今回4条から11条までは、後人の覚書と注釈が攙入したものと考えられますので、必要なとことだけ解説を加えます。
さらっと参ります。
【四条】
傷寒一日、太陽受之。脉若靜者、為不傳。頗吐欲、若躁煩、脉數急者、為傳也。
傷寒一日、太陽之を受く。脉若し靜なる者は、傳(つた)えずと為す。頗(すこぶ)る吐(と)さんと欲し、若しくは躁煩(そうはん)し、脉數急(さくきゅう)なる者は、傳(つた)うと為すなり。
冒頭の傷寒は広義の傷寒だと思います。
「この傷寒の病の始めは、太陽に風寒の邪を受けることから始まるのですが、脈の去来がおとなしく感じる場合は、病は太陽病位に留まっている」
これは疑問です。先ずもって、脈だけで判断はできません。他経に伝変したかどうかは、六経の脈と病証で判断いたします。
「ところが吐き気がしたり、手足をバタバタと動かして(躁)、胸のあたりがモヤモヤとして落ち着かない(煩)状態が現れ、脈が速くてひきつったかのように硬い感じの所見が現れれば、これは太陽病位から他の経に伝変したということです」
この条文で伝変した病位は少陽から陽明と想像できます。
しかしいきなり少陰にまで病位が落ちる場合もあります。
するとこのような病証は現れませんので、この条文はある程度参考にしてよいと思いますが、妄信は禁物だと思います。
【五条】
傷寒二三日、陽明、少陽證不見者、為不傳也。
傷寒二三日、陽明、少陽の證(しょう)見(あらわ)れざる者は、傳(つた)えずと為すなり。
この冒頭の傷寒も広義の傷寒でしょう。
傷寒に罹って2~3日が経過しました。それでも陽明と少陽の証が現れないと、病邪はまだ太陽病位にありますよという意味ですね。
おそらく、傷寒の病で勢いが強い場合、もしくは正気が弱っている場合には、一気に他経に伝変しますので、そのことを言っているのだと思いますが、必ずしもこの条文通りではありません。
【六条】
太陽病、發熱而渴、不惡寒者、為温病。若發汗已、身灼熱者、名風温。
風温為病、脉陰陽倶浮、自汗出、身重、多眠睡、鼻息必鼾、語言難出。
若被下者、小便不利、直視、失溲。
若被火者、微發黄色、劇則如驚癇、時痸瘲。火熏之、一逆尚引日、再逆促命期。
太陽病、發熱して渇し、惡寒せざる者は、温病と為す。若し發汗し已(おわ)り、身(み)灼熱する者は、風温と名づく。
風温の病為(た)るや、脉陰陽倶(とも)に浮、自ずと汗出で、身重く、眠睡(みんすい)多く、鼻息必ず鼾(かん)し、語言出で難し。
若し下(くだし)を被(こうむ)る者は、小便利せず、直視して、失溲(しっしゅう)す。
若し火を被(こうむ)る者は、微(すこ)しく黄色を發し、劇しければ則ち驚癇(きょうかん)の如く、時に瘈瘲(けいじゅう)す。火之を熏(くん)ずるは、一逆(いちぎゃく)にして尚(な)お日を引き、再逆(さいぎゃく)すれば命期(めいき)を促す。
この条文は明らかに後人の覚書だと思います。
「傷寒論」全体の中で、温病に触れられているのは、この条文だけです。
寒熱を間違えて治療すると、「命期を促す」とあります。
つまり死なせてしまうぞ、ということですね。
ここは、心得ておくべきところだと思います。
ここは、目を通して読めるようにして頂くだけで良いと思います。
以下7条から10条までは、後人の覚書だと思われ、あまり臨床的な意味がありませんので解説いたしません。
11条は、今後知りおいておくべきところとして解説いたしますね。
【七条】
病有發熱惡寒者、發於陽也。無熱惡寒者、發於陰也。發於陽、七日愈。發於陰、六日愈。以陽數七、陰數六故也。
病にして發熱有りて惡寒する者は、陽に發するなり。熱無くして惡寒する者は、陰に發するなり。陽に發すれば、七日にして愈(い)ゆ。陰に發すれば、六日にして愈ゆ。陽數(ようすう)七、陰數(いんすう)六を以ての故(ゆえ)なり。
【八条】
太陽病、頭痛至七日以上自愈者、以行其經盡故也。若欲作再經者、鍼足陽明、使經不傳則愈。
太陽病、頭痛七日以上に至り自ずと愈ゆる者は、其の經を行(めぐ)り盡(つ)くすを以ての故なり(其の經を行るを以て盡(つ)くる故なり)。若し再經(さいけい)を作(な)さんと欲する者は、足の陽明に鍼し、經をして傳えざらしめば則ち愈ゆ。
【九条】
太陽病欲解時、從巳至未上。
太陽病、解(げ)せんと欲する時は、巳(み)より未(ひつじ)の上に至る。
【一〇条】
風家、表解而不了了者、十二日愈。
風家(ふうけ)、表解(げ)して了了(りょうりょう)たらざる者は、十二日にして愈ゆ。
【一一条】
病人身大熱、反欲得衣者、熱在皮膚、寒在骨髓也。身大寒、反不欲近衣者、寒在皮膚、熱在骨髓也。
病人身(み)大いに熱し、反って衣を得んと欲する者は、熱は皮膚に在り、寒が骨髓に在るなり。身(み)大いに寒(ひ)え、反って衣を近づけんと欲せざる者は、寒は皮膚に在り、熱が骨髓に在るなり。
これはおそらく錯簡で、木簡を並び間違えたのではないかと思うのですが、みなさまどうでしょう。
中医学でいうところの、真寒仮熱と真熱仮寒の説明です。
真寒仮熱は、虚寒の極みで陽気が表に浮き上がってしまい、まさに亡陽の手前です。
真熱仮寒はこの逆で、裏熱の勢いが強すぎて裏に結び、表に浮いてこない状態です。
真寒仮熱は、少陰病証でしかも亡陽なので四逆湯類に相当します。
真熱仮寒は、陽明病証で現れ、大承気湯類などがこれに相当すると考えています。
真熱仮寒の軽いものは、四逆散証などが相当するのではないでしょうか。
筆者は、四逆散は少陽病と理解しているのですが、錯簡なのか、なぜか少陰病編に納められていますので、その時に至ってから改めて精しく解説します。
この四逆湯類と承気湯類は、太陽病編にも出てきますので、その都度解説いたします。
まとめると以下のようになります。
真熱仮寒=承気湯類・・・陽明病位
真寒仮熱=四逆湯類・・・少陰病位
鑑別要点は、そんなに難しくありません。
真寒仮熱は、パッと見た目の望診と切診では熱症状です。
しかし根底は虚寒であるので脈力がありませんし、呼吸や言語に力がなく、熱所見の割りにおとなしい感じになります。
加えて、水を飲みたがるようでいてあまり飲みませんし、冷飲を嫌って温飲を好みます。
この状態で誤治しますと、ただちに命期を促しますので、めったにありませんが、よくよく知り得ておくべき証です。
真熱仮寒は、その真逆です。
望診と切診は寒の症状ですが、根底は陽明腑実ですから、脈は沈んでいても力強く策を呈します。
呼吸や言語に力があるだけでなく、躁煩・煩渇症状を伴い、小便も濃くなります。
この状態もまた、単純に冷えているからとお灸などを施すと、患者さんをえらい目にあわすことになりますので、鑑別点しっかり心得ておくべきですね。
この辺りは、常と変。一般論と特殊論になります。
最初に変、特殊論を持ってきているのは、やはり錯簡だろうと思うのですが、いかがでしょう。
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