定位すると筋の概念となる。

 五神・魂は、心神・肺魄によって意識的に学習・経験したことを潜在意識に落とし込み、自動的に機能する働きがある。主に日中は心神が旺じ、夜間は肝魂が旺じ、互いに陰陽消長関係にある。

 

【主な経穴】

・募穴・・・期門 肝により上昇して来た気は、一旦この部で肺気によって抑えられ蓄えられて発する。

・原穴・・・太衝

・絡穴・・・蠡溝

・郄穴・・・中都

・背兪・・・肝兪 九椎下 筋縮穴

 

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