ブログ「鍼道 一の会」

閑話 - 漢方は毒?(最終回)

 これまでの稿で筆者が皆様にお伝えしたいことは、本来、鍼や漢方が内包している素晴らしい世界を少しでも知って頂き、みなさまのお役に立てて欲しいとの思いからです。

 それとともに、漢方や鍼を含む東洋医学は『体にやさしい』『副作用がない』などというイメージや思い込みの危険性も是非知って頂きたいのです。

 

 前回は麻黄を例にしましたが、これよりさらに猛毒として知られているトリカブトの根について少し触れ、最終稿としたいと思います。

 トリカブトの根は、昔から毒矢に用いられている猛毒です。

 漢方では、附子(ブシ)と呼ばれているものがこれに相当します。

 市販されている漢方薬で、附子が配合されているものは、麻黄附子細辛湯とか真武湯など、それに滋養強壮薬と信じられている、八味地黄丸(腎気丸)などです。

 もっともこれらのお薬に配合されている附子は、水でさらし毒気を緩めたものが用いられていますが、基本的に毒であることには変わりありません。

 もちろん、猛毒のまま生附子として使う場合もあります。

 流石に生附子を用いたエキス剤や市販薬はありませんが、四逆湯類がこれに相当します。

 どのような時に用いるかと言いますと、体温が急速に下がり(気が抜け出て)、顔面蒼白となって手足も急に冷え上り、今まさに死に至ろうとする場合です。

 ちなみに四とは四肢・手足の事で、逆とは冷えあがってくる様を表現したものです。

 このような必死の状態に、いうなれば、起死回生のために劇薬を用いているのです。

 この猛毒に、身体は残りのちからを振り絞って反応する、その反応をうまく救命に繋げるのです。

 

 よ~く考えられていますよ。

 そのメカニズムを学んでいると、心がしびれてきます。

 鍼灸術も同じです。

 様々な原因で意識障害を来したり、今まさに死に赴かんとするものに、起死回生の蘇生術は豊富に存在しています。

 

 人類は有史以前から、様々な病に侵され多くの命を失っています。

 死を目前とした人に対して、古人はただ手をこまねいていたわけではありません。

 古代の医師が、考え付く限りのあらゆる手段・方法を用いてこれを救おうとしたのは当然です。

 その方法・手段は、現代でも十分通用します。

 

 病がどのようなものであっても、病苦からその人を救わんとした古人の熱い思いと足跡が、古典にはたくさん残っています。

 

 我々は、そこから多くの事を学び取り、世の方々のお役に立つことを願っています。

 これから鍼術を学ぼうとする方々。

 あらゆる病に対処してきた歴史的事実から多くの事を学び、人々のお役に立つことで自分の身を立てる志を持って頂きたいと願っています。

  また病で悩んでおられる方、是非とも東洋医学を実践されている先生とご縁がございますようにと願っております。

 

 ではここで、このシリーズを終えたいと思います。

 長きにわたるご愛読に感謝いたします。

 

 追伸:

 古来より毒矢に使われていたトリカブトの根。

 筆者もトリカブトは見たことがありますが、花の色は桔梗に似て、とてもきれいなのです。

 美しいものには毒がある・・・あっ、トゲでしたっけ。

 ご興味のある方は、以下のリンクを覗いてみてください。

  ↓         ↓

 毒矢      トリカブト – Wikipedia


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