ブログ「鍼道 一の会」

176.少陰病 黄連阿膠湯の病証

 まずは<類聚方広義>の注釈から見て行きます。

 「大病が差(い)えたる後、虚煩して眠を得ず、眼中疼痛し、懊憹す。梔子豉湯に類して症情は同じからずして久痢し、腹中熱痛し、心中煩にして眠を得ず、或は膿血便の者を治す」

 「痘瘡内陷し、熱気熾盛し、咽燥口渇、或いは、心悸煩躁、清血(下血)するを治す。」

 「諸の失血症、胸悸身熱、腹痛して微利、舌乾唇燥、煩悶して寝ること能わず、身体困憊し、面に血色無く、或は面に潮熱して赤き者を治す」

 

 以上の記述をみると、熱証で心中懊憹のような心煩があり、眠ることもできず、時に下血する場合があるようです。

 潮熱は、陽明病の潮熱ではなく、骨蒸潮熱なのでしょう。

 朴庵こと荒木性次の<新古方薬嚢>を見てみます。

 「しんに熱こもりて眠れざる者。この眠れざる様子は眼はぱっちりと開きて頭がさえてどうしても眠られぬと言う風の者と異なりウツウツとして眠っているような醒めているようなと言ふあんばいで眠られぬものなり。熱性の下利がありて夜中煩して時々めざめてうるさき者もあり」とあります。

 「うるさき者」という表現、おもしろいですね。

 この「ウツウツとして眠るような」というのが、「但寝んと欲す」に似ているのでしょうか。

 さて、これらの事からどうやら久痢・下血を治めるのがひとつと、心中懊憹に似た心煩を治めることが目標だと理解できます。

 上焦清熱、下焦固摂して滋陰清熱といったところでしょうか。

 筆者の個人的な感覚では、黄連・黄芩が瀉心湯類のイメージと繋がり、方剤名が黄連と阿膠ですから、単純に心腎相交の方剤ともとれます。

 素体としてはやはり、内熱が盛んで下焦の陰気不足傾向の人が現しやすい病態ですが、下焦の滋陰は、単純に照海や三陰交を補うと言う手は使えないと思います。

 ここは、補瀉の巧拙が問われるところだと思います。

 答を導き出すポイントは、そもそもどこの熱から始まったのか。

 素体として陰虚傾向にあるのは、なぜなのか、等々。

 つまり、過去から現在に至る病理機序にあると考えられます。

 その上で標本、緩急を考慮して補瀉を施す。

 いずれ症例検討などで、具体例を示しことが出来ればいいですね。

〔黄連阿膠湯方〕

黄連(四兩) 黄芩(二兩) 芍藥(二兩) 雞子黄(二枚) 阿膠(三兩一云三挺)

右五味、以水六升、先煮三物、取二升、去滓。内膠烊盡、小冷。内雞子黄、攪令相得。温服七合、日三服。

黄連(四兩) 黄芩(二兩) 芍藥(二兩) 雞子黄(けいしおう)(二枚) 阿膠(三兩、一に三挺(さんてい)と云(い)う)

右五味、水六升を以て、先ず三物を煮て、二升を取り、滓を去る。膠を内れて烊盡(ようじん)し、小(すこ)しく冷やす。雞子黄(けいしおう)を内れ、攪(ま)ぜて相(あ)い得(え)せしむ。七合を温服し、日に三服す。

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