〔十棗湯方〕
芫花(熬) 甘遂 大戟
右三味、等分、各別擣為散。以水一升半、先煮大棗肥者十枚、取八合、去滓、内藥末。強人服一錢匕、羸人服半錢、温服之。平旦服。若下少病不除者、明日更服、加半錢。得快下利後、糜粥自養。
芫花(げんか)(熬る) 甘遂(かんつい) 大戟(だいげき)
右三味、等分し、各別に擣(つ)きて散と為す。水一升半を以て、先ず大棗の肥(ひ)なる者十枚を煮て、八合を取り、滓を去り、藥末(やくまつ)を内(い)る。強人(きょうじん)は一錢匕(ひ)を服し、羸人(るいじん)は半錢を服し、之を温服す。平旦(へいたん)に服す。若し下(げ)少なく病除(のぞ)かざる者は、明日更に服し、半錢を加う。快下利(かいげり)を得たる後は、糜粥(びしゅく)もて自(みずか)らを養う。
下記の配剤を見て頂くと分かるように、大棗以外は有毒で、現在は残念ながら、入手できません。
服用すると、下利が得られ、快癒するそうです。
甘遂は、大陥胸湯にも用いられており、心下・胸部の水を動かすようです。
「腹診考」では、心下痞鞕満に加え、心下を按じて指頭にこたえ、時として脇下に引痛するものを、目付にしています。
また多くは項背強痛の証を兼ねるとありますので、大陥胸丸・湯の証にも似通ったところがありますね。
「腹証奇覧翼」でも同じく、心下痞鞕満して、脇下に引き痛むものを眼目として、これを攻めて、水を瀉すと余症は解すと記されています。
「十棗湯方」を見ますと、方剤名になっている大棗10枚を先に煎じて、粉末にした余薬を入れて服用します。
そして安全のためなのでしょう、陽気が盛んな昼日に服用させ、効果が得られない場合は、翌日になってから少し薬量を増やして服用させなさいと指示しています。
非常に用心深い感じがしますので、起死回生の大瀉法、相当激しい方剤なのだと分かりますね。
大塚敬節は、この方剤の服用後、激しい利尿作用と瀉下が見られると述べています。
そして最後に、快下利を得て症状が治まったのなら、薄い粥で正気を養いなさいとまで述べているので、相当正気を傷るのでしょう、扱いには慎重を要する方剤です。
筆者も、一度服用してみたい方剤のひとつです。
153条は、原文と読み下し文のみ記載しています。
芫花 気味 辛苦寒 有毒
中薬学:逐痰滌痰 殺虫療癬
薬徴:水を逐うを主る。傍ら咳、掣痛を治す。
新古方薬嚢:気を強めよく水を下す故に蓄水に依る咳嗽、上気、喘、呼吸困難等を治す。
甘遂 気味 苦寒 有毒
中薬学:瀉水除湿 逐痰滌飲 消腫散結
薬徴:水を利するを主る。傍ら掣痛・咳煩・短気・小便難・心下満を治す。
新古方薬嚢:胸腹の留飲を下す。故に之に由る短気、胸腹満、を治す。短気は息切れの事を言ふなり。
大戟 気味 苦寒 有毒
中薬学:瀉水除湿 逐痰滌飲 消腫散結
薬徴:水を利するを主る。傍ら掣痛、咳煩を治す。
新古方薬嚢:熱のためにさえぎられ滞りたる水を下すことを主る、而してその能甘遂と相似たる所ありて小異あるものの如し、大戟の根は地中に直入し甘遂は地中を横走す、恐らく人の体中に入りても此れに因みたる働きあるにあらざるや。
大棗 気味甘平
薬徴:攣引拘急を主冶するなり。傍ら咳嗽・奔豚・煩躁・身疼・脇痛・腹中痛を治す。
新古方薬嚢:大棗に緩和の効あるものと見ゆ、また大棗には血の循りを良くするのはたらきあり。
【一五三条】
太陽病、醫發汗、遂發熱、惡寒。因復下之、心下痞。表裏倶虛、陰陽氣並竭、無陽則陰獨。復加燒鍼、因胸煩、面色青黄、膚瞤者、難治。今色微黄、手足温者、易愈。
太陽病、醫汗を發すれども、遂に發熱、惡寒す。因りて復た之を下し、心下痞す。表裏倶(とも)に虛し、陰陽の氣並びに竭(つ)き、陽無ければ則ち陰獨(ひと)りなり。復た燒鍼(しょうしん)を加え、因りて胸煩す。面色青黄(せいおう)、膚(はだ)瞤(じゅん)する者は、治し難し。今色微黄(びおう)、手足温なる者は、愈え易し。
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