【六九】
發汗、若下之、病仍不解、煩躁者、茯苓四逆湯主之。方三十二。
發汗し、若し之を下し、病仍(な)お解せず、煩躁する者は、茯苓四逆湯(ぶくりょうしぎゃくとう)之を主る。方三十二。
この条文、短いが故になかなか病態を把握するのが難しく感じます。
まず目につくのが「煩躁」です。
これについて荒木性次は、茯苓四逆湯を用いる目安を以下のように述べています。
「悶えて落ち着かざる者、甚だしく悪寒又はガタガタと慄えて止まらざる者あり。
口中カラカラに乾燥する者、水は呑みたがれ共、飲むこと能はず、汗多く出る者、身体又は四肢に痛みある者、夜は睡り難き者、兎に角思ひの外に煩躁あるが目の付け所なり」とあります。
また四逆湯類は、真寒仮熱症状が現れますが、大塚敬節は以下のように述べています。
「傷寒論で熱というのは、必ずしも体温の上昇を伴うとは限らない。
体温が40℃あっても、患者が蒼い顔をして寒がり、手足が冷え、脈が遅であれば、これを寒とする。
また逆に、体温が上昇しなくとも、脉数にして、患者が赤い顔をして熱感を訴える時は、これを熱という。」
つまり真寒仮熱は、いわゆる体温計に現れる数値では鑑別できないということですので、心得ておかれると誤診を免れると思います。
少陰病には、発熱が無いと決めてかかってはいけないということです。
なおこの茯苓四逆湯証は、体表に熱感があり、体表は40度に上昇していても、脈が浮遅であって、手足が厥冷し、舌に苔がなくて湿り、小便が清澄であれば化熱の証と判断しています。
そして配剤を見ると、四逆湯に人参と茯苓が加えられています。
そして条文内に「煩躁」とある訳ですから、この「煩躁」と人参・茯苓との関係に注目されます。
ここで改めて四逆湯証の条文をひらってみます。
P75 92条「病發熱、頭痛、脉反沈、若不差、身體疼痛、當救其裏」
P120 225条「脉浮而遲、表熱裏寒、下利清穀者、四逆湯主之」
P143 323条「少陰病、脉沈者、急温之、宜四逆湯」
P150 353条「大汗出、熱不去、内拘急、四肢疼、又下利厥逆而惡寒者、四逆湯主之」
P160 388条「嘔而脉弱、小便復利、身有微熱、見厥者、難治、四逆湯主之」
これらから脉証をまとめてみます。
まずは、少陰病綱領の脉微細
そして
脉沈
脉浮遅
脉弱
そして病証
下痢清穀
表熱裏寒(真寒仮熱)
身体疼痛
これらの病証は、茯苓四逆湯証に共通しているとして病証を推測してみたいと思います。
茯苓四逆湯証の脉証は、特定しがたく浮いているものと沈んでいるものがあると思います。
しかしいずれも按じると微細、もしくは無力だろうと推測できます。
人参が配されているので、心下痞鞕しているでしょう。
人参によって心下に水があつまるので、煩躁は幾分かマシになると思います。
茯苓が配されているので、腹部のどこかに悸があるはずです。
茯苓は、水と気が結んで交流しなくなった状態を解きます。
これらからイメージできるのは、真寒仮熱の真寒の芯に陽気があり、その周りに水が取り巻いて陽気を閉じ込め、さらに肌表にも陽気がうっ滞しているといったイメージでしょうか。
深部から順に、①陽ー②陰(水)ー③陽といった三層構造で陰陽が交流しない姿です。
茯苓で凝り固まった水を解き、人参を用いて水を心下に集めて上・中を通じさせた上で附子・乾姜で水を動かして利水する。
すると陰陽が交わり始め、閉じ込められていた陽気が陰気と和するようになるので回復するということでしょうか。
ちなみに、この四逆湯類というのは、先天の陽気を水が苦しめている危険な状態と考えています。
みなさまは、どのようにお考えでしょうか。
〔茯苓四逆湯方〕
茯苓(四兩) 人參(一兩) 附子(一枚生用去皮破八片) 甘草(二兩炙) 乾薑(一兩半)
右五味、以水五升、煮取三升、去滓、温服七合、日二服。
茯苓(四兩) 人參(一兩) 附子(一枚、生を用い、皮を去り、八片に破る) 甘草(二兩炙る) 乾薑(一兩半)
右五味に水五升を以て、煮て三升を取る、滓を去り、七合を温服し、日に二服す。
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