鍼灸医学の懐

蔵気法時論篇第二十二.

 一年の気の盛衰は、同様に十干の十日間と一日における十二支(刻)と同じであることを前提にして書かれており、部分は全体の反映でもあり、全体は部分の在り様を現すという東洋哲学に基づいて書かれている。
 この篇で記載されている病が、臓にある場合の病因が想像し難く、外邪によるものなのか内邪によるものなのか、気の病であるのか血の病であるのか、はたまた寒熱どちらの邪気によるものなのか、判然としないところが多くあるので、筆者の感じるままに意訳を試みた。
 おそらく、五行論的に病が伝化していくのは、文中から外邪によるものと考えるのが妥当かと思うが、以前にも書いた通り、傷寒六経に照らし合わせても、このような記述は筆者の臨床経験に照らし合わせても合致しない。
 そのような中で、「肝を病む者は、兩脇の下、少腹に引きて痛み、人をして善く怒らしむる。虚すれば則ち目〔目〔目〕(こうこう)として見る所なく、耳聞く所なく、善く恐れ、人の將にこれを捕えんとするが如し。」
の文中に、「虚すればすなわち・・・」とあるので、その前文の肝の病証は実と解釈した。
 ところが一般的には、「肝に気虚なし」と言われているが、これをどのように解釈するかである。
「人の將にこれを捕えんとするが如し。」という病証は、足の少陰経脈病証に「氣不足すれば則ち善く恐れ、心愓愓(てきてき)として人の將(まさ)に之を捕えんとするが如し」との記述に非常によく似ている。 
脾は主に腎陽の温煦に根ざし、肝は主に腎精に根ざして肝血から肝気を生じる。
肝は将軍の官であるが作強の官である腎気が失すれば、肝気虚の病証が現れて当然であることが分かる。
脾気虚であれば腎気虚とは限らないが、肝気虚が存在すれば腎気虚がかなりの確率で存在するのではないかと考えられる。
腎気虚と判断するには、それ相応の腎特有の気虚症状を呈さなければならないが、明確な腎気虚の兆候が無くても、三焦兪以下の背部兪穴の反応や原穴の反応と、肝兪、胆兪、大衝穴、丘墟穴などの原穴の反応を参伍すると、意外と謎が解けるかもしれないと予測している。
五味の気味に関して、病因病理を把握しないで機械的に当てはめて用いると、害をもたらすことは論を待たないが、脾に関して鹹味を食しなさいというところでは、病証を想像するのにかなり苦労した。ヒントになったのは、傷寒六経、陽明病に用いられる承気湯類中の芒硝であった。
また五色色体表中の五穀、五果、五畜、五菜と文中とは一致していないが、その故は推測されたし。
澤田流の澤田健は、治療所に色体表を掲げ、いつも眺めていたという逸話が伝わっているが、色体表を覚えることは必須であるが、それに拘泥して固定的に、機械的に運用すると実態を捕えることはできないと言っているように筆者は感じている。
例えば、肝は目に開竅するが、五労では視は心である。共に血に関係し、目の奥で両脉の流注が合流している。目=肝と捉えるのは、あまりに狭小に過ぎる。
諸氏、想像をたくましくされて、願わくば思うところをお聞かせくだされば幸いに存じます。
原 文 意 訳
 
 黄帝が申された。
  人体の各部位をひとつのものとして捉え、その上で四時五行の変化の法則に法り、治療を施すのであるが、どのようですればそれに適い、また反するのであろうか。その得失の極意をお聞かせ願いたい。
 岐伯が、それに対して申された。
 五行と申しますのは、金木水火土でございます。それぞれ四時に従いまして、旺じる時と衰える時がございますので、それを以て人の死生を知り、治療に際して取り計らうのでございます。
四時の変化によって五臓の気の盛衰が定まりますので、その自然界の変化と五臓の変化・病の軽重を捉えまして、死生の時期を推測するのであります。
黄帝が申された。
願わくば、ことこまかに、詳しくそれらを聞きたいのだが。
岐伯が申された。
肝は春に旺じ、足の厥陰と少陽を主に治療対象と致します。日次は木に相当する甲乙であります。
肝は、変化の早い差し迫った状態に苦しみます。例えば急ぐことがあってイライラしたり、急に引き攣れたり、急に冷えあがったりするなどがそうであります。
このような時には、急いで甘味を食しまして、その早急な気を緩め、ゆっくり流れるようにするのでございます。
心は夏に旺じ、手の少陰と太陽を主に治療対象と致します。日次は火に相当する丙丁であります。
心は、緩んでしまった状態に苦しみます。例えば言葉にまとまりが無く、視線の焦点もぼんやりしてどこを見ているのか分からないようであったり、身体が弛緩して動作も緩慢になるなどがそうであります。
このような時には、急いで酸味を食しまして、弛緩した気を引き締めるのでございます。
脾は長夏に旺じ、足の太陰と陽明を主に治療対象と致します。日次は土に相当する戊己であります。
脾は、湿の状態に苦しみます。例えば、湿気は、ベトベトしてひつこく、ぼんやりとした感じでありますので、頭目が霧に包まれたようにはっきりとしなくなり、汗や大小便などの排泄物もベタベタとしてすっきりとせず、なんとなくうっとおしい感じがするなどがそうであります。
このような時には、急いで苦味を食しまして、湿気を乾燥させて気を堅め、気をすっきり通すようにするのでございます。
肺は秋に旺じ、手の太陰と陽明を主に治療対象と致します。日次は金に相当する庚辛であります。
肺は気の上逆に苦しみます。肺が主る呼吸は、呼で外・上、吸で内・下というように、気は陰陽、上下・内外に動きます。ところが何らかの原因で激しく気が上に突き上げますと、呼吸に喘ぎや咳などのようは異常となって現れるのでございます。
このような時には、急いで苦味を食しまして、突き上げてくる気を下に泄して上下・内外の陰陽の気の調和を図るのでございます。
腎は冬に旺じ、足の少陰と太陽を主に治療対象と致します。日次は水に相当する壬癸であります。
腎は燥に苦しみます。全身の津液と陰精は、腎の陽気によってめぐらされます。津液と陰精が不足して燥となりますと、腎陽がひとり盛んとなりまして、益々乾燥が進みまして熱症状が現れ、津液と陰精が尽きてしまいますと腎陽もまた尽きてしまうのであります。このような時には、鹹味で潤すことが必要なのです。
ところが反対に、体表に外邪が居ついて腎陽が阻まれ、陰気であります津液が身体に溢れてむくみを生じたり、また腎陽が内に籠ってしまった上にさらに内熱が盛んでありますと、発熱によって腎精は燃やし尽くされてしまいます。
このような時には、急いで辛味を食しまして、体表を開き内熱を散じて陰陽の調和を図りますと腎精を温存することが出来、全身に潤いが出て参ります。その場合、体表の湊理が開き津液と内熱が汗となって出ますと、全身の気が通じるようになるのでございます。
 病が肝にございますれば、夏には愈えるものですが、もしも夏に愈えませんと、秋になって甚だしくなります。
秋に死せず冬に持ちこしますと、春になってまた病が起きて参ります。この時には、風に当ることを忌み避けなければなりません。
 肝を病みます者は、日次で申しますと、丙丁の日に愈えるものですが、この日に愈えませんと庚辛の日になって病は加重され、庚辛の日に死せず、壬癸の日に持ち越しましますと、甲乙に再び病が起きてくるのであります。
 肝を病みます者は、午前四時の夜明けごろは気分も体調もよろしいのでありますが、午後四時を過ぎると病は甚だしくなり、夜半になりますと安静となります。
肝は発散することを欲しますので、急いで辛味を食してこれを散ずるのが宜しいのでありまして、辛味を用いてこれを補い、酸味でこれを寫します。
これはつまり、辛味で肝の陽気を散じますと肝陰を補うことになります。酸味を用いて収斂し肝陰を補いますと肝陽を寫すことになるのであります。
 病が心にございますれば、長夏には愈えるものですが、もしも長夏に愈えませんと、冬になって甚だしくなります。冬に死せず春に持ち越しますと、夏になってまた病が起きて参ります。この時には温食と暑気が籠ってしまうような熱衣を忌み避けなければなりません。
 心を病みます者は、日次で申しますと、戊己の日に愈えるものですが、この日に愈えませんと壬癸になって病は加重され、この壬癸の日に死せず、甲乙の日に持ち越しますと、丙丁に再び病が起きてくるのであります。
 心を病みます者は、日中は気分も体調もよろしいのでありますが、夜半になりますと甚だしくなりまして、午前四時の夜明けごろに安静となります。
心は陽臓でありますから、潤い、柔軟さを欲しますので、急いで鹹味を食して潤し、心気を柔軟にしてのびやかにするのが宜しいのでありまして、鹹味を用いてこれを補い、甘味でこれを寫します。
 これはつまり、鹹味で心の陰血を補い心気を柔らかく伸びやかにし、甘味で気を緩めて心気の亢ぶりを寫すことになるのであります。
 病が脾にございますれば、秋には愈えるものですが、もしも秋に愈えませんと、春に甚だしくなります。春に死せず夏に持ち越しますと、長夏になって再び病が起きて参ります。この時には、温食と飽食、湿地や乾燥が十分でない濡れた衣服を忌み避けなければなりません。
 脾を病みます者は、日次で申しますと、庚辛の日に愈えるものですが、この日に愈えませんと甲乙の日になって病は加重され、この甲乙の日に死せず、丙丁に持ち越しますと、戊己の日に再び病が起きてくるのであります。
 脾を病みます者は、十三時から十五時ごろに、気分も体調もよろしいのでありますが、日の出には甚だしくなりまして夕方になりますと安静となります。
脾は和緩を欲しますので、急ぎ甘味を食しましてこれを緩めるのが宜しいのでありまして、苦味を用いてこれを寫し、甘味でこれを補います。
 これはつまり、苦味は湿を乾かし堅めますので寫に働き、甘味は気を緩め脾を湿潤に致しますので補うことになるのであります。
 病が肺にございますれば、冬には愈えるものですが、もしも冬に愈えませんと、夏に甚だしくなります。夏に死せず長夏に持ち越しますと、秋になって再び病が起きて参ります。この時には、寒飲食と薄着などの寒衣を忌み避けなければなりません。
 肺を病みます者は、日次で申しますと、壬癸の日に愈えるものでありますが、この日に愈えませんと丙丁の日になって病は加重され、この丙丁の日に死せず戊己に持ち越しますと、庚辛に再び病が起きてくるのであります。
 肺を病みます者は、午後四時ごろの夕方に、気分も体調もよろしいのでありますが、日中に甚だしくなりまして夜半になりますと安静となります。
 肺は、収斂を欲しますので、急ぎ酸味を食しましてこれを収するのがよろしいのでありまして、酸味を用いてこれを補い、辛味でこれを寫します。
 これはつまり、酸味は収斂致しますので発汗を止め、肺気を収めるので補に働き、辛味は散でありますから肺気を散じて寫に働くことになるのであります。
 病が腎にございますれば、春には愈えるものですが、もしも春に愈えませんと、長夏に甚だしくなります。長夏に死せず秋に持ち越しますと、冬になって再び病が起きてくるのであります。この時には、熱いものを食した後に氷水などの冷たいものを飲食すること。また熱すぎるものを食したり火で炙った衣服を着ることは、忌み避けなければなりません。
 腎を病みます者は、日次で申しますと、甲乙に愈えるものでありますが、この日に愈えませんと戊己の日になって病は加重され、この戊己の日に死せず庚辛に持ち越しますと、壬癸に再び病が起きてくるのであります。
 腎を病みます者は、夜半には気分も体調もよろしいのでありますが、土の時刻、辰・戌・丑・未の四刻の頃に甚だしくなりまして、午後四時の夕方になりますと安静となります。
 腎はしっかりとした堅固さを欲しますので、急ぎ苦味を食してこれを堅くするのが宜しいのでありまして、苦味を用いてこれを補い、鹹味でこれを寫します。
 これはつまり、苦味は乾かしますので干物のように堅く腎気を引き締めるので補に働き、鹹味は潤しますので腎気を緩めるので寫に働くことになるのであります。
〔火矣〕(すいあい)・・・熱いものを食べた後に急に冷たいものを飲食すること。
※四季・・・王冰の説 土の時刻、辰・戌・丑・未の四刻
 一般的には、邪気が身体に停留しますと、五行の相剋規律に従って侵入するに従って病は重くなります。
自らが生じるところに至って愈え、自らが尅されるところに至って病は甚だしくなり、自らを生ずるところに至って持ちこたえまして、自分が旺するところに至りますと再び病が起きるのであります。
 従いまして、必ず先ずは五臓の正しい脉をしっかりと捉え、その後本来の脈状と病脉とを観察し、病の安定時期と重くなる時期や死生の時期を推測して告知すべきなのであります。
肝を病む者は、両脇の下から少腹にかけて引きつるように痛み、少しのことでも人をよく怒りっぽくさせます。これは肝気が実する場合であります。
また肝気が虚しますと、目はうつろとなってどこを見ているのか分からないようであり、耳が聞こえているのかいないのか分からないといった状態になり、人がまさに自分を捕えに来るような恐怖に慄(おののく)くようであります。
治療は、その厥陰と少陽の経を取り補瀉を加えます。また気が逆しますと、頭が痛み、耳聾となりまして聞こえなくなり、頬が腫れて参ります。このような場合、両経の血絡から瀉血を施します。
 心を病む者は、胸中が痛み。脇が支えていっぱいとなり、脇の下が痛みます。胸背と肩甲間部が痛み両腕の内側が痛みます。これは心気が実する場合です。
 心気が虚しますと、胸腹が大となり、脇下と腰が互いに引きつるように痛みます。治療は、その少陰と太陽の経を取り補瀉を加え、また舌裏を瀉血いたします。その病がさらに変化いたしましたら、陰穴を刺して瀉血いたします。
 脾を病む者は、身体が重く感じ、すぐに空腹感を感じ、肌肉が萎えて足が思うように動かなくなり、歩こうとするとよく引きつりを起こし、脚下が痛みます。これは脾気が実する場合です。
 脾気が虚しますと、お腹が満ちてゴロゴロと腸鳴がし、未消化便の下痢を起こします。治療は、太陰と陽明と少陰の経を取り補瀉を加え、血絡を瀉血いたします。
 肺を病みます者は、喘ぐように咳をし、氣逆を起こして肩背部が痛んで発汗いたします。また尻、陰部、股、膝、腰骨、ふくらはぎ、むこうずねなど、足のすべてが痛みます。これは肺気が実する場合です。
 肺気が虚しますと、呼吸がに力がなく吸気が満足にできなくなり、耳は聞こえなくなり、(のど)が乾くようになります。
治療は、太陰と足太陽の外側、厥陰の内側の経を取り補瀉を加え、血絡を瀉血いたします。
 腎を病みます者は、お腹が大きくなりまして脛(すね)がむくんだように腫れ、喘ぐような咳をして身体が重く、寝汗が出て、空気の移動、つまり風を嫌うようになります。これは腎気が実する場合です。
 腎気が虚しますと、胸中が痛み、上腹部・下腹部共に痛み、四肢の末端から次第に冷え上がり、楽しくない気持ちになります。治療は、少陰と太陽の経を取り補瀉を加え、血絡を瀉血いたします。
肝の象徴的な色は青、肝が苦しむ急を緩めるには、甘味を食するのがよろしいのであります。
粳米(うるちまい)、牛肉、棗(なつめ)、葵(あおい)などは、すべて甘味のものでございます。
心の象徴的な色は赤、心が苦しむ緩を収するには、酸味を食するのがよろしいのであります。
小豆、犬肉、李(すもも)、韭(にら)などは、すべて酸味のものでございます。
肺の象徴的な色は白、肺が苦しむ上逆を泄らすには、苦みを食するのがよろしいのであります。
麦、羊肉、杏、らっきょうなどは、すべて苦味のものでございます。
脾の象徴的な色は黄、脾は喜燥悪湿で表裏関係の胃は喜潤悪燥であります。脾胃の調和を図るには、時に潤し柔軟にする作用のある鹹味を食するのがよろしいのであります。
大豆、豚肉、栗、豆の若葉などは、すべて鹹味のものであります。
 腎の象徴的な色は黒、腎は過剰な津液や腠理が閉じて衛気が発散できないことに苦しみますので、辛味を食するのがよろしいのであります。
黄黍(もちきび)、鶏肉、桃、ねぎなどは、すべて辛味のものでございます。
 これら穀、肉、果、菜にはすべて気味を有しておりまして、辛味は散じ、酸味は収斂し、甘みは緩め、苦味は堅め、鹹味は潤して柔軟にする気の働きがあるのでございます。
湯液で用います薬種は、邪気を攻めるために用いますので、すべて毒を用います。
五穀は人体の養いの基礎となるもので、五果はその添え物・補助でありまして、五畜は気血を盛んにし、五菜は気血を満たすものでございます。
これら五者の気味を季節やその時々の体調に合わせて食しますと、精気は補われ気は益々盛んとなるのであります。
この五者の辛酸甘苦鹹には、それぞれ辛散、酸収、甘緩、苦堅、鹹軟潤という作用がございますので、四時と五臓それぞれの陰陽の消長を考慮し、治病に際しては、五味の気味と五臓との親和性に従って利用されるのがよろしいかと存じます。
 
 
原文と読みくだし
 
黄帝問曰.合人形.以法四時五行而治.何如而從.何如而逆.得失之意.願聞其事.
岐伯對曰.五行者.金木水火土也.更貴更賎.以知死生.以決成敗.而定五藏之氣.間甚之時.死生之期也.
黄帝問うて曰く。人形を合し、以て四時五行に法りて治す。何如なれば從、何如なれば逆なるや。得失の意、願わくば其の事を聞かん。
岐伯對して曰く。五行なる者は、金木水火土なり。更(こも)ごも貴く更ごも賎し。以て死生を知り、以て成敗を決し、五藏の氣、間甚の時、死生の期を定むるなり。
帝曰.願卒聞之.
岐伯曰.
肝主春.足厥陰少陽主治.其日甲乙.肝苦急.急食甘以緩之.
心主夏.手少陰太陽主治.其日丙丁.心苦緩.急食酸以收之.
脾主長夏.足太陰陽明主治.其日戊己.脾苦濕.急食苦以燥之.
肺主秋.手太陰陽明主治.其日庚辛.肺苦氣上逆.急食苦以泄之.
腎主冬.足少陰太陽主治.其日壬癸.腎苦燥.急食辛以潤之.開.致津液.通氣也.
帝曰く。願わくば卒にこれを聞かん。
岐伯曰く。
肝は春を主り、足厥陰少陽を主治す。其の日は甲乙。肝急を苦しめば、急ぎ甘を食し以てこれを緩む。
心は夏を主り、手少陰太陽を主治す。其の日は丙丁。心緩を苦しめば、急ぎ酸を食し以てこれを収む。
脾は長夏を主り、足太陰陽明を主治す。其の日は戊己。脾濕を苦しめば、急ぎ苦を食し以てこれを燥かす。
肺は秋を主り、手太陰陽明を主治す。其の日は庚辛。肺氣の上逆を苦しめば、急ぎ苦を食し以てこれを泄す。
腎は冬を主り、足少陰太陽を主治す。其の日は壬癸。腎燥を苦しめば、急ぎ辛を食し以てこれを潤す。理を開き、津液を致し、氣を通ずるなり。
病在肝.愈於夏.夏不愈.甚於秋.秋不死.持於冬.起於春.禁當風.
肝病者.愈在丙丁.丙丁不愈.加於庚辛.庚辛不死.持於壬癸.起於甲乙.
肝病者.平旦慧.下哺甚.夜半靜.肝欲散.急食辛以散之.用辛補之.酸寫之.
病肝に在れば、夏に愈ゆ。夏に愈えざれば、秋に甚だし。秋に死せざれば、冬に持して、春に起こる。風に當たるを禁ず。
肝を病む者は、愈ゆること丙丁に在り。丙丁に愈えざれば、庚辛に加う。庚辛に死せざれば、壬癸に持し、甲乙に起こる。
肝を病む者は、平旦に慧(さと)く、下哺に甚だしく、夜半に靜なり。肝は散ずるを欲す。急ぎ辛を食し以てこれを散ず。辛を用いてこれを補い、酸はこれを寫す。
病在心.愈在長夏.長夏不愈.甚於冬.冬不死.持於春.起於夏.禁温食熱衣.
心病者.愈在戊己.戊己不愈.加於壬癸.壬癸不死.持於甲乙.起於丙丁.
心病者.日中慧.夜半甚.平旦靜.心欲.急食鹹以之.用鹹補之.甘寫之.
病心に在れば、愈ゆるは長夏に在り。長夏に愈えざれば、冬に甚だし。冬に死せざれば、春に持して、夏に起こる。温食熱衣を禁ず。
心を病む者は、愈ゆること戊己に在り。戊己に愈えざれば、壬癸に加う。壬癸に死せざれば、甲乙に持し、丙丁に起こる。
心を病む者は、日中に慧く、夜半甚に甚だしく、平旦に靜なり。心はなるを欲す。急ぎ鹹を食し以てこれをす。鹹を用いてこれを補い、甘でこれを寫す。
病在脾.愈在秋.秋不愈.甚於春.春不死.持於夏.起於長夏.禁温食飽食.濕地濡衣.
脾病者.愈在庚辛.庚辛不愈.加於甲乙.甲乙不死.持於丙丁.起於戊己.
脾病者.日慧.日出甚.下靜.脾欲緩.急食甘以緩之.用苦寫之.甘補之.
病脾に在れば、愈ゆるは秋に在り。秋愈えざれば、春に甚だし。春に死せざれば、夏に持して、長夏に起こる。温食飽食、濕地濡衣を禁ず。
脾を病む者は、愈は庚辛に在り。庚辛に愈えざれば、甲乙に加う。甲乙に死せざれば、丙丁に持し、戊己に起こる。
脾を病む者は、日(てつ)慧く、日の出に甚だしく、下靜なり。脾は緩なるを欲す。急ぎ甘を食し以てこれを緩む。苦を用いてこれを寫し、甘でこれを補う。
病在肺.愈在冬.冬不愈.甚於夏.夏不死.持於長夏.起於秋.禁寒飮食寒衣.
肺病者.愈在壬癸.壬癸不愈.加於丙丁.丙丁不死.持於戊己.起於庚辛.
肺病者.下慧.日中甚.夜半靜.肺欲收.急食酸以收之.用酸補之.辛寫之.
病肺に在れば、愈ゆるは冬に在り。冬に愈えざれば、夏に甚だし。夏に死せざれば、長夏に持して、秋に起こる。寒飮食寒衣を禁ず。
肺を病む者は、愈ゆるは壬癸に在り。壬癸に愈えざれば、丙丁に加う。丙丁に死せざれば、戊己に持して、庚辛に起きる。
肺を病む者は、下慧く、日中に甚だしく、夜半に靜なり。肺は收せんと欲す。急ぎ酸を食し以てこれを收む。酸を用いてこれを補い、辛でこれを寫す。
病在腎.愈在春.春不愈.甚於長夏.長夏不死.持於秋.起於冬.禁犯〔火矣〕熱食温炙衣.
腎病者.愈在甲乙.甲乙不愈.甚於戊己.戊己不死.持於庚辛.起於壬癸.
腎病者.夜半慧.四季甚.下靜.腎欲堅.急食苦以堅之.用苦補之.鹹寫之.
病腎に在れば、愈ゆるは春に在り。春に愈えざれば、長夏に甚だし。長夏に死せざれば、秋に持し、冬に起きる。〔火矣〕(すいあい)を犯し、熱食温炙の衣を禁ず。
腎を病む者は、愈ゆるは甲乙に在り。甲乙に愈えざれば、戊己に甚だしく、戊己に死せざれば、庚辛に持し、壬癸に起きる。
腎を病む者は、夜半に慧く、四季に甚だしく、下靜なり。腎は堅きを欲す。急ぎ苦を食し、以てこれを堅くす。苦を用いてこれを補い、鹹でこれを寫す。
夫邪氣之客於身也.以勝相加.至其所生而愈.至其所不勝而甚.至於所生而持.自得其位而起.必先定五藏之脉.乃可言間甚之時.死生之期也.
夫れ邪気の身に客するや、勝を以て相い加う。其の生ずる所にい至りて愈ゆ。其の勝たざる所に至りて甚だし。生ずる所に至りて持し、自ずと其の位を得て起こる。必ず先ず五藏の脉を定めて、乃ち間甚之の時、死生の期を言うべきなり。
肝病者.兩脇下痛引少腹.令人善怒.
虚則目〔目〕〔目〕無所見.耳無所聞.善恐.如人將捕之.取其經厥陰與少陽.氣逆則頭痛.耳聾不聰.頬腫.取血者.
肝を病む者は、兩脇の下、少腹に引きて痛み、人をして善く怒らしむる。
虚すれば則ち目〔目〔目〕(こうこう)として見る所なく、耳聞く所なく、善く恐れ、人の將にこれを捕えんとするが如し。其の厥陰と少陽の經を取る。氣逆すれば則ち頭痛し、耳聾して聰(さと)からず、頬腫る。血をとる者なり。
心病者.胸中痛.脇支滿.脇下痛.膺背肩甲間痛.兩臂内痛.
虚則胸腹大.脇下與腰相引而痛.取其經少陰太陽.舌下血者.其變病.刺中血者.
心を病む者は、胸中痛み、脇支滿し、脇下痛み、膺背肩甲の間痛み、兩臂内痛す。
虚すれば則ち胸腹大なりて、脇下と腰相い引きて痛む。其の少陰太陽、舌下に血なる者の經を取る。其の變病は、中の血なる者を刺す。
脾病者.身重.善肌肉痿.足不收.行善.脚下痛.虚則腹滿腸鳴.食不化.取其經太陰陽明少陰.血者.
脾を病む者は、身重く、善肌(う)え肉痿(な)え.足收まらず。善(けい)して行き、脚下痛む。虚すれば則ち腹滿腸鳴し、泄(そんせつ)して食化せず。其の太陰陽明少陰の經、血する者を取る。
肺病者.喘咳逆氣.肩背痛.汗出.尻陰股膝髀腨胻足皆痛.
虚則少氣不能報息.耳聾.乾.取其經太陰.足太陽之外.厥陰内.血者.
肺を病む者は、喘咳逆氣し、肩背痛み、汗出で、尻、陰、股、膝、髀、(せん)、(こう)、足皆な痛む。
虚すれば則ち少氣し息を報ずること能わず。耳聾し、乾く。其の太陰、足太陽の外、厥陰の内の經、血なる者を取る。
腎病者.腹大脛腫.喘咳.身重.寢汗出.憎風.
虚則胸中痛.大腹小腹痛.清厥.意不樂.取其經少陰太陽.血者.
腎を病む者は、腹大にして脛腫れ、喘咳して、身重く、寢汗出でて、風を憎む。
虚すれば則ち胸中痛み、大腹小腹痛み、清厥し、意樂しまず。其の少陰太陽の經、血なる者を取る。
肝色青.宜食甘.粳米.牛肉.棗.葵.皆甘.
心色赤.宜食酸.小豆.犬肉.李.韭.皆酸.
肺色白.宜食苦.麥.羊肉.杏.薤.皆苦.
脾色黄.宜食鹹.大豆.豕肉.栗..皆鹹.
腎色黒.宜食辛.黄黍.鶏肉.桃.葱.皆辛.
辛散.酸收.甘緩.苦堅.鹹
肝の色は青、宜しく甘を食らうべし。粳米、牛肉、棗、葵は、皆甘なり。
心の色は赤、宜しく酸を食らうべし。小豆、犬肉、李、韭は、皆酸なり。
肺の色は白、宜しく苦を食らうべし。麥、羊肉、杏、薤は、皆苦なり。
脾の色は黄、宜しく鹹を食らうべし。大豆、豕肉、栗、藿(かく)、皆鹹なり。
腎の色は黒、宜しく辛をくらうべし。黄黍、鶏肉、桃、葱、皆辛なり。
辛は散じ、酸は收め、甘は緩め、苦は堅め、鹹は(なん)ず。
毒藥攻邪.五穀爲養.五果爲助.五畜爲益.五菜爲充.
氣味合而服之.以補精益氣.
此五者.有辛酸甘苦鹹.各有所利.或散或收.或緩或急.或堅或.四時五藏病.隨五味所宜也.
毒藥邪を攻め、五穀は養を爲し、五果は助を爲し、五畜は益を爲し、五菜は充を爲す。
氣味合してこれを服し、以て精を補い氣を益す。
此の五者に、辛酸甘苦鹹有りて、各おの利する所有り。或いは散じ或いは收め、或いは緩め或いは急にし、或いは堅め或いはず。四時五藏の病、五味の宜しき所に隨うなり。
 
 

Track Back URL

https://ichinokai.info/daikei/news/%e8%97%8f%e6%b0%a3%e6%b3%95%e6%99%82%e8%ab%96%e7%af%87%e7%ac%ac%e4%ba%8c%e5%8d%81%e4%ba%8c%ef%bc%8e/trackback/

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


The reCAPTCHA verification period has expired. Please reload the page.

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)

▲