辨陽明病脉證并治 179~262条
第八(合四十四法方一十首一方附并見陽明少陽合病法)
陽明病の脉證、并(なら)びに治を辨(べん)ず。第八。(合わせて四十四法、方一十首、一方附す、并びに陽明少陽の合病の法を見(あらわ)す)
【一七九条】
問曰、病有太陽陽明、有正陽陽明、有少陽陽明、何謂也。答曰、太陽陽明者、脾約(【一云絡)是也。正陽陽明者、胃家實是也。少陽陽明者、發汗、利小便已、胃中燥、煩、實、大便難是也。
問いて曰く、病に太陽陽明有り、正陽陽明有り、少陽陽明有りとは、何の謂(い)いぞや。
答えて曰く、太陽陽明なる者は、脾約(ひやく)(一云絡)是れなり。
正陽の陽明なる者は、胃家實是れなり。少陽陽明なる者は、汗を發し、小便利し已(おわ)り、胃中燥き、煩し、實し、大便難是れなり。
【一八〇条】
陽明之為病、胃家實(一作寒)是也。
陽明の病為(た)るや、胃家實(一作寒)是れなり。
【一八一条】
問曰、何緣得陽明病。答曰、太陽病、若發汗、若下、若利小便、此亡津液、胃中乾燥、因轉屬陽明。不更衣、内實大便難者、此名陽明也。
問いて曰く、何に緣(よ)りて陽明病を得るや。答えて曰く、太陽病、若しくは汗を發し、若しくは下し、若しくは小便利す。此れ津液を亡(なく)し、胃中乾燥し、因(よ)りて陽明に轉屬す。更衣せず、内實し大便難の者は、此れを陽明と名づく。
【一八二条】
問曰、陽明病外證云何。答曰、身熱、汗自出、不惡寒反惡熱也。
問いて曰く、陽明病の外證とは何を云うや。答えて曰く、身熱し、自ずと汗出で、惡寒せず、反って惡熱するなり。
【一八三条】
問曰、病有得之一日、不發熱而惡寒者、何也。答曰、雖得之一日、惡寒將自罷、即自汗出而惡熱也。
問いて曰く、病之を得ること一日、發熱せずして惡寒する者有りとは、何ぞや。答えて曰く、之を得ること一日と雖も、惡寒し將(まさ)に自ら罷(や)まんとするは、即ち自ずと汗出でて惡熱するなりと。
【一八四条】
問曰、惡寒何故自罷。答曰、陽明居中、主土也。萬物所歸、無所復傳。始雖惡寒、二日自止、此為陽明病也。
問いて曰く、惡寒何が故(ゆえ)に自ら罷(や)むと。答えて曰く、陽明は中に居きて、土を主るなり。萬物の歸(き)する所にして、復た傳わる所無しと。始め惡寒すると雖も、二日に自ずと止む。此れ陽明病と為すなり。
【一八五条】
本太陽、初得病時、發其汗、汗先出不徹、因轉屬陽明也。傷寒發熱、無汗、嘔不能食、而反汗出濈濈然者、是轉屬陽明也。
本(もと)太陽、初め病を得る時、其の汗を發し、汗先ず出づるも徹せず、因りて陽明に轉屬するなり。傷寒、發熱、汗無く、嘔して食すること能わず。而るに反って汗出ずること濈濈(しゅうしゅう)然たる者は、是れ陽明に轉屬するなり。
【一八六条】
傷寒三日、陽明脉大。
傷寒三日、陽明の脉大。
【一八七条】
傷寒脉浮而緩、手足自温者、是為繫在太陰。太陰者、身當發黄。若小便自利者、不能發黄。至七八日、大便鞕者、為陽明病也。
傷寒、脉浮にして緩、手足自ら温なる者は、是れ太陰に在りて繫(かか)ると為す。太陰の者、身當(まさ)に黄を發すべし。若し小便自利する者は、黄を發すること能わず。七、八日に至り、大便鞕(かた)き者は、陽明病と為すなり。
【一八八条】
傷寒轉繫陽明者、其人濈然微汗出也。
傷寒、轉じて陽明に繫(かか)る者は、其の人濈然(しゅうぜん)として微(すこ)しく汗出ずるなり。
【一八九条】
陽明中風、口苦、咽乾、腹滿、微喘、發熱、惡寒、脉浮而緊。若下之、則腹滿小便難也。
陽明の中風、口苦く、咽乾き、腹滿し、微(かす)かに喘(ぜん)し、發熱し、惡寒し、脉浮にして緊。若し之を下せば、則ち腹滿し、小便難なり。
【一九〇条】
陽明病、若能食、名中風。不能食、名中寒。
陽明病、若し能(よ)く食するは、中風と名づく。食すること能わざるは、中寒と名づく。
【一九一条】
陽明病、若中寒者、不能食、小便不利、手足濈然汗出、此欲作固瘕、必大便初鞕後溏。所以然者、以胃中冷、水穀不別故也。
陽明病、若し中寒する者は、食すること能わず、小便不利し、手足濈然(しゅくぜん)汗出ず。此れ固瘕(こか)を作(な)さんと欲す。必ず大便初め鞕く、後溏(とう)す。然る所以の者は、胃中冷え、水穀別たざるを以ての故なり。
【一九二条】
陽明病、初欲食、小便反不利、大便自調、其人骨節疼、翕翕如有熱狀、奄然發狂、濈然汗出而解者、此水不勝穀氣、與汗共并、脉緊則兪。
陽明病、初め食を欲し、小便反って利せず、大便自ら調う、其の人骨節疼(うず)き、翕翕(きゅうきゅう)として熱狀有るが如く、奄然(えんぜん)として狂を發し、濈然(しゅうぜん)として汗出でて解する者は、此れ水穀氣に勝たず、汗と共に并(あわ)さり、脉緊なれば則ち兪ゆ。
【一九三条】
陽明病、欲解時、從申至戌上。
陽明病、解せんと欲する時は、申(さる)從(よ)り戌(いぬ)の上に至る。
【一九四条】
陽明病、不能食、攻其熱必噦。所以然者、胃中虛冷故也。以其人本虛、攻其熱必噦。
陽明病、食すること能わざるに、其の熱を攻むれば必ず噦(えっ)す。然る所以(ゆえん)の者は、胃中虛冷するが故なり。其の人本(もと)虛するを以て、其の熱を攻むれば必ず噦す。
【一九五条】
陽明病、脉遲、食難用飽。飽則微煩頭眩、必小便難、此欲作穀癉、雖下之、腹滿如故。所以然者、脉遲故也。
陽明病、脉遲、食を用いて飽き難し。飽けば則ち微煩(びはん)、頭眩(ずげん)し、必ず小便難。此れ穀癉(こくたん)を作(な)さんと欲す。之を下すと雖も、腹滿故(もと)の如し。然る所以の者は、脉遲なるが故なり。
【一九六条】
陽明病、法多汗、反無汗、其身如蟲行皮中狀者、此以久虛故也。
陽明病、法は汗多きに、反って汗無く、其の身蟲(むし)の皮中を行く狀の如き者は、此れ久しく虛するを以ての故なり。
【一九七条】
陽明病、反無汗而小便利、二三日嘔而欬、手足厥者、必苦頭痛。若不欬、不嘔、手足不厥者、頭不痛。(一云冬陽明)
陽明病、反って汗無くして小便利し、二、三日嘔して欬(がい)し、手足厥する者は、必ず頭痛を苦しむ。若し欬せず、嘔せず、手足厥せざる者は、頭痛まず。(一云冬陽明)
【一九八条】
陽明病、但頭眩、不惡寒。故能食而欬、其人咽必痛。若不欬者、咽不痛。(一云冬陽明)
陽明病、但だ頭眩(ずげん)して、惡寒せず。故に能(よ)く食して欬し、其の人咽(のど)必ず痛む。若し欬せざる者は、咽痛まず。(一云冬陽明)
【一九九条】
陽明病、無汗、小便不利、心中懊憹者、身必發黄。
陽明病、汗無く、小便不利し、心中懊憹(おうのう)する者は、身必ず黄を發す。
【二〇〇条】
陽明病、被火、額上微汗出、而小便不利者、必發黄。
陽明病、火を被(こおむ)り、額上(がくじょう)微(すこ)しく汗出でて、小便不利する者は、必ず黄を發す。
【二〇一条】
陽明病、脉浮而緊者、必潮熱發作有時。但浮者、必盗汗出。
陽明病、脉浮にして緊の者は、必ず潮熱し、發作に時(とき)有り。但だ浮の者は、必ず盗汗(とうかん)出ず。
【二〇二条】
陽明病、口燥但欲漱水、不欲嚥者、此必衄。
陽明病、口燥(かわ)き、但だ水を漱(すす)がんと欲し、嚥(の)むことを欲せざる者は、此れ必ず衄(じく)す。
【二〇三条】
陽明病、本自汗出。醫更重發汗、病已差、尚微煩不了了者、此必大便鞕故也。以亡津液、胃中乾燥、故令大便鞕。當問其小便日幾行、若本小便日三四行、今日再行、故知大便不久出。今為小便數少、以津液當還入胃中、故知不久必大便也。
陽明病、本(もと)自ずと汗出ず。醫更に重ねて汗を發し、病已(すで)に差(い)ゆるも、尚(な)お微煩して了了とせざる者は、此れ必ず大便鞕(かた)きが故なり。津液を亡(なく)し、胃中乾燥するを以ての故に、大便をして鞕からしむ。當に其の小便日に幾行(いくこう)なるかを問うべし。若し本(もと)小便日に三、四行なるに、今日に再行す。故に大便久しからずして出づるを知る。今、小便の數(かず)少なきが為に、津液當に還(めぐ)りて胃中に入るべきを以ての故に、久しからずして必ず大便するを知るなり。
【二〇四条】
傷寒嘔多、雖有陽明證、不可攻之。
傷寒、嘔多きは、陽明の證有りと雖も、之を攻む可からず。
【二〇五条】
陽明病、心下鞕滿者、不可攻之。攻之、利遂不止者死。利止者愈。
陽明病、心下鞕滿(こうまん)する者は、之を攻むべからず。之を攻め、利遂(つい)に止まざる者は死す。利止む者は愈ゆ。
【二〇六条】
陽明病、面合色赤、不可攻之。必發熱、色黄者、小便不利也。
陽明病、面色赤きを合するは、之を攻むべからず。必ず發熱す。色黄の者は、小便利せざるなり。
【二〇七条】
陽明病、不吐、不下、心煩者、可與調胃承氣湯。方一。
陽明病、吐さず、下さず、心煩する者は、調胃承氣湯を與うべし。方一。
〔調胃承氣湯方〕
甘草(二兩炙) 芒消(半升) 大黄(四兩清酒洗)
右三味、切、以水三升、煮二物至一升、去滓、内芒消。更上微火一二沸、温頓服之、以調胃氣。
甘草(二兩、炙る) 芒消(半升) 大黄(四兩、清酒もて洗う)
右三味、切り、水三升を以て、二物を煮て一升に至り、滓を去り、芒消を内れ。更に微火(びか)に上(の)せて一、二沸し、温めて之を頓服し、以て胃氣を調う。
【二〇八条】
陽明病、脉遲、雖汗出不惡寒者、其身必重、短氣、腹滿而喘、有潮熱者、此外欲解、可攻裏也。手足濈然汗出者、此大便已鞕也、大承氣湯主之。若汗多、微發熱惡寒者、外未解也(一法與桂枝湯)。其熱不潮、未可與承氣湯。若腹大滿不通者、可與小承氣湯、微和胃氣、勿令至大泄下。大承氣湯。方二。
陽明病、脉遲(ち)、汗出ずると雖も、惡寒せざる者は、其の身必ず重く、短氣し、腹滿して喘(ぜん)し、潮熱有る者は、此れ外解(げ)せんと欲す、裏を攻むべきなり。手足濈然(しゅうぜん)として汗出づる者は、此れ大便已(すで)に鞕(こう)なり、大承氣湯(だいじょうきとう)之を主る。若し汗多く、微(すこ)しく發熱惡寒する者は、外未(いま)だ解せざるなり(一法與桂枝湯)。其れ熱潮せずんば、未だ承氣湯を與うべからず。若し腹大いに滿ちて通せざる者は、小承氣湯を與え、微(すこ)しく胃氣を和すべし、大いに泄下(せつか)に至らしむことなかれ。大承氣湯。方二。
〔大承氣湯方〕
大黄(四兩酒洗) 厚朴(半斤炙去皮) 枳實(五枚炙) 芒消(三合)
右四味、以水一斗、先煮二物、取五升、去滓。内大黄、更煮取二升、去滓。内芒消、更上微火一兩沸、分温再服。得下、餘勿服。
大黄(四兩、酒もて洗う) 厚朴(半斤、炙り、皮を去る) 枳實(きじつ)(五枚、炙る) 芒消(三合)
右四味、水一斗を以て、先ず二物を煮て、五升を取り、滓を去る。大黄を内れ、更に煮て二升を取り、滓を去る。芒消を内れ、
更に微火に上(の)せ、一、兩沸し、分かち温め再服す。下(げ)を得れば、餘は服すことなかれ。
〔小承氣湯方〕
大黄(四兩酒洗) 厚朴(二兩炙去皮) 枳實(三枚大者炙)
右三味、以水四升、煮取一升二合、去滓、分温二服。初服湯當更衣、不爾者盡飲之。若更衣者、勿服之。
大黄(四兩、酒もて洗う) 厚朴(二兩、炙り、皮を去る) 枳實(三枚、大なる者、炙る)
右三味、水四升を以て、煮て一升二合を取り、滓を去り、分かち温め二服す。初め湯を服して當(まさ)に更衣すべし、爾(しか)らざる者は、盡(ことごと)く之を飲む。若し更衣する者は、之を服すなかれ。
【二〇九条】
陽明病、潮熱、大便微鞕者、可與大承氣湯。不鞕者、不可與之。若不大便六七日、恐有燥屎、欲知之法、少與小承氣湯、湯入腹中、轉失氣者、此有燥屎也、乃可攻之。若不轉失氣者、此但初頭鞕、後必溏、不可攻之、攻之必脹滿不能食也。欲飲水者、與水則噦。其後發熱者、必大便復鞕而少也、以小承氣湯和之。不轉失氣者、慎不可攻也。小承氣湯。三(用前第二方)。
陽明病、潮熱し、大便微(すこ)しく鞕なる者は、大承氣湯を與うべし。鞕ならざる者は、之を與うべからず。若し大便せざること六、七日なれば、恐らくは燥屎(そうし)有り。之を知らんと欲するの法は、少しく小承氣湯を與え、湯腹中に入り、轉(てん)失氣する者は、此れ燥屎有るなり、乃(すなわ)ち之を攻むべし。若し轉失氣せざる者は、此れ但(た)だ初頭(しょとう)鞕く、後必ず溏(とう)す、之を攻むべからず。之を攻むれば、必ず脹滿し食すること能わざるなり。水を飲まんと欲する者に、水を與えれば則ち噦(えつ)す。其の後發熱する者は、必ず大便復(ま)た鞕くして少なきなり、小承氣湯を以て之を和す。轉失氣せざる者は、慎んで攻むべからざるなり。小承氣湯。三(用前第二方)。
【二一〇条】
夫實則讝語、虛則鄭聲。鄭聲者、重語也。直視、讝語、喘滿者死、下利者亦死。
夫(そ)れ實すれば則ち讝語(せんご)し、虛すれば則ち鄭聲(ていせい)す。鄭聲なる者は、重語(じゅうご)なり。直視し、讝語(せんご)し、喘滿(ぜんまん)する者は死す。下利する者も亦た死す。
【二一一条】
發汗多、若重發汗者、亡其陽、讝語、脉短者死。脉自和者不死。
汗を發すること多く、若し重ねて發汗する者は、其の陽を亡(なく)し、讝語(せんご)す。脉短(たん)の者は死す。脉自(おのずか)ら和す者は死せず。
【二一二条】
傷寒若吐、若下後不解、不大便五六日、上至十餘日、日晡所發潮熱、不惡寒、獨語如見鬼狀。若劇者、發則不識人、循衣摸牀、惕而不安(一云順衣妄撮怵惕不安)、微喘直視、脉弦者生、濇者死。微者、但發熱讝語者、大承氣湯主之。若一服利、則止後服。四(用前第二方)。
傷寒、若しくは吐し、若しくは下したる後解(げ)せず、大便せざること五、六日、上は十餘日に至り、日晡所潮熱(にっぽしょちょうねつ)を發し、惡寒せず、獨語(どくご)して鬼狀を見るが如し。若し劇しき者は、發すれば則ち人を識(し)らず、循衣摸牀(じゅんいもしょう)、惕(てき)して安(やすら)かならず。(一云順衣妄撮怵惕不安)、微喘(びぜん)して直視す。脉弦の者は生き、濇(しょく)の者は死す。微(び)の者、但だ發熱讝語(せんご)する者は、大承氣湯之を主る。若し一服にて利せば、則ち後服(こうふく)を止む。四(用前第二方)。
【二一三条】
陽明病、其人多汗、以津液外出、胃中燥、大便必鞕、鞕則讝語、小承氣湯主之。若一服讝語止者、更莫復服。五(用前第二方)。
陽明病、其の人汗多く、津液外に出で、胃中燥くを以て、大便必ず鞕す。鞕なれば則ち讝語す。小承氣湯之を主る。若し一服にて讝語止む者は、更に復た服することなかれ。五(用前第二方)。
【二一四条】
陽明病、讝語、發潮熱、脉滑而疾者、小承氣湯主之。因與承氣湯一升、腹中轉氣者、更服一升。若不轉氣者、勿更與之。明日又不大便、脉反微濇者、裏虛也、為難治、不可更與承氣湯也。六(用前第二方)。
陽明病、讝語し、潮熱を發し、脉滑にして疾(しつ)の者は、小承氣湯之を主る。因(よ)りて承氣湯一升を與え、腹中轉氣(てんき)する者は、更に一升を服す。若し轉氣せざる者は、更に之を與うることなかれ。
明日、又、大便せず、脉反って微濇(びしょく)の者は、裏虛するなり、治し難しと為す。更に承氣湯を與うべからざるなり。六(前の第二方を用う)。
【二一五条】
陽明病、讝語、有潮熱、反不能食者、胃中必有燥屎五六枚也。若能食者、但鞕耳。宜大承氣湯下之。七(用前第二方)。
陽明病、讝語して、潮熱有り。反って食すること能わざる者は、胃中に必ず燥屎五、六枚有るなり。若し能く食する者は、但だ鞕きのみ。宜しく大承氣湯にて之を下すべし。七(前に第二方を用いる)。
【二一六条】
陽明病、下血、讝語者、此為熱入血室。但頭汗出者、刺期門、隨其實而寫之、濈然汗出則愈。
陽明病、下血、讝語する者は、此れ熱血室に入ると為す。但だ頭に汗出ずる者は、期門を刺す。其の實に隨(したが)って之を寫す、濈然(しゅうぜん)として汗出づれば則ち愈ゆ。
【二一七条】
汗(汗一作臥)出讝語者、以有燥屎在胃中、此為風也。須下者、過經乃可下之。下之若早、語言必亂、以表虛裏實故也。下之愈、宜大承氣湯。八(用前第二方一云大柴胡湯)。
汗(汗一作臥)出でて讝語する者は、燥屎有りて胃中に在(あ)るを以て、此れを風と為すなり。須(すべから)く下すべき者は、過經(かけい)すれば乃ち之を下すべし。之を下すこと若し早ければ、語言必ず亂る。
表虛し裏實するを以ての故なり。之を下せば愈ゆ。大承氣湯に宜し。八(前の第二方を用う。一に大柴胡湯と云う)。
【二一八条】
傷寒四五日、脉沈而喘滿。沈為在裏、而反發其汗、津液越出、大便為難。表虛裏實、久則讝語。
傷寒四、五日、脉沈にして喘滿(ぜんまん)す。沈は裏に在ると為す、而(しか)るに反って其の汗を發し、津液越出(えつしゅつ)し、大便難(がた)きを為し、表虛し裏實す。久しければ則ち讝語す。
二一九条】
三陽合病、腹滿、身重、難以轉側、口不仁、面垢(又作枯一云向經)、讝語、遺尿。發汗、則讝語、下之則額上生汗、手足逆冷。若自汗出者、白虎湯主之。方九。
三陽の合病、腹滿し、身重く、以って轉側し難く、口不仁し、面垢(あか)づき(又作枯一云向經)、讝語し、遺尿す。汗を發すれば、則ち讝語す、之を下せば則ち額上に汗を生じ、手足逆冷す。若し自汗出ずる者は、白虎湯之を主る。方九。
〔白虎湯方〕
知母(六兩) 石膏(一斤碎) 甘草(二兩炙) 粳米(六合)
右四味、以水一斗、煮米熟、湯成、去滓、一升温服、日三服。
知母(六兩) 石膏(一斤碎) 甘草(二兩炙) 粳米(六合)
右四味、水一斗を以て、煮て米熟し、湯成りて、滓を去り、一升を温服し、日に三服す。
【二二〇条】
二陽併病、太陽證罷、但發潮熱、手足漐漐汗出、大便難而讝語者、下之則愈、宜大承氣湯。十(用前第二方)。
二陽の併病、太陽の證罷(や)みて、但だ潮熱を發し、手足漐漐(ちゅうちゅう)として汗出で、大便難くして讝語する者は、之を下せば則ち愈ゆ、大承氣湯に宜し。十(前の第二方を用う)。
【二二一条】
陽明病、脉浮而緊、咽燥、口苦、腹滿而喘、發熱汗出、不惡寒反惡熱、身重。若發汗則躁、心憒憒(公對切)反讝語。若加温鍼、必怵惕煩躁不得眠。若下之、則胃中空虛、客氣動膈、心中懊憹。舌上胎者、梔子豉湯主之。方十一。
陽明病、脉浮にして緊、咽(のど)燥(かわ)き、口苦く、腹滿して喘し、發熱汗出で、惡寒せず反って惡熱し、身重し。若し汗發すれば則ち躁(そう)し、心憒憒(しんかいかい)として(公對切)反って讝語す。若し温鍼を加うれば、必ず怵惕(じゅってき)煩躁して眠を得ず。若し之を下せば、則ち胃中空虛し、客氣膈を動じ、心中懊憹(おうのう)す。舌上胎ある者は、梔子豉湯(しししとう)之を主る。方十一。
〔梔子豉湯方〕
肥梔子(十四枚擘) 香豉(四合綿裹)
右二味、以水四升、煮梔子、取二升半、去滓、内豉、更煮取一升半、去滓、分二服、温進一服。得快吐者、止後服。
肥梔子(十四枚擘く) 香豉(四合、綿もて裹む)
右二味、水四升を以て、梔子を煮て、二升半を取り、滓を去り、豉(し)を内(い)れ、更に煮て一升半を取り、滓を去り、二服に分かち、一服を温進す。快吐(かいと)を得る者は、後服を止む。
【二二二条】
若渴欲飲水、口乾舌燥者、白虎加人參湯主之。方十二。
若し渴して飲水せんと欲し、口乾き舌燥(かわ)く者は、白虎加人參湯之を主る。方十二。
〔白虎加人參湯方〕
知母(六兩) 石膏(一斤碎) 甘草(二兩炙) 粳米(六合) 人參(三兩)
右五味、以水一斗、煮米熟、湯成、去滓、温服一升、日三服。
知母(六兩) 石膏(一斤、碎(くだ)く) 甘草(二兩、炙る) 粳米(六合) 人參(三兩)
右五味、水一斗を以て、煮て米熟し、湯成りて、滓を去り、一升を温服し、日に三服す。
【二二三条】
若脉浮、發熱、渴欲飲水、小便不利者、猪苓湯主之。方十三。
若し脉浮、發熱、渴して飲水せんと欲し、小便不利する者は、猪苓湯(ちょれいとう)之を主る。方十三。
〔猪苓湯方〕
猪苓(去皮) 茯苓 澤瀉 阿膠 滑石(碎各一兩)
右五味、以水四升、先煮四味、取二升、去滓。内阿膠烊消。温服七合、日三服。
猪苓(ちょれい)(皮を去る) 茯苓 澤瀉(たくしゃ) 阿膠(あきょう) 滑石(かっせき)(碎(くだ)く、各一兩)
右五味、水四升を以て、先ず四味を煮て、二升を取り、滓を去る。阿膠を内(い)れて烊消(ようしょう)す。七合を温服し、日に三服す。
【二二四条】
陽明病、汗出多而渴者、不可與猪苓湯。以汗多胃中燥、猪苓湯復利其小便故也。
陽明病、汗出ずること多くして渴する者は、猪苓湯を與(あた)うべからず。汗多く胃中燥(かわ)くに、猪苓湯にて復た其の小便を利するを以ての故なり。
【二二五条】
脉浮而遲、表熱裏寒、下利清穀者、四逆湯主之。方十四。
脉浮にして遲、表熱し裏寒し、下利(げり)清穀する者は、四逆湯之を主る。方十四。
〔四逆湯方〕
甘草(二兩炙) 乾薑(一兩半) 附子(一枚生用去皮破八片)
右三味、以水三升、煮取一升二合、去滓、分温二服、強人可大附子一枚、乾薑三兩。
甘草(二兩炙る) 乾薑(一兩半) 附子(一枚、生を用い、皮を去り、八片に破る)
右三味、水三升を以て、煮て一升二合を取り、滓を去り、分かち温ため二服す、強人は、大附子一枚、乾薑三兩とすべし。
【二二六条】
若胃中虛冷、不能食者、飲水則噦。
若し胃中虛冷し、食すること能わざる者は、水を飲めば則ち噦(えっ)す。
【二二七条】
脉浮、發熱、口乾、鼻燥、能食者則衄。
脉浮、發熱、口乾き、鼻燥(かわ)き、能く食する者は、則ち衄(じく)す。
【二二八条】
陽明病、下之、其外有熱、手足温、不結胸、心中懊憹、飢不能食、但頭汗出者、梔子豉湯主之。十五(用前第十一方)。
陽明病、之を下し、其の外に熱有り、手足温(おん)にして、結胸せず、心中懊憹(おうのう)し、飢えて食すること能わず、但だ頭汗出ずる者は、梔子豉湯(しししとう)之を主る。十五(前の第十一方を用う)。
【二二九条】
陽明病、發潮熱、大便溏、小便自可、胸脇滿不去者、與小柴胡湯。方十六。
陽明病、潮熱を發し、大便溏(とう)し、小便自(おのずか)ら可(か)なり、胸脇滿ちて去らざる者は、小柴胡湯を與う。方十六。
〔小柴胡湯方〕
柴胡(半斤) 黄芩(三兩) 人參(三兩) 半夏(半升洗) 甘草(三兩炙) 生薑(三兩切) 大棗(十二枚擘)
右七味、以水一斗二升、煮取六升、去滓、再煎取三升、温服一升、日三服。
柴胡(半斤) 黄芩(三兩) 人參(三兩) 半夏(半升、洗う) 甘草(三兩、炙る) 生薑(三兩、切る) 大棗(十二枚、擘(つんざ)く)
右七味、水一斗二升を以て、煮て六升を取り、滓を去り、再煎して三升を取り、一升を温服し、日に三服す。
【二三〇条】
陽明病、脇下鞕滿、不大便而嘔、舌上白胎者、可與小柴胡湯。上焦得通、津液得下、胃氣因和、身濈然汗出而解。十七(用上方)。
陽明病、脇下鞕滿(こうまん)し、大便せずして嘔し、舌上白胎(はくたい)の者は、小柴胡湯を與うべし。上焦通ずるを得、津液下るを得、胃氣因(よ)りて和し、身濈然(しゅうぜん)として汗出で解す。十七(上方を用う)。
【二三一条】
陽明中風、脉弦浮大、而短氣、腹都滿、脇下及心痛、久按之氣不通、鼻乾、不得汗、嗜臥、一身及目悉黄、小便難、有潮熱、時時噦、耳前後腫、刺之小差、外不解。病過十日、脉續浮者、與小柴胡湯。十八(用上方)。
陽明中風、脉弦浮大にして短氣し、腹都(すべ)て滿ち、脇下及び心痛み、久しく之を按ずれども氣通ぜず、鼻乾き、汗を得ず、嗜臥(しが)し、一身及び目悉(ことごと)く黄ばみ、小便難(がた)く、潮熱有り、時時噦(えっ)し、耳の前後腫れ、之を刺せば小しく差(い)ゆれども、外解せず。病十日を過ぎ、脉續いて浮の者は、小柴胡湯を與う。十八(上方を用う)。
【二三二条】
脉但浮、無餘證者、與麻黄湯。若不尿、腹滿加噦者、不治。麻黄湯。方十九。
脉但(た)だ浮にして、餘證(よしょう)無き者は、麻黄湯を與う。若し尿せず、腹滿ちて噦(えつ)を加うる者は、治せず。麻黄湯。方十九。
〔麻黄湯方〕
麻黄(三兩去節) 桂枝(二兩去皮) 甘草(一兩炙) 杏仁(七十箇去皮尖)
右四味、以水九升、煮麻黄、減二升、去白沫、内諸藥、煮取二升半、去滓、温服八合。覆取微似汗。
麻黄(三兩、節を去る) 桂枝(二兩、皮を去る) 甘草(一兩、炙る) 杏仁(七十箇、皮尖を去る)
右四味、水九升を以て、麻黄を煮て、二升を減じ、白沫を去り、諸藥を内れ、煮て二升半を取り、滓を去り、八合を温服す。覆(おお)いて微(すこ)しく汗に似たるを取る。
【二三三条】
陽明病、自汗出。若發汗、小便自利者、此為津液内竭、雖鞕不可攻之。當須自欲大便、宜蜜煎導而通之。若土瓜根及大猪膽汁、皆可為導。二十。
陽明病、自汗出ず。若し汗を發し、小便自利する者は、此れ津液内に竭(つ)くると為す。鞕(かた)きと雖も之を攻むべからず。
當に須(すべから)く大便せんと欲は、蜜煎導(みつせんどう)にて之を通じるに宜し。若しくは土瓜根(どかこん)、及び大猪(だいちょ)膽汁(たんじゅう)、皆導(どう)を為すべし。二十。
〔蜜煎方〕(みつせんほう)
食蜜(七合)
右一味、於銅器内微火煎、當須凝如飴狀、攪之勿令焦著、欲可丸、併手捻作挺、令頭營鋭、大如指、長二寸許。當熱時急作、冷則鞕。以内穀道中、以手急抱、欲大便時乃去之。疑非仲景意、已試甚良。
又大猪膽一枚、瀉汁、和少許法醋、以灌穀道内、如一食頃、當大便出宿食惡物、甚效。
食蜜(七合)
右一味、銅器内に於て微火にて煎ず。當に凝(こ)りて飴狀(いじょう)の如くなるを須(ま)ちて、之を攪(かきま)わして焦げ著(つ)かせしむることなかれ。
丸ずべしと欲せば、手を併(あわ)せて捻(ひね)りて挺(てい)と作(な)し、頭をして鋭ならしめ、大きさ指の如く、長さ二寸許(ばか)りにす。當に熱き時に急に作(つく)るべし。冷ゆれば則ち鞕し。以て穀道の中に内れ、手を以て急に抱え、大便せんと欲する時は、乃ち之を去る。疑うらくは仲景の意に非ざるも、已に試みて甚だ良し。
又、大猪膽(だいちょたん)一枚、汁を瀉(そそ)ぎ、少し許(ばか)りの法醋(ほうさく)に和して、以て穀道の内に灌(そそ)ぐ。一食頃(いっしょくけい)の如きうちに、當に大便して宿食惡物(おぶつ)を出だすべし、甚だ效あり。
【二三四条】
陽明病、脉遲、汗出多、微惡寒者、表未解也、可發汗、宜桂枝湯。二十一。
陽明病、脉遲、汗出ずること多く、微惡寒する者は、表未だ解(げ)せざるなり、汗を發すべし、桂枝湯に宜し。二十一。
〔桂枝湯方〕
桂枝(三兩去皮) 芍藥(三兩) 生薑(三兩) 甘草(二兩炙) 大棗(十二枚擘)
右五味、以水七升、煮取三升、去滓、温服一升。須臾啜熱稀粥一升、以助藥力、取汗。
桂枝(三兩、皮を去る) 芍藥(三兩) 生薑(三兩) 甘草(二兩、炙る) 大棗(十二枚、擘く)
右五味、水七升を以て、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服す。須臾(しゅゆ)に熱稀粥(ねつきしゅく)一升を啜(すす)り、以て藥力を助け、汗を取る。
【二三五条】
陽明病、脉浮、無汗而喘者、發汗則愈、宜麻黄湯。二十二(用前第十九方)。
陽明病、脉浮、汗無くして喘(ぜん)する者は、汗を發すれば則ち愈ゆ。麻黄湯に宜し。二十二(前の第十九方を用う)。
【二三六条】
陽明病、發熱、汗出者、此為熱越、不能發黄也。但頭汗出、身無汗、劑頸而還、小便不利、渴引水漿者、此為瘀熱在裏、身必發黄、茵蔯蒿湯主之。方二十三。
陽明病、發熱し、汗出ずる者は、此れ熱越すと為(な)す、黄を發すること能わざるなり。但だ頭汗(づかん)出で、身に汗無く、頸(けい)を劑(かぎ)りて還(かえ)り、小便不利し、渴して水漿(すいしょう)を引く者は、此れ瘀熱裏に在りと為す。身必ず黄を發す。茵蔯蒿湯(いんちんこうとう)之を主る。方二十三。
〔茵蔯蒿湯方〕(いんちんこうとうほう)
茵蔯蒿(六兩) 梔子(十四枚擘) 大黄(二兩去皮)
右三味、以水一斗二升、先煮茵蔯、減六升。内二味、煮取三升、去滓、分三服。小便當利、尿如皁莢汁狀、色正赤、一宿腹減、黄從小便去也。
茵蔯蒿(いんちんこう)(六兩) 梔子(しし)(十四枚、擘く) 大黄(二兩、皮を去る)
右三味、水一斗二升を以て、先ず茵蔯(いんちん)を煮て、六升を減ず。二味を内(い)れ、煮て三升を取り、滓を去り、分かちて三服す。小便當に利すべし。尿皁莢(そうきょう)汁の狀の如く、色正赤(せいせき)なり。一宿にして腹減じ、黄(おう)小便從(よ)り去るなり。
【二三七条】
陽明證、其人喜忘者、必有畜血。所以然者、本有久瘀血、故令喜忘。屎雖鞕、大便反易、其色必黑者、宜抵當湯下之。方二十四。
陽明の證、其の人喜忘(きぼう)する者、必ず畜血(ちくけつ)有り。然(しか)る所以の者は、本(もと)久しく瘀血有るが故に喜忘せしむ。屎(し)鞕しと雖も、大便反って易く、其の色必ず黑き者は、宜しく抵當湯にて之を下すべし。方二十四。
〔抵當湯方〕
水蛭(熬) 蝱蟲(去翅足熬各三十箇) 大黄(三兩酒洗) 桃仁(二十箇去皮尖及兩人者)
右四味、以水五升、煮取三升、去滓、温服一升、不下更服。
水蛭(すいてつ)(熬る) 蝱蟲(ぼうちゅう)(翅足を去り、熬る。各三十箇) 大黄(三兩、酒もて洗う) 桃仁(とうにん)(二十箇、皮尖を去り、兩人に及ぶ者なり)
右四味、水五升を以て、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服す。下らざれば、更に服す。
【二三八条】
陽明病、下之、心中懊憹而煩、胃中有燥屎者、可攻。腹微滿、初頭鞕、後必溏、不可攻之。若有燥屎者、宜大承氣湯。二十五(用前第二方)。
陽明病、之を下し、心中懊憹(おうのう)として煩し、胃中に燥屎(そうし)有る者は、攻む可し。腹微(すこ)しく滿ちて、初頭(しょとう)鞕く、後必ず溏(とう)なるは、之を攻むべからず。
若し燥屎有る者は、大承氣湯に宜し。二十五(前の第二方を用う)。
【二三九条】
病人不大便五六日、繞臍痛、煩躁、發作有時者、此有燥屎、故使不大便也。
病人大便せざること五、六日、臍を繞(めぐ)りて痛み、煩躁し、發作時有る者は、此れ燥屎(そうし)有るが故に大便せざらしむるなり。
【二四〇条】
病人煩熱、汗出則解。又如瘧狀、日晡所發熱者、屬陽明也。脉實者、宜下之。脉浮虛者、宜發汗。下之與大承氣湯、發汗宜桂枝湯。二十六(大承氣湯用前第二方桂枝湯用前第二十一方)。
病人煩熱するは、汗出ずれば則ち解す。又、瘧狀(ぎゃくじょう)の如く、日晡所發熱する者は、陽明に屬するなり。脉實の者は、宜しく之を下すべし。脉浮虛の者は、宜しく汗を發すべし。之を下すに大承氣湯を與(あた)え、汗を發するに桂枝湯に宜し。二十六(大承氣湯は前の第二方を用い、桂枝湯は前の第二十一方を用う)。
【二四一条】
大下後、六七日不大便、煩不解、腹滿痛者、此有燥屎也。所以然者、本有宿食故也、宜大承氣湯。二十七(用前第二方)。
大いに下したる後、六、七日大便せず、煩解(はんげ)せず、腹滿痛する者は、此れ燥屎(そうし)有るなり。然る所以の者は、本(もと)宿食(しゅくしょく)有るが故なり。大承氣湯に宜し。二十七(前の第二方を用う)。
【二四二条】
病人小便不利、大便乍難乍易、時有微熱、喘冒(一作怫鬱)不能臥者、有燥屎也、宜大承氣湯。二十八(用前第二方)。
病人小便不利し、大便乍(たちま)ち難く乍(たちま)ち易く、時に微熱有り、喘冒(ぜんぼう)して臥(ふ)すこと能ざる者は、燥屎有るなり、大承氣湯に宜し。二十八(前の第二方を用う)。
【二四三条】
食穀欲嘔、屬陽明也、呉茱萸湯主之。得湯反劇者、屬上焦也。呉茱萸湯。方二十九。
穀を食して嘔せんと欲するは、陽明に屬するなり、呉茱萸湯(ごしゅゆとう)之を主る。湯を得て反って劇しき者は、上焦に屬するなり。呉茱萸湯。方二十九。
〔呉茱萸湯方〕
呉茱萸(一升洗) 人參(三兩) 生薑(六兩切) 大棗(十二枚擘)
右四味、以水七升、煮取二升、去滓、温服七合。日三服。
呉茱萸(ごしゅゆ)(一升、洗う) 人參(三兩) 生薑(六兩、切る) 大棗(十二枚、擘く)
右四味、水七升を以て、煮て二升を取り、滓を去り、七合を温服し、日に三服す。
【二四四条】
太陽病、寸緩、關浮、尺弱、其人發熱汗出、復惡寒、不嘔、但心下痞者、此以醫下之也。如其不下者、病人不惡寒而渴者、此轉屬陽明也。小便數者、大便必鞕、不更衣十日、無所苦也。渴欲飲水、少少與之、但以法救之。渴者、宜五苓散。方三十。
太陽病、寸緩、關浮、尺弱、其の人發熱して汗出で、復た惡寒し、嘔せず、但だ心下痞(ひ)する者は、此れ醫之を下すを以てなり。如(も)し其の下らざる者、病人惡寒せずして渴する者は、此れ陽明に轉屬(てんぞく)するなり。小便數の者は、大便必ず鞕く、更衣せざること十日なれども、苦しむ所無きなり。渴して飲水せんと欲するは、少少之を與う。但だ法を以て之を救う。渴する者は、五苓散に宜し。方三十。
〔五苓散方〕
猪苓(去皮) 白朮 茯苓(各十八銖) 澤瀉(一兩六銖) 桂枝(半兩去皮)
右五味、為散、白飲和、服方寸匕、日三服。
猪苓(皮を去る) 白朮 茯苓(各十八銖) 澤瀉(一兩六銖) 桂枝(半兩、皮を去る)
右五味、散と為し、白飲もて和し、方寸匕(ひ)を服し、日に三服す。
【二四五条】
脉陽微而汗出少者、為自和(一作如)也。汗出多者、為太過。陽脉實、因發其汗出多者、亦為太過。太過者、為陽絶於裏、亡津液、大便因鞕也。
脉陽微(ようび)にして汗出ずること少なき者は、自ら和すと為すなり。汗出ずること多き者は、太過と為す。陽脉實し、因りて其の汗を發するに、出ずること多き者は、亦(ま)た太過と為す。太過の者は、陽裏に絶すと為し、津液を亡(なく)し、大便因りて鞕きなり。
【二四六条】
脉浮而芤、浮為陽、芤為陰。浮芤相搏、胃氣生熱、其陽則絶。
脉浮にして芤(こう)、浮は陽と為し、芤は陰と為す。浮芤相い搏(う)ち、胃氣熱を生じ、其の陽則ち絶す。
【二四七条】
趺陽脉浮而濇、浮則胃氣強、濇則小便數。浮濇相搏、大便則鞕、其脾為約、麻子仁丸主之。方三十一。
趺陽(ふよう)の脉浮にして濇(しょく)、浮は則ち胃氣強く、濇は則ち小便數(さく)。浮濇(ふしょく)相い搏ち、大便則ち鞕し。其れ脾約と為す。麻子仁丸(ましにんがん)之を主る。方三十一。
〔麻子仁丸方〕
麻子仁(二升) 芍藥(半斤) 枳實(半斤炙) 大黄(一斤去皮) 厚朴(一尺炙去皮) 杏仁(一升去皮尖熬別作脂)
右六味、蜜和丸如梧桐子大。飲服十丸、日三服、漸加、以知為度。
麻子仁(ましにん)(二升) 芍藥(半斤) 枳實(半斤、炙る) 大黄(一斤、皮を去る) 厚朴(一尺、炙り、皮を去る) 杏仁(一升皮尖を去り、熬(い)り、別に脂と作(な)す)
右六味、蜜もて和して丸とし、梧桐子(ごどうし)大の如くす。十丸を飲服し、日に三服す。漸(ようや)く加えて、知るを以て度と為す。
【二四八条】
太陽病三日、發汗不解、蒸蒸發熱者、屬胃也、調胃承氣湯主之。三十二(用前第一方)。
太陽病三日、發汗して解せず、蒸蒸(じょうじょう)として發熱する者は、胃に屬するなり。調胃承氣湯之を主る。三十二(前の第一方を用う)。
【二四九条】
傷寒吐後、腹脹滿者、與調胃承氣湯。三十三(用前第一方)。
傷寒、吐して後、腹脹滿する者は、調胃承氣湯を與う。三十三(前の第一方を用う)。
【二五〇条】
太陽病、若吐、若下、若發汗後、微煩、小便數、大便因鞕者、與小承氣湯、和之愈。三十四(用前第二方)。
太陽病、若(も)しくは吐し、若しくは下し、若しくは汗を發して後、微煩(びはん)、小便數、大便因りて鞕き者は、小承氣湯を與え之を和すれば愈ゆ。三十四(前の第二方を用う)。
【二五一条】
得病二三日、脉弱、無太陽柴胡證、煩躁、心下鞕。至四五日、雖能食、以小承氣湯、少少與、微和之、令小安。至六日、與承氣湯一升。若不大便六七日、小便少者、雖不受食(一云不大便)、但初頭鞕、後必溏、未定成鞕、攻之必溏。須小便利、屎定鞕、乃可攻之、宜大承氣湯。三十五(用前第二方)。
病を得て二、三日、脉弱、太陽柴胡の證無く、煩躁し、心下鞕し。四、五日に至り、能(よ)く食すと雖も、小承氣湯を以て、少少與えて微(すこ)しく之を和し、小(すこ)しく安からしむ。六日に至らば、承氣湯一升を與う。若し大便せざること六、七日、小便少なき者は、食を受けずと雖も(一云不大便)、但だ初頭鞕く、後必ず溏し、未だ定まりて鞕を成さず。之を攻むれば必ず溏す。小便利し、屎(し)定まり鞕きを須(ま)ちて、乃ち之を攻むべし。大承氣湯に宜し。三十五(前の第二方を用う)。
【二五二条】
傷寒六七日、目中不了了、睛不和、無表裏證、大便難、身微熱者、此為實也。急下之、宜大承氣湯。三十六(用前第二方)。
傷寒六、七日、目中了了(りょうりょう)たらず、睛和(せいわ)せず、表裏の證無く、大便難く、身微熱する者は、此れを實と為すなり。急ぎ之を下す。大承氣湯に宜し。三十六(前の第二方を用う)。
【二五三条】
陽明病、發熱、汗多者、急下之、宜大承氣湯。三十七(用前第二方一云大柴胡湯)。
陽明病、發熱し、汗多き者は、急ぎ之を下す。大承氣湯に宜し。三十七(前の第二方を用う。一に大柴胡湯と云う)。
【二五四条】
發汗不解、腹滿痛者、急下之、宜大承氣湯。三十八(用前第二方)。
汗を發して解せず、腹滿痛するは、急ぎ之を下す。大承氣湯を宜し。三十八(前の第二方を用う)。
【二五五条】
腹滿不減、減不足言、當下之、宜大承氣湯。三十九(用前第二方)。
腹滿減ぜず、減ずるも言うに足らざるは、當に之を下すべし。大承氣湯に宜し。三十九(前の第二方を用う)。
【二五六条】
陽明少陽合病、必下利。其脉不負者、為順也。負者、失也。互相剋賊、名為負也。脉滑而數者、有宿食也、當下之、宜大承氣湯。四十(用前第二方)。
陽明と少陽の合病、必ず下利す。其の脉負ならざる者は、順と為すなり。負の者は、失なり。互いに相(あ)い剋賊(こくぞく)するを、名づけて負と為すなり。
脉滑にして數の者は、宿食有るなり。當に之を下すべし。大承氣湯に宜し。四十(前の第二方を用う)。
【二五七条】
病人無表裏證、發熱七八日、雖脉浮數者、可下之。假令已下、脉數不解、合熱則消穀喜飢、至六七日、不大便者、有瘀血、宜抵當湯。四十一(用前第二十四方)。
病人表裏の證無く、發熱すること七、八日。脉浮數と雖も、之を下すべし。假令(たと)えば已に下し、脉數解(げ)せず、熱を合すれば則ち消穀喜飢(きき)して、六、七日に至るも、大便せざる者は、瘀血有り。抵當湯に宜し。四十一(前の第二十四方を用う)。
【二五八条】
若脉數不解、而下不止、必協熱便膿血也。
若し脉數解せず、而(しか)も下(げ)止まざれば、必ず協熱(きょうねつ)して膿血(のうけつ)を便するなり。
【二五九条】
傷寒發汗已、身目為黄、所以然者、以寒濕(一作温)在裏不解故也。以為不可下也、於寒濕中求之。
傷寒、發汗已(おわ)り、身目(しんもく)黄を為す。然る所以の者は、寒濕(かんしつ)裏に在りて解せざるを以ての故なり。以て下すべからずと為すなり。寒濕中に於て之を求む。
【二六〇条】
傷寒七八日、身黄如橘子色、小便不利、腹微滿者、茵蔯蒿湯主之。四十二(用前第二十三方)。
傷寒七、八日、身黄(おう)なること橘子(きっし)の色の如く、小便不利し、腹微滿する者は、茵蔯蒿湯之を主る。四十二(前の第二十三方を用う)。
【二六一条】
傷寒身黄發熱、梔子檗皮湯主之。方四十三。
傷寒、身黄にして發熱するは、梔子檗皮湯(ししはくひとう)之を主る。方四十三。
〔梔子檗皮湯方〕
肥梔子(十五箇擘) 甘草(一兩炙) 黄檗(二兩)
右三味、以水四升、煮取一升半、去滓、分温再服。
肥梔子(十五箇、擘く) 甘草(一兩、炙る) 黄檗(おうばく)(二兩)
右三味、水四升を以て、煮て一升半を取り、滓を去り、分かち温め再服す。
【二六二条条】
傷寒瘀熱在裏、身必黄、麻黄連軺赤小豆湯主之。方四十四。
傷寒瘀熱裏に在り、身必ず黄す、麻黄連軺赤小豆湯(まおうれんしょうせきしょうずとう)之を主る。方四十四。
〔麻黄連軺赤小豆湯方〕
麻黄(二兩去節) 連軺(二兩連翹根是) 杏仁(四十箇去皮尖) 赤小豆(一升) 大棗(十二枚擘) 生梓白皮(切一升) 生薑(二兩切) 甘草(二兩炙)
右八味、以潦水一斗、先煮麻黄再沸、去上沫、内諸藥、煮取三升、去滓。分温三服、半日服盡。
麻黄(二兩節を去る) 連軺(れんしょう)(二兩、連翹根(れんぎょうこん)、是れなり) 杏仁(四十箇、皮尖を去る) 赤小豆(せきしょうず)(一升) 大棗(十二枚、擘く) 生梓白皮(しょうしんはくひ)(切る、一升) 生薑(二兩、切る) 甘草(二兩、炙る)
右八味、潦水(りょうすい)一斗を以て、先ず麻黄を煮て再沸し、上沫を去り、諸藥を内(い)れ、煮て三升を取り、滓を去る。分かち温め三服し、半日に服し盡(つく)す。
コメントを残す