前回の投稿で、141条の病理はすでに述べていますので、文蛤散について述べます。
文蛤 中薬名 海蛤殻 ハマグリの殻
中薬学:鹹 寒 清肺化痰 軟堅散結 利水消腫
新古方薬嚢:内に熱がこもりたる為にのどかわきて甚だしく水を欲する者を治す。文蛤の特徴はのどかわくと雖も口中からからに燥くと言う事少なく唯無性に水が呑み度なると言ふ所にあり。
文蛤は、ハマグリの貝殻を散にして、単味を服用するとあります。
新古方薬嚢では、文蛤散がどのように使われているのかを見てみます。
「身体に熱があって汗は出ず、さむけもあり、無性に水を飲みたがるもの、但し此れは風邪の初期等に自然に発する証候に非ず、無理に熱を体内に追い込んだりしたときに多く発する証状なり。注意あるべし」
そして文蛤散を服用して、「汗が出ると癒ゆ」とありますので、本条の病理に合っているようにも思えます。
文蛤散は、<金匱要略・消渇小便利淋病>P319 6条にも記載があります。
渇欲飲水不止者、文蛤散主之
この前後の条文を見ても、もうひとつピンときません。
そこで<類聚方広義>尾台榕堂(1799-1870)を見てみると、「文蛤散は文蛤湯に作るべし。文蛤湯、五苓散の二条の標注に詳らかに弁ず」とありますので、次回はこの標注をご紹介して考察したいと思います。
〔文蛤散方〕
文蛤(五兩)
右一味、散為、沸湯以和一方寸匕服。湯用五合。
文蛤(ぶんごう)(五兩)
右一味、散と為し、沸湯を以て一方寸匕(ほうすんひ)和して服す。湯は五合を用う。
〔五苓散方〕
猪苓(十八銖去黑皮) 白朮(十八銖) 澤瀉(一兩六銖) 茯苓(十八銖) 桂枝(半兩去皮)
右五味、為散、更於臼中杵之、白飲和方寸匕、服之、日三服。多飲煖水、汗出愈。
猪苓(十八銖、黑皮を去る) 白朮(十八銖) 澤瀉(一兩六銖) 茯苓(十八銖) 桂枝(半兩、皮を去る)
右五味、散と為し、更に臼中に於て之を杵(つ)き、白飲(はくいん)もて方寸匕を和し、之を服し、日に三服す。多く煖水(だんすい)を飲み、汗出でて愈ゆ。
〔白散方〕
桔梗(三分) 巴豆(一分去皮心熬黑研如脂) 貝母(三分)
右三味為散、内巴豆、更於臼中杵之、以白飲和服。
強人半錢匕、羸者減之。病在膈上必吐、在膈下必利。不利、進熱粥一杯。利過不止、進冷粥一杯。
身熱、皮粟不解、欲引衣自覆。
若以水潠之洗之、益令熱劫不得出、當汗而不汗則煩。
假令汗出已、腹中痛、與芍藥三兩如上法。
桔梗(三分) 巴豆(はず)(一分、皮心を去り、熬(い)りて黑くし研(す)りて脂の如くす) 貝母(ばいも)(三分)
右三味、散と為し、巴豆を内れ、更に臼中に於て之を杵(つ)き、白飲を以て和し服す。
強人は半錢匕、羸者(るいしゃ)は之を減ず。病膈上に在れば必ず吐し、膈下に在れば必ず利す。利せざれば、熱粥(ねつしゅく)一杯を進む。
利過ぎて止まざれば、冷粥(れいしゅく)一杯を進む。
身熱皮粟(ひぞく)解せず、衣を引き自ら覆(おお)わんと欲す。
若し水を以て之を潠(ふ)き之を洗えば、益々熱劫(おびや)かされて出づることを得ざらしむ、
當に汗すべくして汗せざれば則ち煩す。
假令(たと)えば汗出で已(おわ)り、腹中痛めば、芍藥三兩を與うること上法の如くす。
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