【六四】
發汗過多、其人叉手自冒心、心下悸欲得按者、桂枝甘草湯主之。方二十七。
發汗過多、其の人叉手(さしゅ)して自ら心を冒(おお)い、心下悸(き)し按ずることを得んと欲する者は、桂枝甘草湯之を主る。方二十七。
短い条文ですね。簡単に意訳してみます。
太陽病で発汗させたところ過多となり、両手で胸を覆うようになり、心下に動悸がして按じたくなるのは、桂枝甘草湯証である。
中医学的には、心陽虚として解説しているものが多いのですが、果たしてそうなのでしょうか。
もしそうでしたら、<金匱要略・胸痹心痛短気病>に、桂枝甘草湯が記載されていでもいいはずです。
方剤を見ると、辛温の桂枝と甘微温の炙甘草のわずか二味です。
桂枝上衝を主治し、甘草急迫を主治すという、古方の解釈に沿って解釈を試みると、心陽虚というよりも肌表の陽虚と考えることが出来ます。
桂枝の味は、軽浮であるので中焦に納まった薬剤はただちに肌表に達して温める作用があります。
そのことで上衝が起こらないようにするのでした。
今、発汗が過ぎてしまったことで、肌表の陽気が一時的に失われ、衛気の源である下焦から陽気が上衝して肌表に向かう姿が心下の動悸であり、胸中で気が停滞している姿が両手で胸を覆う行為と理解できます。
心下で停滞している気を移動させたい行為が、喜按ということになりますね。
このように解釈すると、一段と65条の奔豚気の理解が深まると思います。
本条は、心陽虚というより表の衛陽の虚ということになります。
〔桂枝甘草湯方〕
桂枝(四兩去皮) 甘草(二兩炙)
右二味、以水三升、煮取一升、去滓、頓服。
桂枝(四兩皮を去る) 甘草(二兩炙る)
右二味、水三升を以て、煮て一升を取る、滓を去り、頓服す。
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