慶良間 |
これらから推測できることは、刺法に関しては当時から様々な流派ややり方があったことが分かる。
これは巨刺と繆刺も同じである。
巨刺と繆刺の鍼法は異なるが、生体全体を見渡し、気の偏在を空間的にとらえ、陰陽の平衡を計ろうとした鍼術としてみれば、同じ視点に立った鍼法であることが分かる。
気の偏在を捉えること無く、巨刺、繆刺を固定的に捉え鍼を下すと、確実に誤る。
このように臨床に際しては、原則に囚われず、生体が表現している状態に従って自由に遅速、深浅を加減することこそが大事と解釈することが出来る。
人体は、一時も静止することなく千変万化するものである。
その様々に変化する現象の中から、不変のものを見出しその場その場に応じて、一鍼を下すのが鍼灸医学である。
このような生体の在り様に対して、原則は参考にすれども、定まった鍼法など無いに等しいのだと筆者は考えている。
当然、本篇で取り上げられている病証と刺法は、ひとつのやり方であり例であって、決して固定的に捉えるべきではないと筆者は考える。
この例から、何を読み取るかこそが大事と思う。
固定的に捉えると、対象は実態から離れ、死んでしまうからである。
また本篇で筆者が注目したのは、以下の一文である。
<深專者.刺大藏.迫藏刺背.背兪也.刺之迫藏.藏會.腹中寒熱去而止.>
この記載によって、腹部募穴と背部兪穴間の気の動きを明確にすることが出来る。
気の動きを概念で捉えることができれば、あとはそのような視点で臨床的に照合していく過程に入ることが出来る。
このあたりの詳細は、ブログ『一の会 東洋医学講座』 <背部兪穴と胸腹部募穴①~④>で筆者の思惑を述べているので、興味のある方は訪れて頂けたらと思います。
またこの篇は、誤字、脱字の類が多かったので、甲乙経、新校正などを参考に筆者なりに理解しやすいように読み替えたので、含みおいて頂けたらと思う。
鍼の治療家は、診察前に病人の話し方に耳を傾けるものである。
病が頭に在り、頭が急に痛むときは、鍼が骨に達すると治まるものである。
従って、正邪抗争の場を五臓から背兪に引くために刺鍼するのである。
大きなものは、多く刺し、しかも深くするのである。
さらに第四胸椎の傍らの厥陰兪を刺し、さらに腰骨の両側にある居髎付近と、さらに季脇肋の章門、京門付近を刺し、腹中の凝り固まった気を刺鍼部位に導き、熱所見が無くなれば治まるのである。
少腹に病があって、腹痛がして大小便が無いのは、疝という病名である。これは寒邪に侵されたことが原因である。
寒邪に傷られた疝には、小腹部と両方の内股、環跳付近を数多く刺す。下腹部以下全体が、はっきりと温かくなって来ると治まるのである。
病が筋に在り、筋肉が痙攣して関節も痛み、歩くことが出来ないものを、筋痹と申します。
筋痹には、筋上を刺すのが古来からの方法である。
大肉・小肉の分間に、多く深く鍼を発し、肌膚が熱するようにするのが、古来からの方法です。
その際には、筋骨を傷らないように致します。
骨に届くように深く刺すが、脉肉を傷らないようにするのが、古来からの方法である。運鍼は、大肉・小肉の分間を進め、骨が熱するようになると、病は癒えて止まります。
病が諸陽経に在り、寒と熱の症状が混在し、大肉・小肉の分間もまた、寒と熱の症状が混在しているのを、名づけて狂と申します。
このような場合、虚脈を刺し、大肉・小肉の分間をしっかりと見て、寒熱の気が交流して、全体が熱すると病は癒えて止まるのである。
この狂症が初めて発病し、一年に一度発作を起こして治らず、また月に一度発作を起こして治らず、さらに月に四五度発作を起こすようになりますと、これを癲病と申します。
この際、諸分肉、諸経脉を刺すのであるが、寒の症状が無い場合は、鍼を以てこれを調え熱を平にすれば、病は癒えて止まるのである。
風を病み、寒熱の症状があり、一日数回発熱して汗が出るような場合は、まず諸の分理絡脉を刺す。
発汗して寒熱の症状があっても、三日に一度鍼をし、百日すると癒えるのであります。
大風を病み、骨節が重く、髭や眉が抜け落ちてしまうのを、名づけて大風と申します。
深專者.刺大藏.迫藏刺背.背兪也.
刺之迫藏.藏會.腹中寒熱去而止.
※4(與)刺之要.發鍼而淺出血.
刺家診せず、病者の言を聽く。病は頭に在り、頭疾痛めば、爲にこれに鍼す。刺して骨に至らば、病已み止まる。骨肉及び皮を傷ること無かれ。皮なるは、道なり。
陰刺は一を入れて傍ら四處す。寒熱を治す。
深さ專らなるは、大藏を刺す。
藏に迫るは、背を刺す。背の兪なり。
これ藏に迫るを刺すは、藏會なればなり。腹中の寒熱去りて止む。
刺の要は、鍼を發して淺く血を出すなり。
※1在のうえに病の文字ありとす。
※2(藏)全元起本には蔵の文字がない。これにならう。
※3上を止に改める。
※4與を読まず。
治腐腫者.刺腐上.視癰小大.深淺刺.
※刺大者多而深之.必端内鍼爲故止.必端内鍼爲故止.
腐腫を治するは、腐の上を刺す。癰の小大を視て、深く淺く刺す。
大なるを刺すは、多くしてこれを深くし、必ず端(ただ)しく鍼を内れるを故止と爲す。
※原文は「刺大者多血.小者深之.」甲乙経は、刺大者多而深之.必端内鍼爲故止.とあるに従う。
病在少腹有積.刺皮[骨盾].以下至少腹而止.
刺侠脊兩傍四椎間.刺兩[骨客]髎.季脇肋間.導腹中氣.熱下已.
病少腹に在りて積有るは、皮[骨盾](ひとつ)以下を刺し、少腹に至りて止む。
侠脊の兩傍四椎の間を刺し、兩[骨客]髎(かりょう)、季脇肋の間を刺す。腹中の氣を導き、熱下れば已む。
病在少腹.腹痛不得大小便.病名曰疝.得之寒.
刺少腹兩股間.刺腰髁骨間.刺而多之.盡炅病已.
病少腹に在り。腹痛みて大小便を得ず。病名づけて疝と曰く。これを寒に得る。
少腹兩股の間を刺し、腰髁骨(かこつ)の間を刺す。刺してこれを多くす。盡く炅(けい)して病已む。
病在筋.筋攣節痛.不可以行.名曰筋痺.
刺筋上爲故.刺分肉間.不可中骨也.病起.筋炅病已止.
病筋に在り。筋攣し節痛み、以て行くべからず。名づけて筋痺と曰く。
筋上を刺す故と爲す。分肉の間を刺して、骨に中るべからず。病起き、筋炅すれば病已(や)みて止る。
在肌膚.肌膚盡痛.名曰肌痺.傷於寒濕.
刺大分小分.多發鍼而深之.以熱爲故.
無傷筋骨.傷筋骨.癰發若變.
諸分盡熱.病已止.
病肌膚に在りて、肌膚盡く痛む。名づけて肌痺と曰く。寒濕に傷らる。
大分小分を刺す。多く鍼を發してこれを深くし、以て熱するを故と爲す。
筋骨を傷ること無かれ。筋骨を傷れば、癰を發し若しくは變ず。
諸分盡く熱すれば、病已えて止む。
病在骨.骨重不可擧.骨髓酸痛.寒氣至.名曰骨痺.
深者刺無傷脉肉爲故.其道大分小分.骨熱病已止.
病骨に在り。骨重くして擧げるべからず。骨髓酸痛し、寒氣至る。名づけて骨痺と曰く。
深き者は刺して脉肉を傷ること無きを故と爲す。其の道は大分小分、骨熱すれば病已えて止む。
病在諸陽脉.且寒且熱.諸分且寒且熱.名曰狂.
刺之虚脉.視分盡熱.病已止.
病初發.歳一發不治.月一發不治.月四五發.名曰癲病.
刺諸分諸脉.其無寒者.以鍼調之.病止.
病諸陽の脉に在り。且つ寒し且つ熱す。諸分且つ寒し且つ熱するは、名づけて狂と曰く。
これを虚脉に刺し、分盡く熱するを視れば、病已えて止む。
病初めて發し、歳に一たび發して治せず。月に一たび發して治せず。月に四五たび發するを、名づけて癲病と曰く。
諸分諸脉を刺す。其の寒無き者は、鍼を以てこれを調えれば、病止む。
病風.且寒且熱.炅汗出.一日數過.先刺諸分理絡脉.
汗出且寒且熱.三日一刺.百日而已.
風を病みて、且つ寒し且つ熱し、炅汗出ずること、一日に數過するは、先ず諸の分理絡脉を刺す。
汗出で且つ寒し且つ熱するは、三日に一たび刺す。百日にして已む。
病大風.骨節重.鬚眉墮.名曰大風.刺肌肉爲故.汗出百日.
刺骨髓.汗出百日.凡二百日.鬚眉生而止鍼.
大風を病みて、骨節重く、鬚眉墮つるを、名づけて大風と曰く。肌肉を刺すを故と爲す。汗出ずること百日、骨髓を刺して、汗出ずること百日、凡そ二百日、鬚眉生じて鍼を止む。
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