【六七】
傷寒、若吐、若下後、心下逆滿、氣上衝胸、起則頭眩、脉沈緊、發汗則經動、身為振振揺者、茯苓桂枝白朮甘草湯主之。方三十。
傷寒、若しくは吐し、若しくは下して後、心下逆滿し、氣上りて胸を衝き、起(た)てば則ち頭眩(ずげん)し、脉沈緊、發汗則ち經を動じ、身(み)振振(しんしん)として揺(よう)を為(な)す者は、茯苓桂枝白朮甘草湯(ぶくりょうけいしびゃくじゅつかんぞうとう)之を主る。方三十。
傷寒に罹って吐き下しを行ったところ、心下に何かが衝き上がってきて満となり、胸にまで気が衝き上がって来るくる感じがする。
起き上がればめまいがして脈は沈緊となってしまった。
ここまでがおそらく苓桂朮甘湯証だと思います。
ここからさらに発汗させるとP74・82条の真武湯証に<身為振振揺者>とありますので、おそらく少陰病位に落ちるのではないかと考えられます。
配剤をみると、甘温の白朮と甘淡平の茯苓で脾気を補い利水しています。
ですから心下の満は、水だと分かりますね。
この心下の水が気を抑え込んでいる姿が、脉沈緊だということになります。
当然、まだ有力の場合が多いと思います。
そして起き上がりますと、気が上衝しますので、さらに心下の停滞が加速されるので頭眩となる訳です。
ですから桂枝で気の上衝を治め、茯苓・白朮で利水すると治まるのですが、これを誤ってさらに発汗させると少陰病位・真武湯証に落ちてしまう訳ですね。
真武湯は茯苓・白朮・芍薬・生姜・炮附子ですから、やはり利水薬ですね。
もう一度、苓桂朮甘湯の配剤と比べてみてください。
身体の気の動きと症状の違いが浮かび上がってくると思います。
苓桂朮甘湯から、桂枝と甘草を去って、生姜、芍薬、附子を加えたものが真武湯になります。
苓桂朮甘湯は、水が一気に上に衝き上げる状態。
真武湯は、水が中焦に留まって清陽を阻んでいる状態です。
どちらも、中焦に水が停留している点と、水を小便利に持って行く点が共通です。
苓桂朮甘湯の症状は、顔面が紅潮し、息苦しかったり動悸がして、じんわりと上半身に汗が出て心神も動揺しそうに感じませんでしょうか。
いわゆる、驚悸・怔忡(せいちゅう)ですね。
一方、真武湯の場合は、顔面が蒼白傾向で意識がはっきりとせず、下半身に冷えが見られて歩行が頼りない感じがするだろうと想像できませんでしょうか。
どちらも心神に影響しますが、その違いなどもイメージできると思います。
症状としては、苓桂朮甘湯証が激しく、真武湯証が穏やかですが、病態としては真武湯証が深刻ですね。
<身為振振揺者>に関しては、雲の上を歩いているかのように、足元がフワフワして頼りない感じと表現される方から、立ち上がれないとおっしゃる方までのバリエーションがあります。
また人込みや電車内など、気が昇りやすい状況で起きるパニック障害などに、この心下逆満がよく見られます。
応用範囲の広い、痰飲の病証です。
飲水や飲酒が過ぎた時の、ご自身の様子を観察されると良いと思います。
<金匱要略・痰飲咳嗽病>P311 16条
「心下に痰飲有り、胸脇支満、目眩するは、苓桂朮甘湯これを主る」
と記載されていますので、前後の条文も含めて目を通して頂くと、さらに理解が深まると思います。
〔茯苓桂枝白朮甘草湯方〕
茯苓(四兩) 桂枝(三兩去皮) 白朮 甘草(各二兩炙)
右四味、以水六升、煮取三升、去滓、分温三服。
茯苓(四兩) 桂枝(三兩皮を去る) 白朮 甘草(各二兩炙る)
右四味、水六升を以て、煮て三升を取り、滓を去り、分かち温め三服す。
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