この記事について
冬の養生について記述されているところでです。春~秋の養生法はともかくも、冬の養生法に関しては、この篇の内容とは異なる筆者の視点を開示しました。
夏の発散から穏やかに収縮していく秋気の流れが、さらに固く収縮していくのが冬です。自然界のあらゆるものが動きを止めて静かになるのが、冬の特徴です。
四気調神大論では、この時期を「収蔵」と象徴的に表現しています。蔵は頑丈で幾重にも壁を厚くした構造を指し、春から秋までに培ってきた元気をその中の奥深く収める時期と解釈されます。
臓腑では、腎気の臓を養う時期だと言えます。
四気調神大論では、冬の過ごし方として、激しく動いて発汗するなどして身体の陽気を漏らしたり乱したりしないよう注意が促されています。そして、早寝遅起きを心がけ、必ず日の出を迎えてから起床することが勧められています。
現代では、学校や仕事のこともあり、日の出・日の入りに合わせて寝起きするのは難しいですね。
また、メンタル面では、積極的・能動的になるよりも、考えや思いを内に秘め、ひそかな心持ちでいることを推奨しています。望み事や欲しいものがあっても、すでにそれが叶っている・手に入っているかのように満ち足りた気持ちで過ごすのがよいとされています。
植物に例えるなら、固い殻に閉じこもり、来るべき春に備えて元気を温存しておくといった種のイメージでしょうか。
これまで春・夏・秋と、季節に適った養生について述べてきましたが、筆者が考える冬の養生法は、四気調神大論の記述からやや逸脱します。その理由はいくつかあります。最大の理由は、『素問』が著された2000年前の人々の生活環境・衣食住と現代人の生活環境が大きく異なる点です。
現代では、家屋の密閉性が高く暖房が完備され、防寒のための衣服や装備も当時とは比べものになりません。また、現代は過食の時代ともいわれ、飲食の傾向も大きく変わっています。
日の出に合わせて朝起きするのが良いといっても、現代では暖房があるのでさほど気にしなくてもよいと思います。ですが、夜更かしは禁物で冬こそ睡眠時間を長くとった方が理に適っています。
ですがいくら暖房や防寒対策が整っていても、夏や秋に比べやはり冬の「収蔵」の気は作用しています。したがって運動しても汗をかきにくい時期です。さらに、お酒、肉、油もの、甘いものなど、陽気の強い食べ物が現代では日常化しています。
このような環境では、陽気が体内に鬱して熱化する傾向が強まります。そのため、冬に症状が現れたり悪化したりするのは、邪気内鬱による実証タイプが多いといえます。
筆者が臨床でよく目にする冬に悪化する病は、うつ病、喘息、アトピーなどです。
アトピーの場合、冬の乾燥により悪化するとされますが、内熱が盛んなために肌表が乾燥しやすいと判断し、清熱のアプローチを行うことで保湿剤を使わなくても症状が落ち着くケースがよく見られます。
また、メンタル面では落ち着いた気持ちでいるのが理想ですが、学校や仕事の時間には季節性がなく、しかも年間を通じて緊張や葛藤状態にあるといっても過言ではありません。
冬の収斂・収縮の蔵の気は、自然界にも人間にも作用するため、七情の内鬱から他の季節以上に化熱・化火しやすい時期といえます。
以上を踏まえ、現代における冬の養生法としては、四気調神大論の内容とは逆に、気が鬱しないよう以下のように工夫・実践することが望ましいと考え提案します。
・身体が温まる程度の軽い運動:体操やヨガで無理なく身体を動かす。(利気になります)
・自然の中で気を解放:防寒をしっかりし、山野に出かけて気を外に向けて解放感を味わう。(理気になります)
・温泉でリラックス:時に温泉にゆっくり浸かり、解放感を感じながら陽気を発散する。(内鬱を発散・瀉法になります)
・食生活の調整:痰を生じる飲食物(お酒、肉、油もの、甘いもの、クリーム、バター、チーズなどの乳製品)を控える。(気を停滞させる痰湿の発生源を減少させます)
冬は年末年始を挟む時期でもありますので、気ぜわしいうえに特に飲食には注意したいものです。
そしてこの四気調神大論の最後には、
「夫れ四時陰陽なる者は萬物の根本なり。聖人は春夏に陽を養い、秋冬に陰を養うは 以って其の根に從うが所以(ゆえん)なり」と記述されており、四季の気の消長に適った生活の重要性を説いています。
そしてさらに、「是れ故に聖人已(すで)に病みたるを治せず、未だ病ざるを治す。已(すで)に亂(みだ) れたるを治せずして未だ亂(みだ)れざるを治すとは此を謂うなり」と、内経医学の治未病を最も尊んでいる思想が理解されます。
そして最後に、病を生じてから手当てするようでは、遅きに失していると締めくくられています。

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