いよいよ太陽病(下)の最後となりました。
【一七六】
傷寒脉浮滑、此以表有熱、裏有寒、白虎湯主之。方三十八。
傷寒脉浮滑なるは、此れ表に熱有り、裏に寒有るを以て、白虎湯之を主る。方三十八。
この条文中の「此以表有熱、裏有寒」は、注釈文か何かの錯簡が紛れ込んだのだろうと言われています。
ですから単に「傷寒、脉浮滑、白虎湯之を主る」で良いと思います。
傷寒に罹って、白虎湯証に伝変する経緯は書かれていませんが、ここでは脉象だけを示しています。
他の症候は、過去ブログで、白虎加人参湯を参考にしてください。
【一七七】
傷寒脉結代、心動悸、炙甘草湯主之。方三十九。
傷寒脉結代(けったい)、心動悸するは、炙甘草湯(しゃかんぞうとう)之を主る。方三十九。
この短い条文をそのまま意訳しますと、傷寒に罹って、脈が結代(不整脈)して動悸がするようになったものは、炙甘草湯証であるということですが、あまりに条文が短いため、病態がよく見えて来ません。
そこで炙甘草湯方の配剤をみてみると、桂枝去芍薬湯に、人参、生地黄、阿膠、麦門冬、麻子仁を加えたものであることが分かります。
桂枝去芍薬湯は、「脉促 胸満」がひとつの目標でした。
ですので、炙甘草湯証は桂枝去芍薬湯の気の動きをベースに、さらに複雑で病態としては重症であると見当をつけることが出来ます。
しかもまた「急迫を治す」炙甘草が方剤名ですので、切迫した病態が想像できます。
<金匱要略・血痺虚労病> P285 21条にも記載されています。
治虛勞不足、汗出而悶、脈結悸、行動如常、不出百日、危急者、十一日死。
虛勞不足、汗出でて悶し、脈結し悸するを治す。行動常の如くなるも、百日を出でず、危急の者は、十一日にして死す。
やはり、場合によっては死に至ることもあるようですね。
ちなみに虚労病について、<中国漢方医語辞典>で調べてみました。
「虚損労傷の略称で、また労怯ともいう。五臓の諸虚不足によって生ずる多種の疾病の概括でもある。
先天的に体質が虚弱であり、後天的に失調し、病が長びいて栄養分が失われ、正気が損傷され、久虚が回復しないで、各種の虚弱な証候が現れるものは、すべて虚労の範囲に属する。
その病変の過程は、大部分が漸次積み重なって形成される。
病が長びいて体が弱るのが虚、久虚が回復しないものが損、虚損が長びくと労となる。
虚、損、労とは病状の進展でもあり、また相互に関連している。
虚労証の範囲は広いので、先人は五労、六極、七傷などという名称でこれを分類している。
ただしすべての病理変化は、陰虚、陽虚、陰陽両虚などの領域から離れない。」
少々長い解説ですが、傷寒に罹って炙甘草湯証になる方の素体を知ることが出来ると思います。
次回、新しく登場した生薬についてひとつひとつ薬能を記して病態の把握を試みます。
〔炙甘草湯方〕
甘草(四兩炙) 生薑(三兩切) 人參(二兩) 生地黄(一斤) 桂枝(三兩去皮) 阿膠(二兩) 麥門冬(半升去心) 麻仁(半升) 大棗(三十枚擘)
右九味、以清酒七升、水八升、先煮八味、取三升、去滓、内膠烊消盡、温服一升、日三服。一名復脉湯。
甘草(四兩、炙る) 生薑(三兩、切る) 人參(二兩) 生地黄(しょうじおう)(一斤) 桂枝(三兩、皮を去る) 阿膠(あきょう)(二兩) 麥門冬(ばくもんどう)(半升、心を去る) 麻仁(まにん)(半升) 大棗(三十枚、擘く)
右九味、清酒七升、水八升を以て、先ず八味を煮て、三升を取り、滓を去り、膠(きょう)を内れて烊消(ようしょう)し盡(つく)し、一升を温服し、日に三服す。一に、復脉湯(ふくみゃくとう)と名づく。
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