ブログ「鍼道 一の会」

137.陽明病 208条 大承気湯と小承気湯

【二〇八条】

陽明病、脉遲、雖汗出不惡寒者、其身必重、短氣、腹滿而喘、有潮熱者、此外欲解、可攻裏也。手足濈然汗出者、此大便已鞕也、大承氣湯主之。

若汗多、微發熱惡寒者、外未解也(一法與桂枝湯)。其熱不潮、未可與承氣湯。

若腹大滿不通者、可與小承氣湯、微和胃氣、勿令至大泄下。大承氣湯。方二。

陽明病、脉遲(ち)、汗出ずると雖も、惡寒せざる者は、其の身必ず重く、短氣し、腹滿して喘(ぜん)し、潮熱有る者は、此れ外解(げ)せんと欲す、裏を攻むべきなり。手足濈然(しゅうぜん)として汗出づる者は、此れ大便已(すで)に鞕(こう)なり、大承氣湯(だいじょうきとう)之を主る。

若し汗多く、微(すこ)しく發熱惡寒する者は、外未(いま)だ解せざるなり(一法與桂枝湯)。其れ熱潮せずんば、未だ承氣湯を與うべからず。

若し腹大いに滿ちて通せざる者は、小承氣湯を與え、微(すこ)しく胃氣を和すべし、大いに泄下(せつか)に至らしむことなかれ。大承氣湯。方二。

 長い条文ですので、いくつかに分けて意訳します。

 ①陽明病で、脉遅である。発汗しているにもかかわらず悪寒しなくても、身体は必ず重く感じているはずである。

 呼吸が促迫し腹が満であって喘いでおり、潮熱が現れている場合は、すでに表証が解けようとしている姿である。

 そして手足にぐっしょりと汗が出ている場合は、すでに大便も硬くなっているのであるから、大承気湯証である。

 ②同じように発汗していても、発熱と悪寒がある場合は、まだ表証が解けていない。 

 さらにその発熱も、潮熱とはなっていないのであるから、まだ承気湯類で裏を攻めるべきではない。

 ③もし表証が解け、腹が大いに満となって大便が通じない場合は、小承気湯を与えて少し胃気を和すべきである。大いに攻下してはならない。

 

 陽明病で脉遅になるのは邪実が気機を阻むためで、一般的には有力とされています。

 ところが時に脉遅弱の場合もありますので、脉証だけで判断するのはやはり過誤を来しやすいので、問診など他の診法からの情報を参伍するのが安全です。

 ここは常と変、陰陽の転化、仮証としての認識概念をしっかりと持ち得ておくところです。

 そしてその後に続く症候は陽明病の典型的な正証として記憶しておくのが良いと思います。

  腹診図は、腹証奇覧・腹証奇覧翼に各2枚あります。

 今回、腹証奇覧から2枚掲載します。

 以下の図、横からのものですが、堅満とあります。

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 また以下の図では、任脈上に緊張が現れています。

 

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 上図の解説文を見ますと、腹の中央に長くて硬いものがあり、中風脹滿、労瘵などの病にもこの証があり、何病であるかを問わず、腹底中央深く按じて底に長い形のあるものはすべて大承気湯証であると記されています。

 攻下の威力のある方剤ですが、当時は慢性的な病にも用いて効かを得ていたことが分かります。

 さて、いくつかの証候の内、潮熱について解説しておきます。

 <中国漢方医語辞典>から引用します。

 「発熱に潮の干満と同じように定まった時間があり、毎日一定の時間が来ると体温が上昇する。(一般には多く午後に現れる)潮熱の病因にはおおよそ三つある。

 1)体内の陰液の不足によるもので、夜になるたびに発熱、盗汗がある。これを陰虚潮熱と呼ぶ。

 2)陽気が湿邪に抑制されることによるもので、午後に発熱が現れる。これを湿温潮熱と呼ぶ。

 3)熱邪が陽に凝結することによるもので、これもまた毎日午後に発熱する、これを陽明の日晡潮熱という。

 このほか温病が営分あるいは血分に伝わる段階には、身熱は往々午後次第に上昇するが、この種の熱型は潮熱とは呼ばず、熱入営分(熱が営分に入る)とか熱入血分(熱が血分に入る)とかいう。」

 大承気湯証で現れる潮熱は、3)に相当して午後の夕刻に潮熱を発します。

 そして「胃家実」によって病邪が凝結しているので全身にぐっしょりとした発汗がみられるので、陰液不足となり大便鞕、燥屎の出口までが塞がれていることが分かります。

 ②の場合は、発熱していても潮熱となっておらず、しかもまだ悪寒があるので、「胃家実」であっても、先表後裏の原則に従って表証を先に解くべきことを述べたものです。

 ③では小承気湯で胃気を和すべき証について述べられているのですが、腹大満で不通は、大承気湯証と共通証候で程度の差だと思います。

 このような場合は、方剤構成を比較すると見えてきますね。

 大承気湯 大黄四両 厚朴半斤 枳実五枚 芒硝三合

 小承気湯 大黄四両 厚朴二両 枳実三枚

 結実の毒を通利する大黄は共に四両。

 この場合、酒洗大黄を用いていますので、猛攻の剤となりますね。

 胸腹の脹滿を主冶する厚朴は、1斤=5両とすると、小/大=3/5

 結実の毒を主冶する枳実の割合もまた、厚朴と同じ。

 そして堅を耎(やわら)かにするを主る芒硝は、小承気湯には配されていません。

 大承気湯証と小承気湯証は、次の条文に見えるように燥屎の有無もまた鑑別点のひとつになります。

 ここまで比較して記しますと、これ以上解説は必要ないですね。

〔大承氣湯方〕

大黄(四兩酒洗) 厚朴(半斤炙去皮) 枳實(五枚炙) 芒消(三合)

右四味、以水一斗、先煮二物、取五升、去滓。内大黄、更煮取二升、去滓。内芒消、更上微火一兩沸、分温再服。得下、餘勿服。

大黄(四兩、酒もて洗う) 厚朴(半斤、炙り、皮を去る) 枳實(きじつ)(五枚、炙る) 芒消(三合)

右四味、水一斗を以て、先ず二物を煮て、五升を取り、滓を去る。大黄を内れ、更に煮て二升を取り、滓を去る。芒消を内れ、

更に微火に上(の)せ、一、兩沸し、分かち温め再服す。下(げ)を得れば、餘は服すことなかれ。

 

〔小承氣湯方〕

大黄(四兩酒洗) 厚朴(二兩炙去皮) 枳實(三枚大者炙)

右三味、以水四升、煮取一升二合、去滓、分温二服。初服湯當更衣、不爾者盡飲之。若更衣者、勿服之。

大黄(四兩、酒もて洗う) 厚朴(二兩、炙り、皮を去る) 枳實(三枚、大なる者、炙る)

右三味、水四升を以て、煮て一升二合を取り、滓を去り、分かち温め二服す。初め湯を服して當(まさ)に更衣すべし、爾(しか)らざる者は、盡(ことごと)く之を飲む。若し更衣する者は、之を服すなかれ。

 

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