今回は12条の後に記されています桂枝湯の方剤構成と気味・薬能の解説を行います。
15条に「気上衝するもの」と記されていますが、桂枝の働きをよく示しています。後の条文に出てきますのでその時に解説いたしますね。
・桂枝の気味辛温
辛いので散じる働きがありますが、そんなに強くないと考えています。桂枝を口にしてもらうと分かるのですが、比較的味も香りも軽い感じがします。
体表の浅い部分、しかも上部に走る薬剤として理解して頂けたらと思います。
・炙甘草の気味甘温
生甘草の気味は甘涼。桂枝湯にはあぶった甘草=炙甘草が用いられています。
甘味は気を留まらせて熱を生じる作用があります。(ちなみに冷やすのもあります)
古方では「急迫を治す」
中医学では、甘草の働きのひとつとして「諸薬を調和する」とされていますが、この考えは必要ないと思います。
甘草を多く用いる時は、薬力を一箇所に留めておきたい場合で、速攻を狙った方剤では甘草が全く使われていません。
筆者は、甘味の剤、蜂蜜で練った丸薬を誤服し、薬剤の効能がなかなか消えないという恐ろしさを、嫌というほど体験しております。
・生姜の気味辛温
古方では「嘔を治す」とありますので、胃気を和降する作用があります。もう一つ言えば、胃の水を散らす働きがあります。
・大棗の気味甘微温
古方では「攣引強急を治す」とあります。こわばり、ひきつるといった感じでしょうか。
やはり甘味ですので、緩める作用ですね。
・芍薬の気味は酸微寒
古方では「結実 拘急を治す」で、結実とは凝り固まるといった感じで、強張りひきつり、動く事が出来ないといった感じでしょうか。
大棗の「攣引強急」よりもさらに動きにくい、固まって動かない状態です。
この芍薬に関しては、稻垣先生ご自身が非常に痛い思いをして悟った薬剤ですので、もっと深く知りたい方は直接聞いてくださいね。
さて、ここで気味という用語が出て参りました。
気は、涼・寒・温・熱の四気を指します。
味は、酸・苦・甘・辛・鹹(かん=塩)の五味のことです。
ざっくりと、五味×寒熱と捉えてくださればと思います。
その他、寒熱のどちらにも偏らない、平。
五味に属さない、淡、渋などもあります。
五味の働き=気の動きは、
酸・収
苦・燥降
甘・緩
辛・散
鹹・軟
というざっくりとした理解で良いと思います。
今後、古方的な薬能と気味を前提に解説を進めていきます。
その他気味には、香りや味による軽重という概念があります。
それによって、薬剤の向かう方向(上下・深浅)があります。
身体を空間として、構成薬剤の1味1味がどこへ向かうのか。
それを組み合わせた方剤全体が、身体のどこを中心としてどこに向かうのか。
これらを候い、鍼を用います。
もう少し解説しますと、湯液は先ず中焦=脾胃に納まります。
その後、中焦=脾胃からどこに身体の気を向かわせるのかということです。
身体を空間として捉えてイメージするのです。
鍼は、体表からのアプローチですが、正邪を直接上下・左右・前後に鍼で気を導くことが出来るので、これはこれで非常に便利な道具です。
そしてこれらは、とどのつまり「補瀉論」に帰結します。
どうでしょう、このように方剤を観ると、がぜん楽しくなって参りませんでしょうか。
次回は、桂枝湯の方意を空間論を用いて解説いたします。
【一二条】
太陽中風、陽浮而陰弱、陽浮者、熱自發。陰弱者、汗自出。嗇嗇惡寒、淅淅惡風、翕翕發熱、鼻鳴乾嘔者、桂枝湯主之。方一。
太陽の中風、陽浮にして陰弱(いんじゃく)、陽浮なる者は、熱自ずと發す。陰弱なる者は、汗自ずと出ず。嗇嗇(しょくしょく)として惡寒し、淅淅(せきせき)として惡風し、翕翕(きゅうきゅう)として發熱し、鼻鳴(びめい)乾嘔(かんおう)する者は、桂枝湯之(これ)を主る。方一。
〔桂枝湯方〕
桂枝(三兩去皮)芍藥(三兩)甘草(二兩炙)生薑(三兩切)大棗(十二枚擘)
右五味、㕮咀三味、以水七升、微火煮取三升、去滓、適寒温、服一升。服已須臾、歠熱稀粥一升餘、以助藥力、温覆令一時許、遍身漐漐微似有汗者益佳。不可令如水流離、病必不除、若一服汗出病差、停後服、不必盡劑。若不汗、更服、依前法。
又不汗、後服小促其間、半日許令三服盡。若病重者、一日一夜服、周時觀之、服一劑盡、病證猶在者、更作服。若汗不出、乃服至二三劑。禁生冷、粘滑、肉麺、五辛、酒酪、臭惡等物。
桂枝(三兩、皮を去る)芍藥(三兩)甘草(二兩、炙(あぶる))生薑(しょうきょう)(三兩、切る)大棗(たいそう)(十二枚、擘(つんざ)く)
右の五味、三味を※1㕮咀(ふそ)し、水七升を以て、微火(びか)にて煮て三升を取り、滓(かす)を去り、寒温に適(かな)えて、一升を服す。服し已(おわ)り※2須臾(しゅゆ)にして、熱稀粥(ねっきかゆ)一升餘(あまり)を歠(すす)り、以て藥力を助け、※3温覆(おんぷく)すること※4一時許(ばか)りならしめ、遍身(へんしん)※5漐漐(ちゅうちゅう)として微(すこ)しく汗有るに似たる者は益々佳(よ)し。水の流離(りゅうり)するが如くならしむべからず。病必ず除かれず。若し一服し汗出で病差(い)ゆれば、後服(ごふく)を停め、必ずしも劑(ざい)を盡(つ)くさず。若し汗せざれば、更に服すること、前法(ぜんぽう)に依(よ)る。
又、汗せざれば、後服は小(すこ)しく其の間を促し、半日許(ばか)りにして三服を盡(つ)くさしむ。若し病重き者は、一日一夜服し、※6周時(しゅうじ)之を觀る、一劑を服し盡(つ)くし、病證猶(な)お在る者は、更に作りて服す。若し汗出でざれば、乃ち服すること二、三劑に至る。生冷(せいれい)、粘滑(ねんかつ)、肉麺(にくめん)、※7五辛(ごしん)、酒酪(しゅらく)、臭惡(しゅうあく)等の物を禁ず。
※
1.㕮咀(ふそ):きざむこと
2.須臾(しゅゆ):しばらくの間
3.温覆(おんぷく):衣服を着たり布団に包まるなど、温かくしていること
4.一時許(ばか):約2時間
5.漐漐(ちゅうちゅう):にじみでる様子
6.周時(しゅうじ):一昼夜
7.五辛(ごしん):ニンニク、ニラの類の類であろう
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