さて、一般的に知られているこの少腹急結について、改めてどのような腹証なのかを確認したいと思います。
少腹とは下腹部のことで、多くは左腸骨窩の部分にみられる硬結で、瘀血の腹証としても知られています。
激しい場合、この部を軽くこするように按圧すると、かなり強い疼痛が現れるということです。
古方派、奥田鳳作(1811―1894)は 「腹診考」の中で、急の一字に意味があり、急結とは一時の急逆であると述べています。
また和久田叔虎著、腹証奇覧翼には、痛まないものは急結ではなく、さらに痛みがあ
っても柔らか味を感じる者は、血結であっても本方の証ではないと述べています。
ここで一回まとめますと、急激でしかも上逆の症状を伴い、しかも下腹部に石のように堅いものが触れ、しかも少し触れるだけで痛みが現れる腹証だということが分かります。
腹証奇覧翼の図です。
上図の説明として、「左の臍傍、天枢の辺りより上下、二・三の間、三指探り按(お)すに、結するものあるを得、之を邪按(お)するに、痛み甚だしく、上へ引きつり痛むことを覚えるものを桃核承気湯の腹証とする」とあります。
しかしながら、<新古方薬嚢>の中で荒木性次は、風邪その他熱のある病気の時によく生じる症状であるとし「イライラして気が落ち着かず、のぼせ性にて便秘の者に用いて効あり」とし「下腹のかたわらの方にしこりのある者には、尚更与ふべき機会多し」と述べています。
この荒木性次の主張だと、性急でない場合にも使えることになります。
また生理前の精神情緒の悪化にも、この少腹急結のある場合は応用可能です。
配剤をみますと、気味苦甘平の桃仁が方剤名となっていますので、おそらく主薬です。
新古方薬嚢では、「血の燥きを潤し滞りを通じ結を解く」とあります。
方意を考察してみます。
この桃仁と気味鹹苦寒の芒硝とペアで瘀血の血燥を潤し、結びを解いて柔らかくする。
辛温の桂枝と甘微温の炙甘草で上衝を治す。
気味苦寒の大黄で通腑して瘀血を排泄するといった感じでしょうか。
鍼ですと、急な狂症の場合は、たとえ表証があっても、十宣もしくは百会刺絡で良いと思います。
標治として、急逆と清熱を行えば良い訳です。
あと少腹急結の瘀血に対しては、足臨泣瀉法が非常に奏功した経験があります。
〔桃核承氣湯方〕
桃仁(五十箇去皮尖) 大黄(四兩) 桂枝(二兩去皮) 甘草(二兩炙) 芒消(二兩)
右五味、以水七升、煮取二升半、去滓、内芒消、更上火微沸、下火。先食温服五合、日三服、當微利。
桃仁(五十箇去皮尖) 大黄(四兩) 桂枝(二兩皮を去る) 甘草(二兩炙る) 芒消(二兩)
右五味、水七升を以て、煮て二升半を取り、滓を去り、芒消を内れ、更に火に上(の)せ微沸(びふつ)し、火より下ろす。食に先だちて五合を温服し、日に三服す、當に微利(びり)すべし。
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