【二二三条】
若脉浮、發熱、渴欲飲水、小便不利者、猪苓湯主之。方十三。
若し脉浮、發熱、渴して飲水せんと欲し、小便不利する者は、猪苓湯(ちょれいとう)之を主る。方十三。
この条文も221条の第一の誤治の後に続く条文だと考えています。
誤治後の経過に、調胃承気湯、白虎加人参湯、そしてこの条文の猪苓湯のバリエーションがあるということですね。
猪苓湯の方意を吟味します。
先ずは生薬の薬能を列記します。
猪苓 気味淡甘平
中薬学:利水滲湿
薬徴:渇して小便利せざるを主冶するなり。
新古方薬嚢:渇を止め小便を利するの効あり。大概内に熱あるものを治す。小便利せずして嘔吐するものにも宜し。
阿膠 気味 甘 平
中薬学: 補血 滋陰 止血 清肺潤燥 血肉友情の品
新古方薬嚢:肌肉の傷れを治し急を緩むることを主る。故に出血を止どめ煩を去る。
滑石 気味 甘 寒
中薬学:利水通淋・止瀉 清熱解暑 祛湿斂瘡
薬徴:小便の不利を主冶するなり。傍ら渇を治するなり。
新古方薬嚢:急を鎮め熱を去り塞がりを開く、故に滑を治し小便を利す。滑石は熱ありて小便の利せざる者を治す。故に滑石の治し得る小便の不利には必ずのどの渇きあるものとなす、之なき者は滑石の主冶する所にはあらざるべし。
これらに「小便不利して冒眩するを主冶」する沢瀉、「悸及び肉瞤筋愓を主冶するなり。傍ら小便不利・頭眩・煩躁を治す」茯苓が加えられたものが猪苓湯です。
ざっと見渡すと、口渇と小便不利があるにもかかわらず、水の停滞を解く方剤であることが分かります。
主薬は、なんといっても方剤名になっている猪苓です。
猪苓は、下焦でうっ滞して熱化した水を通利するイメージでしょうか。
沢瀉は中焦の水を通利するような薬能がイメージできます。
猪苓に似て、生薬の走る所が異なるというところです。
そして水と気の結びを解く茯苓。
滑石は文字通り、滑らかに通利させるイメージ。
阿膠は、逆に水を冷やして粘らせるといったイメージです。
五苓散と比べてみます。
五苓散 沢瀉 猪苓 茯苓 白朮 桂皮 桂枝
猪苓湯 沢瀉 猪苓 茯苓 滑石 阿膠
共に、水を動かすことで清熱する方剤であることが分かります。
五苓散と猪苓湯は、よく似た証候がありますが、先ずは病位が異なることが分かると思います。
猪苓湯証は、下焦に水と熱が結んで生じたもので、脈浮と発熱は小便が止まり、下焦の邪熱が上行している姿ですね。
小便も、恐らく出ていたとしても尿道が熱く感じ、色も濃くて出渋るだろうと推測できます。
次に224条ですが、白虎湯類との鑑別を述べていると考えています。
【二二四条】
陽明病、汗出多而渴者、不可與猪苓湯。以汗多胃中燥、猪苓湯復利其小便故也。
陽明病、汗出ずること多くして渴する者は、猪苓湯を與(あた)うべからず。汗多く胃中燥(かわ)くに、猪苓湯にて復た其の小便を利するを以ての故なり。
127.太陽病(下)170条 171条 白虎加人参湯ー無表證者
鑑別点を復習して頂けたらと思います。
〔猪苓湯方〕
猪苓(去皮) 茯苓 澤瀉 阿膠 滑石(碎各一兩)
右五味、以水四升、先煮四味、取二升、去滓。内阿膠烊消。温服七合、日三服。
猪苓(ちょれい)(皮を去る) 茯苓 澤瀉(たくしゃ) 阿膠(あきょう) 滑石(かっせき)(碎(くだ)く、各一兩)
右五味、水四升を以て、先ず四味を煮て、二升を取り、滓を去る。阿膠を内(い)れて烊消(ようしょう)す。七合を温服し、日に三服す。
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