2020年最初の基礎医学講座では、かねてより要望がありました「七情」をメインに取り上げました。
七情とは、人に備わっている感情です。その過不足が病因となりうることを、約2000年前に著された<素問・陰陽応象大論>で説いています。
すごいですよねぇ、ストレス学説よりはるか以前に、すでに ”感情が人を害する” ことを見抜いているのですから。
感情というのは大きな「気」、すなわちエネルギーですので、感情を表現する(=出す、発散する)ということは、我々の医学概念で表現すると自己瀉法=自然瀉法です。
正気が充実しておりますと、感情表現=発散すると「快」となります。
これは七情に限ったことではなく、汗・小便・大便なども、身体から出す際には快感を伴うことは、みなさまも経験がおありでしょう。
しかし七情過多となり、むやみに感情を出しすぎると、瀉法が過ぎるので次第に正気は弱ってきます。
汗や下痢が止まらないと、いずれ生死にかかわりますよね。感情も同じです。
また逆に七情を抑え込むと、身体内部において気(エネルギー)がうっ滞しますので、非常に苦しい状況を招来します。
例えが適切でないかもしれませんが、大小便を出さないで我慢し続けるのと同じ状況と考えてくだされば、これもまた深刻な病につながりますよね。
また、感情を抑えることは、胸を閉じることにもなります。
胸が閉じてしまうと腹の中の代謝も悪くなり、様々な邪気を生じることとなります。
さらに、胸が閉じると感情は出て行かない代わりに入っても来なくなります。
言うなれば「こころ」に蓋をした状態と言えるでしょうか。
結果、深刻な場合は顔から表情が消え、鬱になったり閉じこもるようになったりします。
この感情の過不足は、喘息やアトピー、また癌や脳神経疾患など、多くの病の根底にひっそりと隠れるように存在しています。
そしてこの七情問題が根深く絡んでいる場合、治療をしてもなかなか根治しません。
なぜなら、この七情問題を解決できるのは、その人(本人)以外に無いからです。
東洋医学では、この問題を「四診」を用いて認識し、治療を行います。
治療により改善する事例も多くありますが、根本的な解決にならない場合もあります。
では、どうするのか。
まず治療者自身がひとりの人間として、自分自身の問題と向き合うことです。
その経験を元に、患者本人が問題解決へと向かえるようサポートするのです。
今回の基礎講座では、参加者自身が自分とどのように向き合っているのかを開示し合いました。
いわば、自分自身のトリセツといったところでしょうか。
随分、なごやかな雰囲気となり、あっという間に時間は流れて参りました。
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最後に、この「感情」について、筆者なりの見解を開示したいと思います。
感情は、いわば自然現象と考えます。
風が吹けば水面にさざ波が立つことと同じです。
この自分の中に湧き起こった感情は、時間と共にまた元の状態に鎮まるのが自然です。
が、実際はそうならない場合も少なからずありますね。
いつまでも自分の中をぐるぐる回っているばかりでなく、場合によってはさらに大きくなって嵐になることだってあります。
このさざ波を嵐にまで育て上げるのは、観念と思考です。
(分かったかのようなこと書いてますが、実はこれ仏法の教えです。)
現代社会、特に日本では、感情をあらわにすることはネガティブな事としてとらえられがちですが、この感情こそが人の生き生きさでもあります。
また、この感情のやり取りにより、人と人との気の交流が深まります。
円滑な感情、和するということは、一体どういうことなのでしょうね。
東洋医学には、終始という思想があります。
いつまでもその時の思いや感情にしがみつくのではなく、季節が移ろうように流れて行くのを善しとします。
このあたりのことは、<素問・上古天真論>で『恬惔虚無』という一言で表されています。
もう少し深く知りたいと思われる方は、ブログ『鍼灸医学の懐』をのぞいてみてください。
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