【二一条】
太陽病、下之後、脉促(促一作縱)、胸滿者、桂枝去芍藥湯主之。方八。
太陽病、之を下したる後、脉促(そく)(促を一つは縱と作す)、胸滿する者は、桂枝去芍藥湯(けいしきょしゃくやくとう)之を主る。方八。
〔桂枝去芍藥湯方〕
桂枝(三兩去皮)甘草(二兩炙)生薑(三兩切)大棗(十二枚擘)
右四味、以水七升、煮取三升、去滓、温服一升。本云桂枝湯、今去芍藥、將息如前法。
桂枝(三兩、皮を去る)甘草(二兩、炙る)生薑(三兩、切る)大棗(十二枚、擘(つんざ)く)
右四味、水七升を以て、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服す。本(もと)云う桂枝湯より、今芍藥を去ると。將息(しょうそく)は前法の如くす。
これも15条P47と同じく、下すべき証があったのでしょう。
ところが15条には無かった「脈促」と「胸満」が現れています。
促脈とは、不規則な脈だとする説もありますが、筆者は数脈で脈の去来が迫ってくるように感じる脈と捉えています。
「胸満」でありますから、気が胸に充満して心神に迫っている状態です。
おそらく、精神的にも追いつめられたかのような感覚がしているだろうと思います。
ここに湿痰などの陰邪が関係してくると、不規則な脈になるだろうと考えます。
これは、臨床で度々確認していることです。
この証では、陰邪の存在よりもむしろ陽邪のうっ滞ですから不規則な脈にはならないだろうと考えます。
桂枝去芍薬湯は、桂枝湯から芍薬を去ったものですから、病位が少し上になります。
芍薬に関しては、すでに桂枝湯のところで述べていますので、ここでは触れません。
この「胸満」は、気が上衝するためですので、やはり桂枝が有効なわけです。
鍼だとやはり上焦部位に取穴するのが良いでしょうね。
表証がまだ残っているので、そのまま手の陽経の経穴を使うのが良いと思いますし、内熱が勝っているようですと陰経に瀉法を加えるなど、脈を診ながら加減するとよいと思います。
思い切って、百会に引いて瀉法でも良いと思います。
その時の身体の虚実の程度と、どこに最も反応が出ているかですね。
要は、「胸満」している気をどのようにさばけば良いのか、どのように・どこへ逃がしてやるのかということさえ分かれば、あとは自由自在です。
112条P81に、桂枝去芍薬加蜀漆牡蛎竜骨救逆湯という、長ったらしい名の方剤があります。
また金匱要略の水気病31条P329に桂枝去芍薬加麻黄附子細辛湯という方剤があります。
各方剤の冒頭に「桂枝去芍薬」とありますが、条文中に「胸満」の症状は記されていません。
ですが胸に気が満ちて一杯になった、「胸満」の状態であることを書き加えて読むとさらに病態が具体的にイメージしやすくなるのではないでしょうか。
このように、「傷寒論」の筆法は、省略に省略を重ねているので、まさに「尋ねる」ように読まないと、なかなか答えてくれない書物です。
その分、得るものも大きいと感じています。
ですからこの桂枝去芍薬湯を理解していると、先に進んで112条や水病31条に行き当たれば、さらに深い理解が得られると思います。
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