今回から、寒実結胸、三物小陥胸湯証に入って参ります。
大陥胸湯は、水熱互結の結胸でした。
三物小陥胸湯の方剤は、記されていませんし<金匱要略>にも記載がありません。
欠損しているのか、それとも三物備急丸<金匱要略・雑病方>P369 3条なのかは、この際除外して、白散を基にして考察していきます。
わざわざ寒実結胸と言っているのですから、文蛤散・文蛤湯証と病理が違うのでしょう。
この寒実結胸なのですが、寒邪が結んでいるのは分かるのですが、水邪との関係はどうなのでしょう。
寒実結胸を<中国漢方医語辞典>で調べてみました。
「結胸証の類型の一つである。太陽病に誤って冷水を吹きかけ、注ぎかけたために、邪熱が寒気によって抑制され、水寒が肺を傷つけ、寒気が胸中に結ばれるために生ずる。主要な症状は、胸痛、心煩、口は渇かない、発熱しないなどである。」
これを見ると、病理の機序は文蛤湯と同じですね。
ただ、<中国漢方医語辞典>では口渇が無いという点に注目することが出来ます。
文蛤散にしろ文蛤湯にしろ、口渇があることはこれまでの解釈で明白です。
まさに混沌としますね。
三物白散湯は、名の通り三種類の方剤です。
薬能を見て行きましょう。
巴豆 気味 辛熱 大毒
中薬学:峻下寒積 逐痰行水 解毒療瘡・蝕腐肌肉
新古方薬嚢:味辛温、辛は則ち気を増し温は則ち気を強む、巴豆に峻しき吐下の効あり、故に胸腹内に異常の停滞物ある時は之を除く事を主る。
桔梗 気味 苦辛 平
中薬学:宣肺袪痰 排膿消腫
薬徴:濁唾・腫膿を主冶するなり。傍ら咽喉痛を治す。
新古方薬嚢:咳を止め痰を去り、膿を消し痛みを鎮む。又よく咽痛を治す。此れみな気を増し気の鬱滞を除くに基づくものなり。
貝母 気味 苦甘 微寒
中薬学:清化熱痰 潤肺止咳 泄熱散結
薬徴:胸膈の鬱結、痰飲を主冶するなり。
新古方薬嚢:気を増し壅滞を通ず故によく痰を去り小便を易からしむ。肺廱、小便難等を治するに用ひらる。
巴豆は、熱薬の峻剤で、取り扱いに注意が必要な薬剤です。
今では入手困難な薬剤です。
桔梗は痰を思わせる排膿。
これより寒実結胸は、寒水というより寒痰になってしまっている可能性がありますね。
口渇が無いにもかかわらず、微寒の貝母が配されています。
方意を解くのは、なかなか困難ですね。
おそらく、桔梗と貝母は、行くところが違うのでしょう。
胸部に寒痰が鬱した部位には、おそらく桔梗が行くのでしょう。
口渇が無いにしろ、胸部に達することが出来ない軽度な熱は、心下に在って貝母が行くところなのではないでしょうか。
そして桔梗と貝母で解かれた寒痰は、巴豆の熱薬によって腑道に導かれて一気に下ると考えてみたのですが、どうでしょうか。
〔白散方〕
桔梗(三分) 巴豆(一分去皮心熬黑研如脂) 貝母(三分)
右三味為散、内巴豆、更於臼中杵之、以白飲和服。
強人半錢匕、羸者減之。病在膈上必吐、在膈下必利。不利、進熱粥一杯。利過不止、進冷粥一杯。
身熱、皮粟不解、欲引衣自覆。
若以水潠之洗之、益令熱劫不得出、當汗而不汗則煩。
假令汗出已、腹中痛、與芍藥三兩如上法。
桔梗(三分) 巴豆(はず)(一分、皮心を去り、熬(い)りて黑くし研(す)りて脂の如くす) 貝母(ばいも)(三分)
右三味、散と為し、巴豆を内れ、更に臼中に於て之を杵(つ)き、白飲を以て和し服す。
強人は半錢匕、羸者(るいしゃ)は之を減ず。病膈上に在れば必ず吐し、膈下に在れば必ず利す。利せざれば、熱粥(ねつしゅく)一杯を進む。
利過ぎて止まざれば、冷粥(れいしゅく)一杯を進む。
身熱皮粟(ひぞく)解せず、衣を引き自ら覆(おお)わんと欲す。
若し水を以て之を潠(ふ)き之を洗えば、益々熱劫(おびや)かされて出づることを得ざらしむ、
當に汗すべくして汗せざれば則ち煩す。
假令(たと)えば汗出で已(おわ)り、腹中痛めば、芍藥三兩を與うること上法の如くす。
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