先天の元気は腎に蔵されていると言う。
<素問・宣明五気篇>では、心は神を蔵すと記されている。
さて、この神をそのまま中医学的に解釈しても良いのだろうか?
素問・上古天真論では七損八益論が展開されているが、これは腎を太極軸にして論じられたものである。
いわば、三才思想(天・人・地)を地である下から上を観て俯瞰した論である。
地である肉体は、腎によって終わりがあることは周知のとおりである。
物質的後ろ盾を無くした神気はいったいどうなるのであろうか。
むろん、肉体からはその兆候は消えるが。
地から上を観るのであれば、今度は天から下を観ればどうなのだろう?
このあたりのことは、すでに稻垣座長が示唆に富む内容をすでに一部公開しています。
易経 繋辞上伝では、「陰陽測らざる、これを神と謂う」 <陰陽不測之謂神>と記されています。
さて、これを実際の臨床に用いて有益ならしむるには…
【概要】
五臓六腑には全て官職名がつけられており、心は君主の官であり、神明を主り他臓との関係性の象徴的存在である。心神は、太陽のように生命を明るく輝かせる中心的な働きを担っている。神明とは、広義では生命の輝きそのものである。
臓象図では、心の臓は他の四臓と系で繋がっており、心の臓の状態は、全体の関係性で成り立っていることが理解される。
【位置】
胸椎第五椎下 神道穴
【形状と臓象】
1.心の文字は象形文字で、このことからも古くから解剖が行われていたことが推測される。その心の臓は万国共通のハート型であり、脾・肺・腎・肝に通じる釣り糸が描かれている。
とりわけ肺系・肺管と心系は直接繋がっており、心肺機能は天の気と密接な関係にあることが分かる。
また心は肺葉の下に錘のようにぶら下がっており、環境変化に応じて肺が行う正常な機能を調整している。
b.「心者、君主之官、神明出焉」<素問・霊蘭秘典論篇>
「心者、五臓六腑之大主、精神之所舍也」<霊枢・邪客七一>
心は一国で例えるなら君主であり、神明とは広義においては生命の輝きのことであり、狭義においては精神・意識状態のことである。
君主が混迷すれば臣下は乱れ、臣下が従わなければ君主は成り立つことができない。
この関係は身体にもそのまま当てはまり、心神が混迷すれば他臓に影響して様々な病変を引き起こし、他臓の変動や病邪が心神に影響して精神異常を引き起こす場合があるので、標本を正確に弁別しなければならない。
c.「心主身之血脈」<素問・痿論四四>
この場合の血脈とは、いわゆる血管のことであり、血脈は心の臓の延長である。従って、脈動には神気が通じて現れているので、脉が表現している神気を読み取ろうとする意識が大切である。
「心藏脉.脉舍神」<霊枢・本神八>
d.「諸血者 皆属於心」<素問・五蔵生成論十>
「脈者 血之腑也」<素問・脉要精微論十七>
全身の血流調節は心気がこれを執り行うのであるが、肝疏泄・蔵血など血に関する他臓との協調作用を意識すると良い。また血管は、血の袋であるということである。
e.心悪熱 離・火
象卦は麗(つ)く=付く。日月は天に付き、草木は土に付いて天下を化成する。離火は明智であり、人間の正しい理性こそが天下を治め身を治めることを現している。晴れ渡った空の太陽のイメージである。
また離火 の爻をみると、一陰が上下二陽で挟まれた卦である。中心の一陰が心血であり、上下の二陽が心陽とみると、心気が亢ぶると化火しやすく、心血は傷れやすいことが分かる。
また、化火すると心陽は下って腎と相交し腎を温煦することが出来ず、腎陰は心陽を得ることができないので心に昇ることが出来なくなり、心火はさらに亢ぶり悪循環に陥る。(心腎不交)
治療において寧心安神するには、清熱と補血の両面があるが、どちらを先に行うかは病理機序によって判断する。
f.心の赤化作用
心は穀気に神気(心陽)を加味し、血に気化させ全身いたるところに流注させる。
母乳は、赤化する前の穀気と理解することができる。
【五行属性】
1、 五方・南、五季・夏 五能・長
心は五方・南、五季・夏であり、一日では日中(11時から13時)に相当する。いずれも、陰気は退き陽気が最も盛んな時期である。人体においては五能・長の作用で心身の活動性が高まり、衛気もまた体外に張り出す時期でもある。
2、 五竅・舌 五液・汗
舌には、足太陰、足少陰正経・経別、足太陽経筋、手少陰絡脉が流注している。舌は消化器の一部でもあり感覚器官でもあり、言語発声機能をも兼ね備えたものである。これらの機能を全うするには、五臓六腑が調和して円滑に行われる必要がある。飲酒が過ぎると目つきが弛み、舌のろれつが回らなくなるのも、心神が熱によって侵されたためと捉える。
また過度に心神の緊張状態が続くと、舌先が赤くヒリヒリと痛んだり痺れたりする者の多くは、心熱・心火によるものである。
また汗は津液・血の化したものであり、過度な発汗は陽気を損なうという面と陰気を損なうという両面がある。いわゆる過度の心神の緊張による冷や汗は、容易に心血を損ないやすい。
3、 五志・喜
喜は緩の作用があるので鬱した諸気を解放し、気滞を解消して気機を伸びやかにさせる作用がある。喜が過度になると、注意力が低下し心神は散漫となる。
4、 五味・苦 五能・長
苦味は固を主り、弛んでいるものを引き締める作用がある。(燥かす説有り)五能は長であるが、苦味とは陰陽関係となる。
5、 五労・久見傷心
肝の五竅は目であり、目は血を受けてその機能を全うする。久しく見ると心を傷るとは、目の深部には、足厥陰と手少陰が流注していることから、見る集中力を長時間維持すると心肝内熱から血虚に移行しやすいことが理解される。
6、 五主・血脈 五神・神
血脈は、心神が伸びやかであれば精血は充実し、その流れもまた流暢となる。さらにいわゆる血管は心の臓の延長であり、末梢における動脉の拍動状態には、精血と神気の状態が如実に表現される。末梢の一部分に全体が投影されると考える東洋医学独自の脈診術に、一定の根拠を与える。
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