【一六三条】
太陽病、外證未除而數下之、遂協熱而利、利下不止、心下痞鞕、表裏不解者、桂枝人參湯主之。方二十五。
太陽病、外證未だ除かざるに數(しば)しば之を下し、遂に協熱(きょうねつ)して利す、利下(りげ)止まず、心下痞鞕し、表裏解せざる者は、桂枝人參湯之を主る。方二十五。
短い条文ですが、これもまた難解です。
太陽病で外証があったというのですから、外邪を感受したことによって裏証も同時に現れたということです。
そこで正治なのか誤治なのか条文中からは、読み取れないのですがとにかく下法を用いたところ協熱利となって下利が止まらなくなってしまった。
そして心下が痞鞕して表証も解けないので、頭項項痛して悪寒もしている。
このような場合は、桂枝人参湯証だということですね。
協熱下利は、<中国漢方医語辞典>によると、
「裏寒に表熱が重なって引き起こす泄瀉を指す。主要な症状は、形寒身熱、心窩部に痞えて硬い感じがある、腹が下って止まらないなどである。これは寒邪を外感して、外邪がまだ除かれないうちに、誤って下し脾を傷つけたために、外には形寒身熱の表証、内には脾虚腹瀉の裏証が起こり、表裏同病となったのである。」
と記されています。
発熱しているけれど悪寒があり、下利をするたびに正気が泄れて行く脾虚も同時に存在している証ですね。
下記の方剤を見てみると、人参湯に桂枝甘草湯を足した内容です。
桂枝は衝逆を治し、甘草は急迫を治すです。
桂枝人参湯証は、太陽病に太陰病位の下痢を兼ねている証ですね。
人参湯は、<金匱要略・胸痹心痛短気病> 5条
「胸痺心中痞留,氣結在胸,胸滿,脅下逆槍心,枳實薤白桂枝湯主之,人參湯亦主之」
脇下から心に逆搶するとありますので、気が衝き上がって来るのですね。
この逆搶、左脇下の邪は右上に、右脇下の邪は左上に突き上げることを示しているのだそうです。
面白いことが起きてますねぇ、膈の状態がどうなっているのか興味深いものを感じます。
さて、<金匱要略>の記述から、この条文には記されていませんが、表証と裏証に加えて、このような衝逆・逆搶などの兼症も存在している可能性もありますね。
〔桂枝人參湯方〕
桂枝(四兩別切) 甘草(四兩炙) 白朮(三兩) 人參(三兩) 乾薑(三兩)
右五味、以水九升、先煮四味、取五升。内桂、更煮取三升、去滓。温服一升、日再夜一服。
桂枝(四兩、別に切る) 甘草(四兩、炙る) 白朮(三兩) 人參(三兩) 乾薑(三兩)
右五味、水九升を以て、先ず四味を煮て、五升を取る。桂(けい)を内れ、更に煮て三升を取り、滓を去
る。一升を温服し、日に再び夜に一服す。
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