内経時代の人々の生活を想像すると、我々現代人の想像以上に感染症が巷に溢れていたのだろうと思う。
本篇で述べられている風証について、当時は未だ外風と内風の区別が明確にされていないことが分かる。
癘風などの記載は、ハンセン氏病が思い浮かぶが、それにしても病人を観察して記録し、それらの観察結果から共通した法則性を見出し、どうにか治療に結び付けたいという古人の切実な思いが伝わってくるようである。
自然界の六気の一つである「風」の概念は、さらに洗練され整理された概念として現代でも立派に通用している。
原 文 意 訳
黄帝が問うて申された。
風邪が人を傷害した場合、寒熱、熱中、寒中、癘風、偏枯、風など様々あり、風邪が原因していてもそれぞれ異なる病を発症し、場合によっては五臓六腑にまで侵入するものがある。
しかし、その理由が解せない。願わくばその説を聞かせてもらいた
岐伯がその問いに対して申された。
風気が皮膚の間に侵入して留まりますと、そこからさらに内部に侵入することもできず、また外に発泄することも状態でありますと、風は行き場を求めて走り回り、元々の個体の状態によって様々な変化を現します。
もし湊理が開いてしまいますと衛気が散じてしまいゾウゾクとした寒気がしますし、閉じると衛気が内に鬱しますので発熱して悶えることになります。
衛気の発泄が過ぎて胃の気までが寒しますと食欲が衰え、内に鬱しますとその熱のために肌肉が消耗して痩せて参ります。
このように寒熱の状態が交代しながら長期化いたしますと、終には悪寒戦慄して全く食欲がなくなってしまいます。これを寒熱と申します。
邪風が陽明経気と共に胃に入り、そこから経脉を循って上りて目の内眥にまで至った時、その人が肥えていれば邪風は外に外泄することができず、内に鬱っして熱中となり、目が内熱のために黄色くなります。
もしその人が痩せていますと、陽気が外泄いたしますので寒して寒中となり、涙が勝手に出るようになります。
邪風と太陽経気が共に侵入し、諸脈の兪穴に行り分肉の間に散じますと、衛気と相対峙して停滞し脉道が不通となります。すると肌肉が膨れ上がって瘡癰を生じます。衛気が凝滞して行らないところは、感覚麻痺の不仁を生じるようになります。
癘気は、栄気が熱せられて腐気となりますので、その気は清くなくなります。従いまして熱気の強い腐気が鼻を通じで出入りいたしますので、鼻柱が腐れ壊れて色も敗れ、皮膚には潰瘍が生じます。これは風寒の邪が脉に係留して去らないためであります。これを癘風とも寒熱とも申します。
春の甲乙の日に風邪に傷られると、肝風となります。
夏の丙丁の日に風邪に傷られると、心風となります。
長夏の戊己の日に風邪に傷られると、脾風となります。
秋の庚辛の日に風邪に傷られると、肺風となります。
冬の壬癸の日に風邪に傷られると、腎風となります。
邪風が直接五臓六腑の兪穴に中りますと、臓腑の風病を生じます。五臓六腑それぞれの門戸から邪風侵入して左右どちらかに中りますと、偏風を生じます。
邪風が風府を循って上りますと、脳風を生じます。
邪風が頭から目系に入りますと、目風を生じて眼が寒します。
飲酒して邪風に中りますと、漏風を生じます。
房事を行い、発汗している時に邪風に中りますと、内風を生じます。
頭から水をかぶったばかりの時に邪風に中れば、首風を生じます。
邪風が長期間体表に在ったものが、内部に侵入して中った場合は、腸風を生じて下痢となります。
邪風がごく浅い体表の湊理に在れば、泄風を生じます。
このように邪風と申しますは、あらゆる病の原因の長(おさ)であり、邪風は様々なところを自由に動き走りますので、その邪風の中るところにより様々な病を生じさせるのであります。
風と申しますは、風向きも強さも常に一定ではなく予測も不可能であります。これが風気の性質なのであります。
帝が申された。
五臓の風病の症状はそれぞれ症状が異なるが、願わくばその診断要点と病態を聞かせてもらいたい。
岐伯が申された。
肺風の症状は、多汗で悪風がし、顔色は浅い白で、時に咳をして短気し、昼間は治まりますが夕暮れになると悪化します。診察要点は、眉の上が白いことです。
心風の症状は、多汗で悪風がし、焦燥感が募って威嚇するかのように怒り、顔色は赤であります。病が甚だしくなると、落ち着いて滑らかに話すことができなくなります。診察要点は、口に在りまして、その色は赤であります。
肝風の症状は、多汗で悪風がし、よく悲しみ、顔色は微かに深い青であります。喉が乾いてよく怒り、時に女子を嫌います。診察要点は目の下に在りまして、その色は青であります。
脾風の症状は、多汗で悪寒がし、身体が疲れやすく、手足を動かすことを嫌います。顔色は薄く微かに黄でありまして、食欲もあまり進みません。診察要点は、鼻の上に在りまして、その色は黄であります。
腎風の症状は、多汗で悪寒がし、顔がふくれあがる様に浮腫が生じ、背骨が痛んでまっすぐに立てなくなります。顔色はすすけたように黒く、膝の裏もぎこちなく思うように動かせなくなります。診察要点は、肌表に在りまして、その色は黒であります。
胃風の症状は、頸部に汗が多く悪寒し、飲食は痞えて下らず、お腹がよく膨満します。衣服を脱ぐとさらにお腹が膨満し、冷たいものを食べると下痢をします。診察要点は、身体は痩せている割に、お腹が大きいことです。
首風の症状は、頭面が多汗で悪寒がし、邪風が至る前日に病が甚だしく、頭痛ががひどく外出できないほどであり、邪風の至る時には少し軽くなります。
漏風の症状は、時に多汗であり常に薄い着物であっても着たがらず、食事をすれば全身に汗が出てあえぐような呼吸をして悪風し、甚だしいときは常に衣服が濡れており、口中が乾燥して渇し、骨のおれるようなことはできません。
泄風の症状は、多汗であり、その汗が衣の上にまで泄れ出るようで、口中は乾燥し、皮膚は水に漬けたかのようであります。この泄風は、骨のおれるようなことはできず、身体中がことごとく痛ん寒します。
帝が申された。よし、よく理解できた。
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