ブログ「鍼道 一の会」

31.太陽病(上)29条 疑桂枝湯証と壊病(2)

 さて、元々の病態に、桂枝湯を与えてさらに発汗させると、下肢が冷え上がり(厥)、清陽も上らないので口中に唾が出なくなり(咽中乾)、手足を動かしもだえ苦しむ煩躁が現れ、吐き気や嘔吐するようになると書かれています。

 煩燥も、虚実は別にして熱ですよね。

 以前に、桂枝湯をペットボトルロケットに例えたことがありましたが、今回まさに桂枝湯が瀉法となり、陽気が虚してしまったことが分かると思います。

 このようになってしまった状態には、甘草乾姜湯を用いて陽気を回復させなさいとあります。

 甘草と乾姜、わずか二味の方剤なので即効性があります。

 しかし附子が配剤されていないので、主に中焦の陽気回復を目標にしていることが分かります。

 病位は、太陰病と理解して良いと思います。

 では附子が必要なほど陽気が虚してしまった状態と、どこで鑑別すればよいのでしょうか。

 これは後の四逆湯のところで解説します。

 この甘草乾姜湯で陽気が回復すれば、万事丸く治まる訳です。

 ところが脚が温まって陽気が回復したにもかかわらず、脚の引きつりが治まらない場合は、芍薬甘草湯を与えなさいと書かれています。

 ですから、傷陰がなければ、これで治まるのですが治まらない。

 そこで今度は、芍薬で陰気を回復させると脚の引きつりが治まるということですね。

 ここで重要なのは重篤になった場合は、まず先に陽気の回復を優先させなさいということだと思います。

【二九条】

傷寒脉浮、自汗出、小便數、心煩、微惡寒、脚攣急、反與桂枝、欲攻其表、此誤也。得之便厥、咽中乾、煩躁吐逆者、作甘草乾薑湯與之、以復其陽。若厥愈足温者、更作芍藥甘草湯與之、其脚即伸。若胃氣不和讝語者、少與調胃承氣湯。若重發汗、復加燒鍼者、四逆湯主之。方十六。

傷寒の脉浮、自ずと汗出で、小便數(さく)、心煩、微惡寒し、脚(きゃく)攣急(れんきゅう)するに、反って桂枝を與(あた)え、其の表を攻めんと欲するは、此れ誤りなり。之を得れば便(すなわ)ち厥(けつ)し、咽中乾き、煩躁吐逆する者は、甘草乾薑湯(かんぞうかんきょうとう)を作り之に與え、以て其の陽を復す。若し厥愈え足温かなる者は、更に芍藥甘草湯を作り之を與うれば、其の脚即ち伸びる。若し胃氣和せず讝語(せんご)する者は、少しく調胃承氣湯(ちょうきじょういとう)を與う。若し重ねて汗を發し、復た燒鍼(しょうしん)を加うる者は、四逆湯之を主る。方十六。

 

〔甘草乾薑湯方〕

甘草(四兩炙)乾薑(二兩)

右二味、以水三升、煮取一升五合、去滓、分温再服。

甘草(四兩、炙る)乾薑(二兩)

右二味、水三升を以て、煮て一升五合を取る、滓を去り、分かちて温め再服す。

 

〔芍藥甘草湯方〕

白芍藥甘草(各四兩炙)

右二味、以水三升、煮取一升五合、去滓、分温再服。

白芍藥甘草(各四兩、炙る)

右二味、水三升を以て、煮て一升五合を取る、滓を去り、分かちて温め再服す。

 

〔調胃承氣湯方〕

大黄(四兩去皮清酒洗)甘草(二兩炙)芒消(半升)

右三味、以水三升、煮取一升、去滓、内芒消、更上火微煮令沸、少少温服之。

大黄(四兩、皮を去り清酒で洗う)甘草(二兩、炙る)芒消(ぼうしょう)(半升)

右三味、水三升を以て、煮て一升を取る、滓を去り、芒消を内(い)れ、更に火に上(の)せて微(すこ)しく煮て沸(わか)せしめ、少少之を温服す。

 

〔四逆湯方〕

甘草(二兩炙)乾薑(一兩半)附子(一枚生用去皮破八片)

右三味、以水三升、煮取一升二合、去滓、分温再服。強人可大附子一枚、乾薑三兩。

甘草(二兩、炙る)乾薑(一兩半)附子(一枚、生を用い皮を去り八片に破る)

右三味、水三升を以て、煮て一升二合を取り、滓を去り、分かちて温め再服す。強人は大附子一枚、乾薑三兩とすべし。

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