【一一八条】
火逆下之、因燒鍼煩躁者、桂枝甘草龍骨牡蠣湯主之。方六十二。
火逆之を下し、燒鍼(しょうしん)に因りて煩躁(はんそう)する者は、桂枝甘草龍骨牡蠣湯(けいしかんぞうりゅうこつぼれいとう)之を主る。方六十二。
この条文の解釈は、古来より諸説あります。
火逆、下し、焼鍼という三つの手段を施したという説。
焼鍼は、火逆の結果だという説。
火逆と焼鍼を施すのに、なぜ下法をかける証が存在したのか。下法をかけた文は錯簡という説。
どれもどうも、しっくりとこないので配剤からの理解だけに致します。
桂枝甘草龍骨牡蛎湯は、桂枝甘草湯に竜骨・牡蛎を加えたものです。
少し復習です。P68 64条 桂枝甘草湯証
發汗過多、其人叉手自冒心、心下悸欲得按者、桂枝甘草湯主之。
發汗過多、其の人叉手(さしゅ)して自ら心を冒(おお)い、心下悸(き)し按を得んと欲する者は、桂枝甘草湯之を主る。
発汗過多により、表衛が虚して下から気が衝き上がり、心下で鬱している状態でした。
この状態に、煩躁が現れているのですから、心下・胸部のうっ滞が激しいことが分かります。
虚の煩躁です。
この煩躁ですが、P79 107条 柴胡加竜骨牡蠣湯の「煩驚」。
P81 112条 桂枝去芍薬加蜀漆龍骨牡蛎湯の「驚狂」と程度の差か、もしくは類似しているかもしれません。
竜骨は臍下の動を治し、牡蛎は胸腹の動を主冶するとされているからです。
ですから、桂枝加龍骨牡蛎湯は、気が上衝して心熱となり、精神不安などが現れる証に用いることが出来ますね。
鍼を用いるのでしたら、表の衛気を補い、下焦を固めるといった感じでしょうか。
その時々の患者の状態によって、鍼の処方は一律という訳にはいきません。
上衝してきた気を上に逃がしてやることなども、想定しても良いと思います。
119条から122条は、例によって原文と読み下し文のみ記載しておきます。
〔桂枝甘草龍骨牡蠣湯方〕
桂枝(一兩去皮) 甘草(二兩炙) 牡蠣(二兩熬) 龍骨(二兩)
右四味、以水五升、煮取二升半、去滓、温服八合、日三服。
桂枝(一兩皮を去る) 甘草(二兩炙る) 牡蠣(二兩熬る) 龍骨(二兩)
右四味、水五升を以て、煮て二升半を取り、滓を去り、八合を温服し、日に三服す。
【一一九条】
太陽傷寒者、加温鍼必驚也。
太陽の傷寒なる者は、温鍼を加うれば必ず驚(きょう)するなり。
【一二〇条】
太陽病、當惡寒、發熱、今自汗出、反不惡寒、發熱、關上脉細數者、以醫吐之過也。一二日吐之者、腹中飢、口不能食。三四日吐之者、不喜糜粥、欲食冷食、朝食暮吐、以醫吐之所致也、此為小逆。
太陽病、當に惡寒、發熱すべし。今自汗出でて、反って惡寒、發熱せず。關上の脉細數の者は、醫(い)之を吐すること過(あやま)るを以てなり。一、二日之を吐する者は、腹中飢え、口食すること能わず。三、四日之を吐する者は、糜粥(びしゅく)を喜(この)まず、冷食を食せんと欲っし、朝に食して暮に吐す。醫之を吐する以て致す所なり。此を小逆と為す。
【一二一条】
太陽病吐之、但太陽病當惡寒、今反不惡寒、不欲近衣、此為吐之内煩也。
太陽病之を吐す、但だ太陽病は當に惡寒すべし。今反って惡寒せず、衣を近づけることを欲せず。此(こ)れ之(これ)を吐して内煩(ないはん)為(な)すなり。
【一二二条】
病人脉數。數為熱、當消穀引食。而反吐者、此以發汗、令陽氣微、膈氣虛、脉乃數也。數為客熱、不能消穀。以胃中虛冷、故吐也。
病人、脉數(さく)なり。數は熱と為す、當に穀(こく)を消し食を引くべし。而(しか)るに反って吐する者は、此れ汗を發するを以て、陽氣をして微(び)ならしめ、膈氣(かくき)虛し、脉は乃ち數也。數は客熱(きゃくねつ)と為し、穀を消すことを能わず。胃中虛冷(きょれい)するを以ての故に吐するなり。
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