【一七二条】
太陽與少陽合病、自下利者、與黄芩湯。若嘔者、黄芩加半夏生薑湯主之。三十四。
太陽と少陽の合病、自下利(じげり)する者は、黄芩湯(おうごんとう)を與う。若し嘔する者は、黄芩加半夏生薑湯之を主る。三十四。
冒頭に、太陽と少陽の合病とありますから、小柴胡湯を用いるべき証と思いきや黄芩湯と黄芩加半夏生姜湯です。
これはどういうことなのでしょうか。
小柴胡湯は、柴胡 黄芩 人参 炙甘草 生姜 大棗 半夏 の七味でした。
黄芩湯は、小柴胡湯から柴胡、人参、半夏、生姜を引いて芍薬を加えたものです。
ですからこの場合、往来寒熱、胸脇苦満、目眩、吐き気などが見られないと想像できます。
腹証奇覧翼に黄芩湯の腹証図がありましたので挙げてみました。
黄芩湯には芍薬が足されていますので、上図のように腹部にある程度の緊張・拘攣があることが分かりますね。
そして燥湿清熱の黄芩は心下痞を主治して下利を治しますので、この場合の下利は湿熱利であることが分かります。
さらに素体に痰飲を持っていると、吐き気が現れるので、黄芩湯に半夏生姜を加えるということですね。
まとめますと、黄芩湯は湿熱の邪が心下部を中心に鬱し、その湿熱が湿熱利となって下っている状態。
黄芩加半夏生姜湯は、黄芩湯に加えて心下の湿痰と邪熱が強く、胃気和降の失調を来した状態だと理解できます。
少陽病は、柴胡剤、往来寒熱、胸脇苦満と思い込んでいましたが、このようなバリエーションもあるということで、実際の臨床では、さらに微妙な病態もあるということですね。
〔黄芩湯方〕
黄芩(三兩) 芍藥(二兩) 甘草(二兩炙) 大棗(十二枚擘)
右四味、以水一斗、煮取三升、去滓、温服一升、日再、夜一服。
黄芩(三兩) 芍藥(二兩) 甘草(二兩炙る) 大棗(十二枚擘く)
右四味、水一斗以て、煮て三升を取り、去滓、一升を温服す、日に再び、夜に一たび服す。
〔黄芩加半夏生薑湯方〕
黄芩(三兩) 芍藥(二兩) 甘草(二兩炙) 大棗(十二枚擘) 半夏(半升洗) 生薑(一兩半一方三兩切)
右六味、以水一斗、煮取三升、去滓、温服一升、日再、夜一服。
黄芩(三兩) 芍藥(二兩) 甘草(二兩炙る) 大棗(十二枚擘く) 半夏(半升洗う) 生薑(一兩半、一方三兩切る)
右六味、水一斗以て、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服す、日に再び、夜に一たび服す。
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