鍼灸医学の懐

辨太陽病脉證并治中(2)81~127条

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 底本 趙開美刊 「仲景全書」所収 『傷寒論』十巻

                    日本漢方協会学術部 編 東洋学術出版社

  辨太陽病脉證并治中(2)81~127条

                第六(合六十六法方三十九首并見太陽陽明合病法)

 

【第八一条】

凡用梔子湯、病人舊微溏者、不可與服之。

凡(およ)そ梔子湯を用うるに、病人舊微溏(もとびとう)する者は、之を與え服すべからず。

 

【第八二条】

太陽病發汗、汗出不解、其人仍發熱、心下悸、頭眩、身動、振振欲(一作僻)地者、真武湯主之。方四十三。

太陽病、發汗し、汗出でて解けず、其の人仍(な)お發熱、心下悸、頭眩(づげん)、身瞤動(みじゅんどう)し、振振(しんしん)として(一作僻)地に擗(たお)れんと欲する者は、真武湯(しんぶとう)之を主る。方四十三。

 

〔真武湯方〕

茯苓 芍藥 生薑(各三兩切) 白朮(二兩) 附子(一枚炮去皮破八片)

右五味、以水八升、煮取三升、去滓、温服七合、日三服。

茯苓 芍藥 生薑(各三兩切り) 白朮(二兩) 附子(一枚炮(ほう)じて皮を去り八片を破る)

右五味、水八升を以て、煮て三升を取り、滓を去り、七合を温服す、日に三服す。

 

【第八三条】

咽喉乾燥者、不可發汗。

咽喉乾燥する者、發汗すべからず。

 

【第八四条】

淋家、不可發汗、發汗必便血。

淋家(りんか)、發汗すべからず、發汗すれば必ず便血す。

 

【第八五条】

瘡家、雖身疼痛、不可發汗、汗出則

瘡家(そうか)は、身疼痛すと雖(いえど)も、發汗すべからず、汗出ずれば則ち痓(けい)す。

 

【第八六条】

衄家、不可發汗、汗出必額上陷、脉急緊、直視不能(音喚又胡絹切下同一作瞬)不得眠。

衄家(じくか)、發汗すべからず、汗出ずれば必ず額上(がくじょう)の陷脉(かんみゃく)急緊(きゅうきん)し、直視眴(じゅん)ずること能わず眠ることを得ず(音喚又胡絹切下同一作瞬)。

 

【第八七条】亡血家、不可發汗、發汗則寒慄而振。

亡血家(ぼうけつか)、發汗すべからず、發汗すれば則ち寒慄(かんりつ)して振す。

 

【第八八条】

汗家、重發汗、必恍惚心亂、小便已陰疼、與禹餘粮丸。四十四。(方本闕)

汗家(かんか)、重ねて發汗すれば、必ず恍惚として心亂(みだ)れ、小便已(おわ)りて陰疼(いた)む、禹餘粮丸(うよりょうがん)を與う。四十四。(方は本(もと)闕(か)く)

 

【第八九条】

病人有寒、復發汗、胃中冷、必吐(一作逆)。

病人寒有り、復た發汗し、胃中冷えれば、必ず蚘(かい)を吐す(一作逆)

 

【第九〇条】

本發汗、而復下之、此為逆也。若先發汗、治不為逆。本先下之、而反汗之、為逆。若先下之、治不為逆。

本(もと)發汗し、而(しこう)して復た之を下すは、此れ逆を為すなり。若し先ず發汗するは、治は逆と為さず。本先ず之を下し、而して反って之を汗するは、逆と為す。若し先ず之を下すは、治は逆と為さず。

 

【第九一条】

傷寒、醫下之、續得下利清穀不止、身疼痛者、急當救裏。後身疼痛、清便自調者、急當救表、救裏宜四逆湯、救表宜桂枝湯。四十五(前の第十二方を用う)。

傷寒、醫之を下し、續いて下利を得て清穀止まず、身(み)疼痛する者は、急いで當(まさ)に裏を救うべし。後(のち)身疼痛し、清便自ら調う者は、急いで當に表を救うべし、裏を救うには四逆湯に宜しく、表を救うには桂枝湯に宜し。四十五(前に第十二方を用う)。

 

【第九二条】

病發熱、頭痛、脉反沈、若不差、身體疼痛、當救其裏。

病(やまい)發熱、頭痛し、脉反って沈(ちん)、若し差えず、身體疼痛するは、當に其の裏を救うべし。

 

〔四逆湯方〕

甘草(二兩炙) 乾薑(一兩半) 附子(一枚生用去皮破八片)

右三味、以水三升、煮取一升二合、去滓、分温再服、強人可大附子一枚、乾薑三兩。

甘草(二兩炙る) 乾薑(一兩半) 附子(一枚、生を用い、皮を去り、八片を破る)

右三味、水三升を以て、煮て一升二合を取り、滓を去り、分かち温め再服す。強人は、大附子一枚、乾薑三兩とすべし。

 

【第九三条】

太陽病、先下而不愈、因復發汗。以此表裏倶虚、其人因致冒、冒家汗出自愈。所以然者、汗出表和故也。裏未和然後復下之。

太陽病、先ず下して愈えず、因(よ)りて復た發汗す。此れを以て表裏倶に虚し、其の人因りて冒(ぼう)を致す、冒家(ぼうか)は汗出ずれば自ら愈ゆ。

然(しか)る所以(ゆえん)の者は、汗出ずれば表和するが故なり。裏未だ和せざれば然る後に復た之を下す。

 

【第九四条】

太陽病未解、脉陰陽倶停(一作微)、必先振慄、汗出而解。但陽脉微者、先汗出而解。但陰脉微(一作尺脉實)者、下之而解。若欲下之、宜調胃承氣湯。四十六(用前第三十三方一云用大柴胡湯)。

太陽病未だ解(げ)せず、脉陰陽倶に停まるは(一作微)、必ず先ず振慄(しんりつ)し、汗出でて解す。但だ陽脉微の者は、先ず汗出でて解す。但だ陰脉微の(一作尺脉實)者は、之を下せば解す。若し之を下さんと欲すれば、調胃承氣湯(ちょういじょうきとう)に宜し。四十六(前の第三十三方を用う、一に云う、大柴胡湯を用う)。

 

【第九五条】

太陽病、發熱、汗出者、此為榮弱衛強、故使汗出。欲救邪風者、宜桂枝湯。四十七(方用前法)。

太陽病、發熱し、汗出ずる者は、此れ榮弱衛強(えいじょくえきょう)と為す、故に汗を出さしむる。邪風(じゃふう)を救わんと欲する者は、桂枝湯に宜し。四十七(方は前法を用う)。

 

【第九六条】

傷寒五六日中風、往来寒熱、胸脇苦滿、嘿嘿不欲飲食、心煩喜嘔、或胸中煩而不嘔、或、或腹中痛、或脇下痞、或心下悸、小便不利、或不、身有微熱、或者、小柴胡湯主之。方四十八。

傷寒五六日中風、往来寒熱、胸脇苦滿、嘿嘿(もくもく)として飲食欲せず、心煩喜嘔(きおう)し、或いは胸中煩して嘔せず、或いは渇っし、或いは腹中痛み、或いは脇下(きょうか)痞鞕し、或いは心下悸し、小便利せず、或いは渇せず、身に微熱有り、或いは欬(がい)する者は、小柴胡湯之を主る。方四十八。

 

〔小柴胡湯方〕

柴胡(半斤) 黄(三兩) 人參(三兩) 半夏(半升洗) 甘草(炙) 生薑(各三兩切) 大棗(十二枚擘)

右七味、以水一斗二升、煮取六升、去滓、再煎取三升、温服一升、日三服。若胸中煩而不嘔者、去半夏人參、加樓實一枚。若、去半夏、加人參合前成四兩半、樓根四兩。若腹中痛者、去黄、加芍藥三兩。若脇下痞、去大棗、加牡蠣四兩。若心下悸、小便不利者、去黄、加茯苓四兩。若不、外有微熱者、去人參、加桂枝三兩、温覆微汗愈。若者、去人參大棗生薑、加五味子半升、乾薑二兩。

柴胡(半斤) 黄芩(三兩) 人參(三兩) 半夏(半升洗う) 甘草(炙る) 生薑(各三兩切る) 大棗(十二枚擘く)

右七味、水一斗二升を以て、煮て六升を取り、滓を去り、再煎して三升を取り、一升を温服し、日に三服す。若し胸中煩して嘔せざる者は、半夏人參を去り、栝樓實(かろじつ)一枚を加う。若し渇するは、半夏を去り、人參を前に合わせて四兩半と成し、栝樓根(かろこん)四兩を加う。若し腹中痛む者は、黄芩を去り、芍藥三兩を加う。若し脇下痞鞕するは、大棗を去り、牡蠣(ぼれい)四兩を加う。若し心下悸し、小便利せざる者は、黄芩を去り、茯苓四兩を加う。若し渇せず、外に微熱有る者は、人參を去り、桂枝三兩を加え、温覆(おんぷく)して微(すこ)しく汗すれば愈ゆ。若し欬する者は、人參、大棗、生薑を去り、五味子半升、乾薑二兩を加う。

 

【第九七条】

血弱、氣盡、理開、邪氣因入、與正氣相搏、結於脇下。正邪分爭、往来寒熱、休作有時、嘿嘿不欲飲食。藏府相連、其痛必下、邪高痛下、故使嘔也(一云藏府相違其病必下脇鬲中痛)、小柴胡湯主之。服柴胡湯已、者屬陽明、以法治之。四十九(用前方)。

血弱く、氣盡(つ)き、腠理開き、邪氣因(よ)りて入り、正氣と相(あ)い搏(う)ち、脇下に結ぶ。正と邪と分ち爭い、往来寒熱休作(きゅうさ)に時有り、嘿嘿(もくもく)として飲食欲せず。藏府相い連り、其の痛み必ず下り、邪高く痛み下(ひく)し。故に嘔せしむるなり(一云藏府相違其病必下脇鬲中痛)、小柴胡湯之を主る。柴胡湯を服し已(おわ)り、渇する者は陽明に屬す、法を以て之を治す。四十九(前方を用う)。

 

【第九八条】

得病六七日、脉遲浮弱、惡風寒、手足温。醫二三下之、不能食而脇下滿痛、面目及身黄、頸項強、小便難者、與柴胡湯、後必下重。本飲水而嘔者、柴胡湯不中與也、食穀者

病を得ること六、七日、脉遲浮弱、惡風寒し、手足温なり。醫、二三之を下し、食すること能わずして脇下滿痛し、面目(めんもく)及び身(み)黄し、頸項(けいこう)強り、小便難の者は、柴胡湯を與(あた)うれば、後必ず下重す。本渇っし水を飲みて嘔する者は、柴胡湯與うるに中(あた)らざるなり、穀を食する者は噦(えつ)す。

 

【第九九条】

傷寒四五日、身熱、惡風、頸項強、脇下滿、手足温而者、小柴胡湯主之。五十(用前方)。

傷寒四五日、身熱、惡風、頸項強り、脇下滿、手足温にして渇する者は、小柴胡湯之を主る。五十(前方を用う)。

 

【第一〇〇条】

傷寒、陽脉、陰脉弦、法當腹中急痛、先與小建中湯。不差者、小柴胡湯主之。五十一(用前方)。

傷寒、陽脉濇、陰脉弦、法は當(まさ)に腹中急痛するに、先ず小建中湯を與う。差(い)えざる者は、小柴胡湯之を主る。五十一(前方を用う)。

 

〔小建中湯方〕

桂枝(三兩去皮) 甘草(二兩炙) 大棗(十二枚擘) 芍藥(六兩) 生薑(三兩切) 膠飴(一升)

右六味、以水七升、煮取三升、去滓、内飴、更上微火消解。温服一升、日三服。嘔家不可用建中湯、以甜故也。

桂枝(三兩皮を去る) 甘草(二兩炙る) 大棗(十二枚擘く) 芍藥(六兩) 生薑(三兩切る) 膠飴(こうい)(一升)

右六味、水七升を以て、煮て三升を取り、滓を去り、飴を内(い)れ、更に微火(びか)に上(の)せて消解し。一升を温服し、日に三服す。嘔家(おうか)は建中湯を用うべからず。甜(あま)きを以ての故なり。

 

【第一〇一条】

傷寒中風、有柴胡證、但見一證便是、不必悉具。凡柴胡湯病證而下之、若柴胡證不罷者、復與柴胡湯、必蒸蒸而振、却復發熱汗出而解。

傷寒中風、柴胡の證有るは、但だ一證を見(あらわ)せば便ち是なり、必ず悉(ことごと)く具えず。凡そ柴胡湯の病證にして之を下す。若し柴胡の證罷(や)まざる者は、復た柴胡湯を與う、必ず蒸蒸(じょうじょう)として振い、却(かえ)って復た發熱し汗出でて解す。

 

【第一〇二条】

傷寒二三日、心中悸して而煩者、小建中湯主之。五十二(用前第五十一方)。

傷寒二三日、心中悸して煩する者は、小建中湯之を主る。五十二(前の第五十一方を用う)。

 

【第一〇三条】

太陽病、過經十餘日、反二三下之。後四五日、柴胡證仍在者、先與小柴胡。嘔不止、心下急(一云嘔止小安)、鬱鬱微煩者、為未解也、與大柴胡湯、下之則愈。方五十三。

太陽病、過經(かけい)すること十餘日、反って二三之を下す。後四、五日、柴胡の證仍(な)お在(あ)る者は、先ず小柴胡を與う。嘔(おう)止まず、心下急(しんかきゅう)し(一云嘔止小安)、鬱鬱(うつうつ)として微煩(びはん)する者は、未だ解せずと為すなり、大柴胡湯を與え、之を下せば則ち愈ゆ。方五十三。

 

〔大柴胡湯方〕

柴胡(半斤) 黄(三兩) 芍藥(三兩) 半夏(半升洗) 生薑(五兩切) 枳實(四枚炙) 大棗(十二枚擘)

右七味、以水一斗二升、煮取六升、去滓再煎、温服一升、日三服。一方、加大黄二兩。若不加、恐不為大柴胡湯。

柴胡(半斤) 黄芩(三兩) 芍藥(三兩) 半夏(半升洗う) 生薑(五兩切る) 枳實(きじつ)(四枚炙る) 大棗(十二枚擘く)

右七味、水一斗二升を以て、煮て六升を取る、滓を去り再煎し、一升を温服し、日に三服す。一方に、大黄二兩を加う。若し加わざれば、恐らくは大柴胡湯と為さず。

 

【第一〇四条】

傷寒十三日不解、胸脇滿而嘔、日所發潮熱、已而微利。此本柴胡證、下之以不得利、今反利者、知醫以丸藥下之、此非其治也。潮熱者、實也。先宜服小柴胡湯以解外、後以柴胡加芒消湯主之。五十四。

傷寒十三日にして解せず、胸脇滿して嘔し、日晡所(にっぽしょ)潮熱(ちょうねつ)を發し、已(おわ)りて微利(びり)す。此れ本(もと)柴胡の證、之を下して以て利を得ず、今反って利する者は、醫、丸藥(がんやく)を以て之を下したるを知る、此れ其の治に非ざるなり。潮熱する者は、實なり。先ず宜しく小柴胡湯を服し以て外を解くべし。後、柴胡加芒消湯(さいこかぼうしょうとう)を以て之を主る。五十四。

 

〔柴胡加芒消湯方〕

柴胡(二兩十六銖) 黄(一兩) 人參(一兩) 甘草(一兩炙) 生薑(一兩切) 半夏(二十銖本云五枚洗) 大棗(四枚擘) 芒消(二兩)

右八味、以水四升、煮取二升、去滓、内芒消、更煮微沸、分温再服。不解更作。(臣億等謹按、金匱玉函方中無芒消、別一方云、以水七升、下芒消二合、大黄四兩、桑蛸五枚、煮取一升半、服五合、微下即愈。本云柴胡再服以解其外、餘二升加芒消大黄桑蛸也。

柴胡(二兩十六銖) 黄芩(一兩) 人參(一兩) 甘草(一兩炙る) 生薑(一兩切る) 半夏(二十銖、本(もと)云う、五枚、洗う) 大棗(四枚擘く) 芒消(二兩)

右八味、水四升を以て、煮て二升を取り、滓を去り、芒消(ぼうしょう)を内れ、更に煮て微沸(びふつ)し、分かち温め再服す。解せざれば更に作る。(臣億等謹按、金匱玉函方中無芒消、別一方云、以水七升、下芒消二合、大黄四兩、桑螵蛸五枚、煮取一升半、服五合、微下即愈。本云柴胡再服以解其外、餘二升加芒消大黄桑螵蛸也。)

 

【第一〇五条】

傷寒十三日、過經、語者、以有熱也、當以湯下之。若小便利者、大便當、而反下利、脉調和者、知醫以丸藥下之、非其治也。若自下利者、脉當微厥、今反和者、此為内實也、調胃承氣湯主之。五十五(用前第三十三方)。

傷寒十三日、過經(かけい)し、讝語(せんご)する者は、熱有るを以てなり、當に湯を以て之を下すべし。若し小便利する者は、大便當に鞕(こう)たるべし、而(しか)して反って下利し、脉調和する者は、醫、丸藥を以て之を下すを知る、其れ治に非ざるなり。若し自下利する者は、脉當に微(び)、厥(けつ)すべし。今反って和する者は、此れを内實と為(な)すなり、調胃承氣湯之を主る。五十五(用前第三十三方)。

 

【第一〇六条】

太陽病不解、熱結膀胱、其人如狂、血自下、下者愈。其外不解者、尚未可攻、當先解其外。外解已、但少腹急結者、乃可攻之、宜桃核承氣湯。方五十六(後云解外宜桂枝湯)。

太陽病解せず、熱膀胱に結し、其の人狂の如く、血自ら下る、下る者は愈ゆ。其の外解せざる者は、尚未だ攻むべからず、當に先ず其の外を解すべし。外解し已(おわ)り、但だ少腹急結する者は、乃(すなわ)ち之を攻むべし、桃核承氣湯(とうかくじょうきとう)に宜し。方五十六(後に云う外を解すには桂枝湯に宜しと)。

 

〔桃核承氣湯方〕

桃仁(五十箇去皮尖) 大黄(四兩) 桂枝(二兩去皮) 甘草(二兩炙) 芒消(二兩)

右五味、以水七升、煮取二升半、去滓、内芒消、更上火微沸、下火。先食温服五合、日三服、當微利。

桃仁(五十箇去皮尖) 大黄(四兩) 桂枝(二兩皮を去る) 甘草(二兩炙る) 芒消(二兩)

右五味、水七升を以て、煮て二升半を取り、滓を去り、芒消を内れ、更に火に上(の)せ微沸(びふつ)し、火より下ろす。食に先だちて五合を温服し、日に三服す、當に微利(びり)すべし。

 

【第一〇七条】

傷寒八九日、下之、胸滿、煩驚、小便不利、語、一身盡重、不可轉側者、柴胡加龍骨牡蠣湯主之。方五十七。

傷寒八九日、之を下し、胸滿、煩驚、小便不利、讝語(せんご)し、一身盡(ことごと)く重く、轉側(てんそく)す可からざる者は、柴胡加龍骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)之を主る。方五十七。

 

〔柴胡加龍骨牡蠣湯方〕

柴胡(四兩) 龍骨 黄 生薑(切) 鉛丹 人參 桂枝(去皮) 茯苓(各一兩半) 半夏(二合半洗) 大黄(二兩) 牡蠣(一兩半熬) 大棗(六枚擘)

右十二味、以水八升、煮取四升、内大黄、切如碁子、更煮一兩沸、去滓、温服一升。本云柴胡湯、今加龍骨等。

柴胡(四兩) 龍骨 黄芩 生薑(切る) 鉛丹(えんたん) 人參 桂枝(皮を去る) 茯苓(各一兩半) 半夏(二合半洗る) 大黄(二兩) 牡蠣(ぼれい)(一兩半熬る) 大棗(六枚擘く)

右十二味、水八升を以て、煮て四升を取り、大黄を切りて碁子の如きを内れ、更に煮て一兩沸し、滓を去り、一升を温服す。本云う、柴胡湯に今龍骨等を加うと。

 

【第一〇八条】

傷寒、腹滿、語、寸口脉浮而緊、此肝乘脾也、名曰縱、刺期門。五十八。

傷寒、腹滿(ふくまん)、讝語(せんご)し、寸口脉浮にして緊なるは、此れ肝脾に乘(じょう)ずるなり、名づけて縱(じゅう)と曰く、期門を刺す。五十八。

 

【第一〇九条】

傷寒發熱、嗇嗇惡寒、大欲飲水、其腹必滿、自汗出、小便利、其病欲解、此肝乘肺也、名曰横、刺期門。五十九。

傷寒發熱し、嗇嗇(しょくしょく)として惡寒し、大いに渴して飲水せんと欲す、其の腹必ず滿す、自ずと汗出で、小便利するは、其の病解せんと欲す、此れ肝肺に乘ずるなり、名づけて横と曰う、期門を刺す。五十九。

 

【第一一〇条】

太陽病二日、反躁、凡熨其背而大汗出、大熱入胃(一作二日内燒瓦熨背大汗出火氣入胃)、胃中水竭、躁煩必發語。十餘日振慄自下利者、此為欲解也。故其汗從腰以下不得汗、欲小便不得、反嘔、欲失溲、足下惡風、大便、小便當數、而反不數及不多。大便已、頭卓然而痛、其人足心必熱、穀氣下流故也。

太陽病二日、反って躁す、凡(およ)そ其の背を熨(い)すに、大いに汗出で、大熱胃に入り(一作二日内燒瓦熨背大汗出火氣入胃)、胃中の水竭(つ)き、躁煩し、必ず讝語を發す。十餘日にして振慄(しんりつ)し自下利(じげり)する者は、此れ解せんと欲すと為すなり。故に其の汗腰從(よ)り以下汗するを得ず、小便せんと欲するも得ず、反って嘔(おう)し、失溲(しっしゅう)せんと欲す、足下(そっか)惡風し、大便鞕(かた)く、小便當(まさ)に數(さく)なるべくして、反って數ならず、及び多からず。大便已(おわ)り、頭卓然(たくぜん)として痛み、其の人足心(そくしん)必ず熱す。穀氣(こっき)下流(かりゅう)するが故(ゆえ)なり。

 

【第一一一条】

太陽病中風、以火劫發汗。邪風被火熱、血氣流溢、失其常度、兩陽相熏灼、其身發黄。陽盛則欲衄、陰小便難。陰陽倶竭、身體則枯燥、但頭汗出、劑頸而還。腹滿、微喘、口乾、咽爛、或不大便、久則語、甚者至、手足躁擾、捻衣摸牀。小便利者、其人可治。

太陽病中風、火を以て劫(おびや)かして汗を發す。邪風火熱を被(こうむ)り、血氣流溢(りゅういつ)し、其の常度(じょうど)を失す。兩陽(りょうよう)相(あ)い熏灼(くんしゃく)し、其の身黄(おう)を發す。陽盛んなれば則ち衄(じく)せんと欲し、陰虛すれば小便難(がた)し。陰陽倶(とも)に虛竭(きょけつ)すれば、身體則ち枯燥(こそう)し、但(た)だ頭汗(づかん)出でて、劑頸(ざいけい)して還(かえ)る。腹滿し、微(かす)かに喘(ぜい)し、口乾き、咽(のど)爛(ただ)れ、或は大便せず、久しければ則ち讝語し、甚しき者は噦するに至り、手足躁擾(そうじょう)し、捻衣摸牀(ねんいもしょう)す。小便利する者は、其の人治すべし。

 

【第一一二条】

傷寒脉浮、醫以火迫劫之、亡陽、必驚狂、臥起不安者、桂枝去芍藥加蜀漆牡蠣龍骨救逆湯主之。方六十。

傷寒脉浮、醫、火を以て之を迫劫(はくごう)し、亡陽(ぼうよう)すれば、必ず驚狂(きょうきょう)し、臥起(がき)安らかざる者は、桂枝去芍藥加蜀漆牡蠣龍骨救逆湯(けいしきょしゃくやくかしょくしつぼれいりゅうこつきゅうぎゃくとう)之を主る。方六十。

 

〔桂枝去芍藥加蜀漆牡蠣龍骨救逆湯方〕

桂枝(三兩去皮) 甘草(二兩炙) 生薑(三兩切) 大棗(十二枚擘) 牡蠣(五兩熬) 蜀漆(三兩洗去腥) 龍骨(四兩)

右七味、以水一斗二升、先煮蜀漆、減二升。内諸藥、煮取三升、去滓、温服一升。本云桂枝湯、今去芍藥、加蜀漆牡蠣龍骨。

桂枝(三兩皮を去る) 甘草(二兩炙る) 生薑(三兩切る) 大棗(十二枚擘く) 牡蠣(五兩熬(い)る) 蜀漆(しょくしつ)(三兩洗いて腥(なまぐさ)を去る) 龍骨(四兩)

右七味、水一斗二升を以て、先ず蜀漆を煮て、二升を減ず。諸藥を内(い)れ、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服す。本云う桂枝湯、今芍藥を去り、蜀漆(しょくしつ)、牡蠣(ぼれい)、龍骨を加える。

 

【第一一三条】

形作傷寒、其脉不弦緊而弱。弱者必、被火必語。弱者發熱、脉浮、解之當汗出愈。

形傷寒を作(な)すも、其の脉弦緊ならずして弱なり。弱の者は必ず渴す、火を被(こうむ)れば必ず讝語す。弱の者は發熱し、脉浮なり、之を解するに當に汗出でて愈(い)ゆべし。

 

【第一一四条】

太陽病、以火熏之、不得汗、其人必躁。到經不解、必清血、名為火邪。

太陽病、火を以て之を熏(くん)じ、汗を得ず、其の人必ず躁す。經に到りて解せざれば、必ず清血す、名を火邪と為(な)す。

 

【第一一五条】

脉浮、熱甚、而反灸之、此為實。實以治、因火而動、必咽躁、吐血。

脉浮、熱甚し、而(しか)るに反って之に灸す、此れを實と為す。實に虛を以て治す、火に因りて動ずれば、必ず咽(のど)燥(かわ)き、吐血す。

 

【第一一六条】

微數之脉、慎不可灸。因火為邪、則為煩逆。追逐實、血散脉中。火氣雖微、内攻有力、焦骨傷筋、血難復也。脉浮、宜以汗解、用火灸之、邪無從出、因火而盛、病從腰以下、必重而痺、名火逆也。欲自解者、必當先煩、煩乃有汗而解。何以知之。脉浮、故知汗出解。

微數(びさく)の脉は、慎(つつし)んで灸すべからず。火に因(よ)りて邪を為(な)せば、則ち煩逆(はんぎゃく)を為す。虛を追い實を逐(お)い、血、脉中に散ず。火氣微(び)なりと雖も、内に攻むるに力有り、骨を焦がし筋を傷り、血復(ふく)し難きなり。

脉浮なるは、汗を以て解くに宜(よろ)し。火を用いて之に灸すれば、邪從(よ)りて出ずること無し、火に因りて盛んなり、病腰從(よ)り以下、必ず重くして痺(ひ)す。火逆と名づく也。自ら解せんと欲する者は、必ず當に先に煩すべし、煩すれば乃(すなわ)ち汗有りて解す。

何を以てか之を知る。脉浮故に汗出でて解(げ)するを知る。

 

【第一一七条】

燒鍼令其汗、鍼處被寒、核起而赤者、必發奔豚。氣從少腹上衝心者、灸其核上各一壮、與桂枝加桂湯、更加桂二兩也。方六十一。

燒鍼(しょうしん)其れをして汗せしめ、鍼する處(ところ)寒を被(こうむ)り、核(かく)起こりて赤き者は、必ず奔豚(ほんとん)を發す。氣少腹從(よ)り上りて心を衝(つ)く者は、其の核上(かくじょう)に各一壮を灸し、桂枝加桂湯を與(あた)う。更に桂(けい)二兩を加うるなり。方六十一。

 

〔桂枝加桂湯方〕

桂枝(五兩去皮) 芍藥(三兩) 生薑(三兩切) 甘草(二兩炙) 大棗(十二枚擘)

右五味、以水七升、煮取三升、去滓、温服一升。本云桂枝湯、今加桂滿五兩。所以加桂者、以能泄奔豚氣也。

桂枝(五兩皮を去る) 芍藥(三兩) 生薑(三兩切る) 甘草(二兩炙る) 大棗(十二枚擘く)

右五味、水七升を以て、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服す。本(もと)云う桂枝湯に今桂(けい)を加えて滿五兩とす。桂を加うる所以(ゆえん)の者は、以て能(よ)く奔豚の氣を泄(も)らすなり。

 

【第一一八条】

火逆下之、因燒鍼煩躁者、桂枝甘草龍骨牡蠣湯主之。方六十二。

火逆之を下し、燒鍼(しょうしん)に因りて煩躁(はんそう)する者は、桂枝甘草龍骨牡蠣湯(けいしかんぞうりゅうこつぼれいとう)之を主る。方六十二。

 

〔桂枝甘草龍骨牡蠣湯方〕

桂枝(一兩去皮) 甘草(二兩炙) 牡蠣(二兩熬) 龍骨(二兩)

右四味、以水五升、煮取二升半、去滓、温服八合、日三服。

桂枝(一兩皮を去る) 甘草(二兩炙る) 牡蠣(二兩熬る) 龍骨(二兩)

右四味、水五升を以て、煮て二升半を取り、滓を去り、八合を温服し、日に三服す。

 

【第一一九条】

太陽傷寒者、加温鍼必驚也。

太陽の傷寒なる者は、温鍼を加うれば必ず驚(きょう)するなり。

 

【第一二〇条】

太陽病、當惡寒、發熱、今自汗出、反不惡寒、發熱、關上脉細數者、以醫吐之過也。一二日吐之者、腹中飢、口不能食。三四日吐之者、不喜糜粥、欲食冷食、朝食暮吐、以醫吐之所致也、此為小逆。

太陽病、當に惡寒、發熱すべし。今自汗出で、反って惡寒、發熱せず。關上の脉細數の者は、醫(い)之を吐すること過(あやま)るを以てなり。一、二日之を吐する者は、腹中飢え、口に食すること能わず。三、四日之を吐する者は、糜粥(びしゅく)を喜(この)まず、冷食を食せんと欲っし、朝に食して暮に吐す。醫之を吐する以て致す所なり。此を小逆と為す。

 

【第一二一条】

太陽病吐之、但太陽病當惡寒、今反不惡寒、不欲近衣、此為吐之内煩也。

太陽病之を吐す、但だ太陽病は當に惡寒すべし。今反って惡寒せず、衣を近づけることを欲せず。此(こ)れ之(これ)を吐して内煩(ないはん)を為(な)すなり。

 

【第一二二条】

病人脉數。數為熱、當消穀引食。而反吐者、此以發汗、令陽氣微、膈氣、脉乃數也。數為客熱、不能消穀。以胃中冷、故吐也。

病人脉數(さく)なり。數は熱と為す、當に穀(こく)を消し食を引くべし。しかして反って吐する者は、此れ汗を發するを以て、陽氣をして微(び)ならしめ、膈氣(かくき)虛し、脉は乃ち數なり。數は客熱(きゃくねつ)と為し、穀を消すことを能わず。胃中虛冷(きょれい)するを以ての故に吐するなり。

 

【第一二三条】

太陽病、過經十餘日、心下温温欲吐而胸中痛、大便反溏、腹微滿、鬱鬱微煩。先此時自極吐下者、與調胃承氣湯。若不爾者、不可與。但欲嘔、胸中痛、微溏者、此非柴胡湯證、以嘔故知極吐下也。調胃承氣湯。六十三(用前第三十三方)。

太陽病、過經(かけい)十餘日、心下温温(うんうん)として吐せんと欲し、しかして胸中痛み、大便反って溏(とう)、腹微滿(びまん)し、鬱鬱(うつうつ)として微煩(びはん)す。此の時に先(さきだ)ちて自(おのずか)ら吐下(とげ)極まる者は、調胃承氣湯を與う。若し爾(しか)らざる者は、與う可(べ)からず。但だ嘔せんと欲し、胸中痛み、微溏する者は、此れ柴胡湯の證に非ず、嘔するを以ての故に、吐下(とげ)を極むることを知るなり。調胃承氣湯。六十三(用前第三十三方)。

 

【第一二四条】

太陽病六七日、表證仍在、脉微而沈、反不結胸。其人發狂者、以熱在下焦、少腹當滿、小便自利者、下血乃愈。所以然者、以太陽隨經、熱在裏故也。抵當湯主之。方六十四。

太陽病、六七日、表證仍(な)お在(あ)り、脉微(び)にして沈(ちん)、反って結胸(けっきょう)せず。其の人發狂する者は、熱下焦に在るを以て、少腹當(まさ)に鞕滿(こうまん)たるべし。小便自利(じり)する者は、血を下せば乃ち愈ゆ。然(しか)る所以(ゆえん)の者は、太陽經に隨(したが)い、瘀熱(おねつ)裏に在るを以ての故なり。抵當湯(ていとうとう)之を主る。方六十四。

 

〔抵當湯方〕

水蛭(熬) 蟲(各三十箇去翅足熬) 桃仁(二十箇去皮尖) 大黄(三兩酒洗)

右四味、以水五升、煮取三升、去滓、温服一升、不下更服。

水蛭(すいてつ)(熬る) 蝱蟲(ぼうちゅう)(各三十箇翅足(しそく)を去り、熬る) 桃仁(二十箇皮尖を去る) 大黄(三兩酒洗)

右四味、水五升を以て、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服す、下らざれば、更に服す。

 

【第一二五条】

太陽病、身黄、脉沈結、少腹、小便不利者、為無血也。小便自利、其人如狂者、血證諦也、抵當湯主之。六十五(用前方)。

太陽病、身黄(おう)にして、脉沈結(けつ)、少腹鞕(かた)く、小便不利の者は、血無しと為すなり。小便自利し、其の人狂うが如き者は、血證(けっしょう)諦(あきら)かなり、抵當湯之を主る。六十五(用前方)。

 

【第一二六条】

傷寒有熱、少腹滿、應小便不利、今反利者、為有血也、當下之、不可餘藥、宜抵當丸。方六十六。

傷寒熱有り、少腹滿するは、應(まさ)に小便不利すべし、今反って利する者は、血有りと為すなり、當に之を下すべし、餘藥(よやく)すべからず、抵當丸(ていとうがん)に宜し。方六十六。

 

〔抵當丸方〕

水蛭(二十箇熬) 蟲(二十箇去翅足熬) 桃仁(二十五箇去皮尖) 大黄(三兩)

右四味、擣分四丸。以水一升、煮一丸、取七合服之。時、當下血。若不下者、更服。

水蛭(すいてつ)(二十箇熬る) 蝱蟲(ぼうちゅう)(二十箇翅足(しそく)を去り、熬る) 桃仁(二十五箇皮尖を去る) 大黄(三兩)

右四味、擣(つ)きて四丸に分かつ。水一升を以て、一丸を煮て、七合を取り之を服す。晬時(さいじ)にして、當に血を下すべし。若下さざる者は、更に服す。

 

【第一二七条】

太陽病、小便利者、以飲水多、必心下悸。小便少者、必苦裏急也。

太陽病、小便利する者、水を飲むこと多きを以て、必ず心下悸(き)す。小便少なき者は、必ず裏急(りきゅう)を苦しむなり。

 

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