ブログ「鍼道 一の会」

一源三岐について(3)・・・衝脈

一源三岐論

 いよいよ一源三岐論も、いよいよ最後の衝脉に入ってきました。

 
 まず文献を一読して注目すべきは、衝脉の特徴を「五臓六腑の海」「十二経の海「血海」と表現し、五臓六腑のすべては、この衝脉から気血を受けて機能しているのだと述べている点です。

 < 夫衝脉者.五藏六府之海也.五藏六府皆稟焉.=それ衝脉なるものは五臓六腑の海なり。五臓六腑は、皆稟(うけ)るなり>

 
 次いで注目すべきは、『霊枢 動輸』において、同じく足少陰と並んで下行し、足下つまり足少陰の湧泉穴へと流注し、その別枝が足陽明と関係しながら足厥陰の大衝穴に流注していること。
 
 さらに『霊枢 逆順肥痩』では、同じく足少陰と並んで下行し足の甲に出て足陽明にからんで足厥陰の大衝穴に流注していると述べられている。
 
 さらに注目すべきは、衝脉は足の甲で陽明と関係するだけでなく、気街穴=気衝穴で交会しており、『難経 二七難』 においては、気衝穴から足陽明の流注に沿って上行して胸中に至るとされている点である。
 
 まとめると、衝脉流注からは、腎の臓、肝の臓、胃の腑との関係が強調されている。
 
 さらに示唆的なのは、衝脉主治穴が足太陰絡穴の公孫穴である点である。
 
 ここで、経絡の流注的には足陽明との関係が強調されているが、やはり足陽明の裏である中焦:足太陰が重要であることが押さえておくポイントになる。
 
 
 ちなみに足陽明は缺盆穴から気衝穴へと深部・浅部の二本が流注しており、中穴と下穴で足太陰と属絡関係を結んでいる。

 
 衝脉は腎の臓にその源があるのであるから、衝脉主治穴は足少陰の経穴で良さそうなものであるのに、なぜ中焦:足太陰の公孫穴なのであろうか。
 
 この謎がより一層、奇経衝脉の性質と公孫穴の用い方を明確にする。
 
 流注と経穴の位置的関係からみると、公孫穴の位置は、大地と接する足底の少し上の白肉際に位置し、足少陰の然谷穴とほぼ平行に位置している。
 
 足太陰は公孫穴から商丘穴→三陰交穴へと流れ、足厥陰の中封穴と商丘穴はすぐ近くを隣り合い、足少陰:照海穴、足太陰:商丘穴、足厥陰:中封穴は一直線上、近位に位置して三陰交に流れているのが示唆的である。
 
 したがってこの辺りは、どこの経穴を用いても一定、肝・脾・腎の気血が動くわけだが、脾は気血生化の源、肝は蔵血、腎は蔵精と視点をおくと、血を中心として先天・後天関係を実証的に裏付ける関係であることが理解される。
 
 つまり、後天の源である脾は血を生み出し、血は肝に蔵され、気化作用によって精血は互いに同源となり、血と精は相互に性質と名称を変え、精は先天の源である腎に蔵される。
 
 
 してみると、中医学でいう精血相互間の気化作用は、主に衝脉を舞台として行われていることになる
 
 さらには、衝脈の盛衰は、後天の元気に大きく左右され、ひいては腎気の盛衰にまでかかわってくることが理解されよう。 
 
 
 
 ちなみに『素問・上古天真論』に於いて、「二七而天癸至.任脉通.太衝脉盛.月事以時下.故有子.」 とあり、任脈が通じてきたのは、太衝脈(衝脉)が盛んになってきたことの現れである。
 
 女子においては、月経・妊娠・出産・授乳などの生殖機能に大きな役割を担っていることもまた、押さえておくべき重要な点である。
 
 
 
 そして衝脉の気の動向であるが、衝脉の病証として『難経 二』に<衝之爲病.逆氣而裏急.>とあるのがなんとも示唆的である。
 
 「衝」の字義からしても、虚実の別はおいておくとして、上逆症状が中心となることが分かる。
 
 衝脉の何らかの変動によって腹から胸にかけて気が突き上がり、胸腹痛、動悸、息切れ、心胸痛、心神の不安など、中焦から上焦を中心とした症状が生じやすいということである。
 
 そうすると、公孫穴の主治・効能もまた、自ずと知れてくるのではないだろうか。
 
 つまり逆気を一気に引き下ろす作用があり、しかも肝血・腎精をも動かすことができるということである。
 
 この点を押さえておくと、実証の程度が大きい場合ならば、身体上焦部位から穴を選んで瀉法を施し、公孫に引くという手もある。
 
 一方、血虚を伴い上逆症状が明確に呈していれば、単純に補法を施すという手段もあるし、軽く肝気を調整してから公孫に補法を加えるという手もある。
 
 
 それこそ病態の診立て次第で、公孫一穴の応用範囲は無限に広がると思うのですが、皆様いかがでしょうか。
 
 
 疑問は、まだ続きます。
 
 して、一源三岐の任脈主治穴が、なぜ手太陰の列缺穴なのか。
 
 そしてまた、督脈主治穴が、なぜ手太陽の後渓穴なのか。
 
 
 両穴共に上焦:天位の経穴です。
 
 これは神主学説と関係してくるので、いずれ書きます。
 
 
 
 本稿は、以下の3文献を引用していますので、一読してください。
 
1.霊枢 逆順肥痩
  夫衝脉者.五藏六府之海也.五藏六府皆稟焉.
  其上者.出於頏.滲諸陽.潅諸精.
  其下者.注少陰之大絡.出于氣街.循陰股内廉.入膕中.伏行骭骨内.下至内踝之後屬而別.
  其下者.並于少陰之經.滲三陰.
其前者.伏行出屬下.循入大指間.
 
  夫れ衝脉なる者は、五藏六府の海なり。五藏六府皆稟(うけ)るなり。
  其の上なる者は、頏(こうそう)に出で、諸陽を滲(にじ)ませ、諸精に潅(そそ)ぐ。
  其の下なる者は、少陰の大絡に注ぎ、氣街に出で、陰股内廉を循り、膕中(かくちゅう)に入り、骭骨(かんこつ)内を伏行し、下りて内踝の後に至り、屬して別つ。
  其の下なる者は、少陰の經に並び、三陰に滲む。
  其の前なる者は、伏行して(ふ)に出でて屬し、下りてを循り、大指間に入る。
 
2.霊枢 動輸
  衝脉者.十二經之海也.與少陰之大絡.起于腎.下出于氣街.循陰股内廉.邪入膕中.循脛骨内廉.並少陰之經.下入内踝之後.入足下
  其別者.邪入踝.出屬上.入大指之間.注諸絡.以温足脛.
 
  衝脉なる者は、十二經の海なり。少陰の大絡と、腎に起こり、下りて氣街に出で、陰股内廉を循り、邪めに膕中に入り、脛骨内廉を循り、少陰の經に並び、下りて内踝の後にはいり、足下に入る。
  其の別なる者は、邪(なな)めに踝に入り、出でて上に属し、大指之間に入り、諸絡に注ぎ、以って足脛を温める。
 
3.難経 二七難
  衝脉者.起於氣衝.並足陽明之經.夾齊上行.至胸中而散也.

  衝脈なる者は、気衝に起こり、足陽明の経に並んで、齊(さい)を挟んで上行し、胸中に至りて散ずるなり。


 

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