【六五】
發汗後、其人臍下悸者、欲作奔豚、茯苓桂枝甘草大棗湯主之。方二十八。
發汗後、其の人臍下悸(き)する者は、奔豚(ほんとん)を作(な)さんと欲す、茯苓桂枝甘草大棗湯(ぶくりょうけいしかんぞうだいそうとう)之を主る。方二十八。
64条の桂枝甘草湯証、上衝の病理の上に、病邪が加わった証です。
気味甘淡平の茯苓が配されているので、病邪は水邪であることが分かります。
茯苓は薬徴に、「悸及び肉瞤筋愓を主冶するなり」とありますので、この場合の「悸」は、水と気が結んだものと考えることが出来ます。
そして臍下で動悸しているのは、水と気が結んだ病邪がこの部位に存在していることを示しており、甘平・大棗の配剤により、病邪と正気の緊張の結果として引きつりやこわばりなどの緊張があることが推測されます。
水の塊が突き上がって来る感覚を、子豚が走ると形容したのが奔豚です。
総じて、発汗過多により表陽が虚し、臍下でうっ滞した水熱が一気に上に衝き上げようとしている証です。
方意は、茯苓・大棗で水と気の結びを緩めて水を利し、桂枝で表陽を補い、甘草と併せて上衝の急迫を緩めるといった感じでしょうか。
茯苓桂枝甘草大棗湯の服用後は、身体が温まると同時に小便利を得て治癒すると考えられます。
<金匱要略・奔豚気病> P293 2条
「奔豚の病は少腹より起こり,上って咽喉を衝き,発作すれば死せんと欲し,復また還りて止む。皆恐驚よりこれを得る」
と述べられています。
やはり急激な発作症状が思い浮かびますね。
水の塊が突き上げてくるのですから、動悸や不安感、胸部・咽喉部の閉そく感や苦悶、顔面の紅潮などの症状が現れるだろうと思われます。
現代では、パニック障害やヒステリーなど、精神疾患の分野で扱われる疾患に相当すると考えられます。
現代医学では、難治疾患になるでしょう。
ところが東洋医学では古来から身体にアプローチして、これを治すのですね。
〔茯苓桂枝甘草大棗湯方〕
茯苓(半斤) 桂枝(四兩去皮) 甘草(二兩炙) 大棗(十五枚擘)
右四味、以甘爛水一斗、先煮茯苓、減二升、内諸藥、煮取三升、去滓、温服一升、日三服。作甘爛水法、取水二斗、置大盆内、以杓揚之、水上有珠子五六千顆相逐、取用之。
茯苓(半斤) 桂枝(四兩皮を去る) 甘草(二兩炙る) 大棗(十五枚擘く)
右四味、甘爛水(かんらんすい)一斗を以って、先ず茯苓を煮て、二升を減じ、諸藥を内れ、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服す、日に三服す。甘爛水(かんらんすい)を作るの法、水二斗を取り、
大盆内に置き、杓を以て之を揚げ、水上に珠子(しゅし)五六千顆(か)相(あ)い逐(お)うもの有らば、取りて之を用う。
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