前回、甘草乾姜湯で陽気が回復したにもかかわらず、脚の引きつりが治まらない場合は、芍薬甘草湯を用いて陰気が回復すると脚の攣急も治まるということでした。
もう一度条文を見て下さい。
この後に続く条文「若胃氣不和讝語者、少與調胃承氣湯」は、どこからの続きとして解釈すれば良いのでしょうか。
甘草乾姜湯を服した後なのか、芍薬甘草湯を服した後なのでしょうか。
それとも、疑似桂枝湯証の症候が、調胃承気湯証の場合もあるのかということも考えることが出来ます。
このなぞを解くために、調胃承気湯の方剤構成を見てみましょう。
まず、調胃承気湯は、陽明腑実証の方剤であることを押さえておいて下さい。
大黄 気味 苦寒
薬徴:結毒を通利することを主る。
芒消 気味 鹹苦寒
薬徴:堅をやはらぐることを主る。故に心下痞堅、心下石硬、少腹急結、結胸、燥屎、大便鞕、を治す。傍ら宿食、腹満、少腹腫痞、などの諸般難解の毒を治す。
大黄と芒消は共に、寒薬です。
大黄は内熱を下に導いて大便を通じて排泄し、芒硝は、堅いものを潤しやわらげる気の作用があります。
新古方薬嚢では調胃承気湯証について、
「熱ありて下痢する者、熱ありて便通なき者、風のこぢらかしなどにて幾日も便通なく熱のとれざる者、但しこの場合悪寒の無き者に限る。
本証の熱の様子は、むしむしとして熱苦しく口中燥く者多し、しんに熱ありて便通なく腹大いに脹って口中燥く者」とあります。
条文には、「胃気の和せざるもの」とありますので、食欲不振や吐き気などの症状があってもおかしくありません。
総じて、腹部は少し緊張があり、しかも胃の腑を中心とした内熱の症状があることが分かります。
さて、「若胃氣不和讝語者、少與調胃承氣湯」は、どこからの続きとして考えればいいのでしょうか。
続きは、次回に。
【二九条】
傷寒脉浮、自汗出、小便數、心煩、微惡寒、脚攣急、反與桂枝、欲攻其表、此誤也。得之便厥、咽中乾、煩躁吐逆者、作甘草乾薑湯與之、以復其陽。若厥愈足温者、更作芍藥甘草湯與之、其脚即伸。若胃氣不和讝語者、少與調胃承氣湯。若重發汗、復加燒鍼者、四逆湯主之。方十六。
傷寒の脉浮、自ずと汗出で、小便數(さく)、心煩、微惡寒し、脚(きゃく)攣急(れんきゅう)するに、反って桂枝を與(あた)え、其の表を攻めんと欲するは、此れ誤りなり。之を得れば便(すなわ)ち厥(けつ)し、咽中乾き、煩躁吐逆する者は、甘草乾薑湯(かんぞうかんきょうとう)を作り之に與え、以て其の陽を復す。若し厥愈え足温かなる者は、更に芍藥甘草湯を作り之を與うれば、其の脚即ち伸びる。若し胃氣和せず讝語(せんご)する者は、少しく調胃承氣湯(ちょうきじょういとう)を與う。若し重ねて汗を發し、復た燒鍼(しょうしん)を加うる者は、四逆湯之を主る。方十六。
〔甘草乾薑湯方〕
甘草(四兩炙)乾薑(二兩)
右二味、以水三升、煮取一升五合、去滓、分温再服。
甘草(四兩、炙る)乾薑(二兩)
右二味、水三升を以て、煮て一升五合を取る、滓を去り、分かちて温め再服す。
〔芍藥甘草湯方〕
白芍藥甘草(各四兩炙)
右二味、以水三升、煮取一升五合、去滓、分温再服。
白芍藥甘草(各四兩、炙る)
右二味、水三升を以て、煮て一升五合を取る、滓を去り、分かちて温め再服す。
〔調胃承氣湯方〕
大黄(四兩去皮清酒洗)甘草(二兩炙)芒消(半升)
右三味、以水三升、煮取一升、去滓、内芒消、更上火微煮令沸、少少温服之。
大黄(四兩、皮を去り清酒で洗う)甘草(二兩、炙る)芒消(ぼうしょう)(半升)
右三味、水三升を以て、煮て一升を取る、滓を去り、芒消を内(い)れ、更に火に上(の)せて微(すこ)しく煮て沸(わか)せしめ、少少之を温服す。
〔四逆湯方〕
甘草(二兩炙)乾薑(一兩半)附子(一枚生用去皮破八片)
右三味、以水三升、煮取一升二合、去滓、分温再服。強人可大附子一枚、乾薑三兩。
甘草(二兩、炙る)乾薑(一兩半)附子(一枚、生を用い皮を去り八片に破る)
右三味、水三升を以て、煮て一升二合を取り、滓を去り、分かちて温め再服す。強人は大附子一枚、乾薑三兩とすべし。
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