現代日本の医療事情の中で、鍼灸専科、鍼一本で身を立てるのは、かなりハードルの高いことである。
鍼だけで身を立てているものは、おそらく鍼灸師1000人に1人くらいだという話もある。
このような厳しい社会情勢の中で身を立てるには、何が最も大事であるか。
どのようなことがあっても、曲がらない、折れない、屈しない、志が必要である。
発心は、世のため、人のためなどと、うそくさい立派なきれいごとなどでなくてよい。
先ずは自分の身を立てる。自分の身を立てるために、人に立ってもらう。
このくらい利己的であるのが、正直で良い。
真摯に鍼道を追求していれば、自ずと自他の区別がなくなるものだ。
生死ギリギリの患者と対峙すれば、すぐに体感できること。
患者が楽になると、どれだけ自分が楽になるか。
鍼を行うものは、安易な道を採らないことも大切なことだ。
揉んだり、さすったり、電気を用いたり、整体術を併用したりと、治療に際しては鍼以外のことをしないこと。
なにもそれらが悪いわけではない。現に東洋医学には、按摩術として存在している。
患者が良くなるためには、どのような方法・手段をとってもかまわないという意見もあるだろう。
もちろん、その気持ちは理解できる。
しかしそれは、空手の試合に、棒を持ち出してくるようなものだ。
患者が気持ち良くなれば良い、勝てば良いという目先に走っていては、空手の腕など上がろうはずがない。
棒を持ち出して戦うのなら、杖術家として戦うのが、本筋と言うものではないだろうか。
鍼の腕を上げたいと望むなら、まずは鍼だけで病に対峙するという気構えが必要だ。
特に初学者は、あれもこれもと手を染めないことだ。
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