【二六二条条】
傷寒瘀熱在裏、身必黄、麻黄連軺赤小豆湯主之。方四十四。
傷寒瘀熱裏に在り、身必ず黄す、麻黄連軺赤小豆湯(まおうれんしょうせきしょうずとう)之を主る。方四十四。
この条文も短いので、今ひとつ病態が見えて来ません。
例によって新たに登場しました方剤の中身を見てみましょう。
連翹(連軺) 気味 苦微寒
中薬学:清熱解毒・清心瀉火 消癰散結 清熱利小便
新古方薬嚢:気味苦平、瘀熱を消し、黄を治し、鬱を除く、瘀熱を消するが本薬の主効なるべし。
朴庵先生は、「黄疸、又は皮膚に吹き出物して汗出でず小便少なきもの等」と述べています。
生梓白皮(しょうしんはくひ)
中薬学では、クワ科のカラグワのコルク層を除去した根皮の桑白皮を代用していますので、これを記載します。
中薬学:気味甘寒 瀉肺平喘 利水消腫
新古方薬嚢では、梓(あずさ)が何に相当するのか諸説ある中で、アカメガシワとキササゲの樹皮を剥いだもの両方を用いて効かがあった覚えがあると記されていますが、白皮というところから、おそらくキササゲではないかと述べています。
朴庵先生は、桑白皮とは、気味が異なるので、入る所も異なるであろうから代用は薦め難いと記しています。
新古方薬嚢:気味苦寒、皮中の熱を除き気血の行りを利するを主る。故に麻黄連軺赤小豆湯に入りて内の瘀熱をさばくのはたらきをなすなり。
加えて赤小豆です。
赤小豆 気味 甘酸 微寒
中薬学:利湿消腫 清熱利湿 退黄 解毒排膿
新古方薬嚢:赤小豆は味甘平、こはばりを緩め水穀の行りを利することを主る。故によく大小便を利すことをなす。之れ瓜蒂散、麻黄連軺赤小豆湯に入る所以なり。
この連翹・生梓白皮・赤小豆は、すべて寒薬でしかも痰飲・利水に関係しています。
麻黄連軺赤小豆湯方をみますと、麻黄・杏仁・生姜が配されていますので、上・中焦の痰飲を発する意図が酌めます。
麻黄湯を見てみます。
麻黄、桂枝、杏仁、炙甘草です。(P62 35条)
発表剤の麻黄湯から桂枝を去って連翹、赤小豆、大棗、生姜を加えたものが本方となります。
越婢湯を見てみます。
麻黄、石膏、生姜、大棗、甘草です。(P325 23条)
越婢湯から渇を治す石膏を除いて、連軺、杏仁、赤小豆、生梓白皮を加えたものが本方となります。
麻黄湯は、表寒実。
越婢湯は風水証。
ともに肌表で水邪がうっ滞している点が一致しています。
加えて麻黄は、喘咳水気を主冶するとありますので、軽度であっても浮腫と発黄があるのかもしれません、当然無汗ですね。
そして冒頭に「傷寒」とありますので、悪風もしくは悪寒も存在していてもおかしくはありませんね。
そして大棗・甘草が配されているのですから、腹部も攣引拘急して緊張が見られるのでしょう。
少しまとめます。
傷寒に罹り、発汗がみられず、喘いで悪寒・悪風し、浮腫が見られて尿量も減少している状態で黄疸が現れている。
裏にある瘀熱は、痰飲によって陽気が押しやられて結んだと理解しているのですがどうでしょう。
陰陽が、交流していないわけです。
本条で陽明病は終わるのですが、黄疸に腹満便秘の茵蔯蒿湯証と抵当湯証。
そして逆に腹満便秘がなくても黄疸が現れる梔子蘗皮湯証と麻黄連軺赤小豆湯証と流れ、間に呉茱萸湯を挟んで、いよいよ太陰病、少陰病へと陰証・裏証へと行きたいところです。
が、少陽病へと入っていくのですねぇ。
「一の会」では、病態変化は、太陽・少陽・陽明の順序で捉えています。
少陽病篇は、ここに至るまでにすでに数多く述べられていますので、条文の数も少ないです。
次回から、また一緒に読み進めて参りましょう。
〔麻黄連軺赤小豆湯方〕
麻黄(二兩去節) 連軺(二兩連翹根是) 杏仁(四十箇去皮尖) 赤小豆(一升) 大棗(十二枚擘) 生梓白皮(切一升) 生薑(二兩切) 甘草(二兩炙)
右八味、以潦水一斗、先煮麻黄再沸、去上沫、内諸藥、煮取三升、去滓。分温三服、半日服盡。
麻黄(二兩節を去る) 連軺(れんしょう)(二兩、連翹根(れんぎょうこん)、是れなり) 杏仁(四十箇、皮尖を去る) 赤小豆(せきしょうず)(一升) 大棗(十二枚、擘く) 生梓白皮(しょうしんはくひ)(切る、一升) 生薑(二兩、切る) 甘草(二兩、炙る)
右八味、潦水(りょうすい)一斗を以て、先ず麻黄を煮て再沸し、上沫を去り、諸藥を内(い)れ、煮て三升を取り、滓を去る。分かち温め三服し、半日に服し盡(つく)す。
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