いよいよ辨太陽病脉證并治(下)に入って参りました。
いきなりですが、128条から130条は、後人の攙入と思われますので、最後に原文と読み下し文のみ掲載しています。
ですので、131条から解説を始めます。
【一三一条】
病發於陽、而反下之、熱入因作結胸。
病發於陰、而反下之(一作汗出)、因作痞也。所以成結胸者、以下之太早故也。
結胸者、項亦強、如柔痓狀、下之則和、宜大陷胸丸。方一。
病陽に發す、而るに反って之を下し、熱入りて因(よ)りて結胸を作(な)す。
病陰に發す、而(しか)るに反って之を下し(一作汗出)、因りて痞(ひ)を作(な)すなり。
結胸(けっきょう)を成(な)す所以(ゆえん)の者は、之を下すことを太(はなは)だ早きを以ての故なり。
結胸の者は、項も亦(ま)た強(こわば)り、柔痓(じゅうけい)の狀の如く、之を下せば則ち和す、大陷胸丸(だいかんきょうがん)に宜し。方一。
ここでは、結胸になる2つの道筋が記されています。
まず表証で下法をかけたくなるような証があったのでしょうが、誤って下してしまい、熱が落ち込んで結胸となってしまった場合。
裏証であっても、陽明腑実が明確でないのに誤って下法を用いて痞えを起こしてしまい、結胸となった場合の、2通りの経過が記されています。
そして結胸となると、柔痙のように項もまた強ばるので、大陥胸丸で再度下しなさいと記しています。
柔痙に関しましては、<中国漢方医語辞典>によりますと、「熱病の進展過程で、背が強ばりそりかえる、歯を食いしばって口をつぐんで開かないなどの病証をさす」とあります。
柔痙が厳しくなると、いわゆる角弓反射が起きますが、大陥胸丸の項の強ばりは、葛根湯証のそれよりも厳しいことが分かります。
P261<金匱要略・痙湿暍病脈証治>に剛痙と柔痙の記載があります。
剛痙は、発熱悪寒無汗の場合。
柔痙は発熱発汗の場合と区別しています。
太陽病の「頭項強痛」は、柔痙と類似した症候として理解しておいてよいと思います。
P262 <金匱要略・痙湿暍病脈証治>12条栝楼桂枝湯、13条葛根湯、14条大承気湯などに、痙病が現れていますので、ご参考になさってください。
さて、腹証奇覧翼から図を引いてきました。
図の注釈を引用して簡単に述べますと、胸骨が高く起こり、心下もまた按じても痛まないが、項背は常に強ばっており、俗に鳩胸・亀胸というものだとあります。
この証の多くは胎毒によるもので、一時の劇症ではないとしているので、どうやら背虫・亀背などの慢性疾患、先天性の疾患にも、用いているようです。
またこの後に登場する大陥胸湯との違いについては、抵当湯と同じように、外邪によって急に発症した劇症に湯を用いると記されています。
さて、この大陥胸湯証、素体としてどのようなことが考えられるのかを想像してみます。
普段から肩首が凝りやすく、宿食と水飲、陽明の内熱が盛んで腹満・便秘傾向。
そして普段から胸が息苦しく感じたり、階段などを昇るとすぐに息切れ(短気)する人などが想定できるのではないでしょうか。
〔大陷胸丸方〕
大黄(半斤) 蔕藶子(半升熬) 芒消(半升) 杏仁(半升去皮尖熬黑)
右四味、擣篩二味、内杏仁、芒消、合研如脂、和散。取如彈丸一枚、別擣甘遂末一錢匕、白蜜二合、水二升、煮取一升、温頓服之、一宿乃下。如不下、更服、取下為效。禁
如藥法。
大黄(半斤) 蔕藶子(ていれきし)(半升、熬る) 芒消(半升) 杏仁(半升、皮尖を去り、熬りて黑くす)
右四味、二味を擣(つ)き篩(ふる)い、杏仁、芒消を内(い)れ、合わせて研(す)りて脂(あぶら)の如くし、散に和す。彈丸の如きもの一枚取り、別に甘遂(かんつい)末一錢匕(ひ)を擣(つ)き、白蜜二合、水二升もて、煮て一升を取り、温めて之を頓服す、一宿(いっしゅく)にして乃ち下る。
如(も)し下らざれば、更に服す、下(げ)を取るを效(こう)と為(な)す。禁ずること藥法の如くす。
【一二八条】
問曰、病有結胸、有藏結、其狀何如。答曰、按之痛、寸脉浮、關脉沈、名曰結胸也。
問いて曰く、病に結胸(けっきょう)有り、藏結(ぞうけつ)有り、其の狀何如(いかに)と。
答えて曰く、之を按じて痛み、寸脉浮、關脉沈、名づけて結胸と曰うなり。
【一二九条】
何謂藏結。答曰、如結胸狀、飲食如故、時時下利、寸脉浮、關脉小細沈緊、名曰藏結。舌上白胎滑者、難治。
何をか藏結(ぞうけつ)と謂(い)うと。
答えて曰く、結胸狀の如くなるも、飲食故(もと)の如く、時時下利し、寸脉浮、關脉小細(しょうさい)沈緊なるを、名づけて藏結(ぞうけつ)と曰う。舌上白胎滑(はくたいかつ)の者は、治(ち)し難しと。
【一三〇条】
藏結、無陽證、不往来寒熱(一云寒而不熱)、其人反靜、舌上胎滑者、不可攻也。
藏結、陽證無く、往来寒熱せず(一云寒而不熱)、其の人反って靜かにして、舌上胎滑(たいかつ)の者は、攻むべからざるなり。
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