【一七四条】
傷寒八九日、風濕相搏、身體疼煩、不能自轉側、不嘔、不渴、脉浮虛而濇者、桂枝附子湯主之。若其人大便鞕(一云臍下心下鞕)、小便自利者、去桂加白朮湯主之。三十六。
傷寒八、九日、風濕(ふうしつ)相(あ)い搏(う)ち、身體疼煩(とうはん)して、自ら轉側(てんそく)すること能わず、嘔(おう)せず、渴せず、脉浮虛にして濇(しょく)の者は、桂枝附子湯(けいしぶしとう)之を主る。若し其の人大便鞕(かた)く(一云臍下心下鞕)、小便自利する者は、去桂加白朮湯(きょけいかびゃくじゅつとう)之を主る。三十六。
病態を把握するには難解な条文です。
簡単に意訳してみます。
傷寒に罹って8・9日が経過したところ、風邪と湿邪が共に結んで身体が疼き、煩が現れた。
その痛みは、自ら寝返りも出来ないほどである。
そして少陽病の嘔気も無く、陽明病の口渇も無く、脈も浮虚で濇であるのは、桂枝附子湯証である。
しかしもし、その人の大便が硬く、小便が良く出ている者は、去桂加白朮湯証である。
傷寒に罹ってから風湿の邪に冒されるまでの経過が記されていません。
色々と想定できるのですが、この条文中の患者は、風寒湿の三邪気に冒された状態だと想定できます。
そこで桂枝附子湯の方剤を見ると、桂枝湯から芍薬を去り、炮附子を加えたものです。
桂枝去芍薬湯は、「脉促 胸満」でした。
桂枝去芍薬湯は、風寒の邪に冒されて胸満を目標にしていました。
つまり少し病位が上でした。
本条は、風寒の邪に加えて陰邪である湿邪に冒されているため、脈濇となっていることが分かります。
そして続く22条の桂枝去芍薬加附子湯では、上記に「微悪寒」の証候が加わったものでした。
ですので、脉浮虚となっていることも理が合います。
配剤構成は、桂枝附子湯と同じです。
ちなみに桂枝加附子湯は、「四肢微急、難以屈伸」でした。
このあたり、少しややこしいですね。
両方剤を並べて比較してみます。
桂枝去芍薬加附子湯
桂枝三兩 炙甘草二兩 生薑三兩 大棗十二枚 炮附子一枚
桂枝附子湯
桂枝四両 炙甘草二両 生姜三両 大棗十二枚 炮附子三枚
このように比較すると、一目瞭然ですね。
両方剤の違いは、桂枝一両と炮附子二枚ですね。
桂枝一両を加えていることから、風寒湿が相い結んで停滞している場所が、「頭項項痛」部位を中心として広範囲にであるからこそ「自ずと転側」できないくらい疼煩しているのだと理解できます。
そして炮附子2枚を加えていますので、水邪もまた厳しく陽気を阻んでいることが見えてきます。
ちなみに、<薬徴>では、「附子は水気にして骨節及び身体疼痛、屈伸すべからざる者を主冶す。」と、ズバリそのものといった感じですね。
これ以上、あまり解説は必要ないと思います。
次回は去桂加白朮湯について。
〔桂枝附子湯方〕
桂枝(四兩去皮) 附子(三枚炮去皮破) 生薑(三兩切) 大棗(十二枚擘) 甘草(二兩炙)
右五味、以水六升、煮取二升、去滓、分温三服。
桂枝(四兩皮を去る) 附子(三枚、炮じ皮を去り破る) 生薑(三兩切る) 大棗(十二枚擘く) 甘草(二兩炙る)
右五味に、水六升を以て、煮て二升を取り、滓を去り、分かち温め三服す。
〔去桂加白朮湯方〕
附子(三枚炮去皮破) 白朮(四兩) 生薑(三兩切) 甘草(二兩炙) 大棗(十二枚擘)
右五味、以水六升、煮取二升、去滓、分温三服。初一服、其人身如痺、半日許復服之。三服都盡、其人如冒狀、勿怪。此以附子、朮、併走皮内、逐水氣未得除、故使之耳。法當加桂四兩。此本一方二法。以大便鞕、小便自利、去桂也。以大便不鞕、小便不利、當加桂。附子三枚恐多也、虛弱家及産婦、宜減服之。
附子(三枚、炮じ皮を去り破る) 白朮(四兩) 生薑(三兩切る) 甘草(二兩炙る) 大棗(十二枚擘く)
右五味、水六升を以て、煮て二升を取り、滓を去り、分かち温め三服す。初め一服して、其の人身痺(ひ)するが如し、半日許(ばか)りに復た之を服す。三服都(すべ)て盡(つく)し、其の人冒狀(ぼうじょう)の如くなるも、怪しむ勿(な)かれ。此れ附子、朮、併(あわ)せ皮内を走り、水氣を逐(お)いて未だ除くことを得ざるを以ての故に、之をして使(しか)らしむのみ。
法當に桂(けい)四兩を加うべし。此れ、本(もと)一方に二法あり。大便鞕く、小便自利するを以て、桂を去るなり。大便鞕からず、小便不利するを以て、當に桂を加うべし。附子三枚は、多きを恐るるなり。虛弱家(きょじゃくか)及び産婦は、宜しく減らして之を服すべし。
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